日本で広がるASC認証の今
2018/05/28
宮城県産カキの半分がASCに!
ASC認証とは、水産養殖管理協議会(Aquaculture Stewardship Council)が管理運営する養殖に関する国際認証制度で、自然環境の汚染や資源の過剰利用の防止に加え、労働者や地域住民との誠実な関係構築を求めています。
今回カキ養殖で新たにASC認証を取得したのは、宮城県漁業共同組合の石巻地区支所、石巻東部支所、石巻湾支所の3支所が管理する51区画です。
この地区における2016年度のマガキ生産量は約800トン。
2016年にASC認証を取得した宮城県漁協志津川支所戸倉出張所の生産量と合わせると900トンを超え、これは宮城県で生産されるマガキの半数以上に相当します。
これまで出荷量や時期の関係で限定的だったASCカキですが、より一層身近になることが期待されます。
戸倉の経験が活かされた認証の拡大
ASC認証の審査にあたっては、規準書に書かれた要件の遵守状況を証明するために、さまざまな書類やデータを提示する必要があります。
規準書は日本の生産体制を前提に作成されていないため、要件の中には日本では一般的ではないもの、対応が難しいものも含まれています。
ASC認証を取得しようとする生産者は、ASCが掲げる「責任ある養殖」とは何かを理解し、規準書を解釈し、根拠となる説明資料を用意しなければなりません。
今回、石巻の3支所が審査を受けるにあたっては、生産者は戸倉出張所へのヒアリングなどを行ない、実際の審査で使われた資料を確認しました。さらに、カキ養殖による海底環境の汚染度調査や絶滅危惧種への影響評価ついては、東北大学や野鳥の会宮城県支部に協力をいただいていますが、これも戸倉の審査を通じて構築された協力体制で、戸倉の先進的な取り組みの波及効果と言えるでしょう。
宮城のカキのさらなる拡大に期待
今回、石巻の3支所が合同でASC認証を取得したことで、宮城県からのASCカキの出荷量が大幅に増加することが期待されます。
何より、宮城県は広島県に次ぐ国内第二位のカキ生産量を誇る産地。
今回のASC認証取得にあたり、宮城県漁業協同組合かき部会長の須田政吉氏は次のようなコメントを述べています。
「この度のASC認証取得については、石巻三支所のかき養殖業者がこれまで行ってきた、過密養殖の抑制や、海底清掃等の資源管理活動が評価されたと感じており、誇らしく思っています。また、取得に至るまで多くの方々にご協力いただきました事を深く感謝申し上げます。今後は、世界的な水産養殖物の需要が高まる中で漁業者自らが地域や環境に対して配慮した経営を行い、豊かな恵みを育む石巻の漁場環境を次世代に引き継いでいく事、そして生産物を消費者の方々の元に届け続けていく事、こうした思いをASC認証という形で可視化し、我々の基幹産業であるカキ養殖業をさらに力強く、持続可能性のある産業に発展させることができるものと期待しています。」
宮城県の生カキ出荷は5月末までなので、今回新たにASC認証を取得した石巻のカキを食べる機会はかなり限定的ですが、来シーズンは10月からの大手小売店や飲食店に向けて出荷開始を予定しているとのことで、ASCカキがより身近なものとなるでしょう。
ブリ類でも広がるASC認証
ブリでは2017年12月に、黒瀬水産株式会社(宮崎県)とグローバル・オーシャン・ワークス株式会社(鹿児島県)の2社がASC認証を取得しました。
今回これに続くのがマルハニチロ株式会社の連結子会社である株式会社アクアファーム(大分県)です。
ブリ(ハマチ)は日本で最も多く養殖されている魚で、カンパチなどを含めると国内で養殖される魚種の約6割に相当し、世界のブリ類養殖生産量のおよそ9割を日本は占めています。
国内の水産物需要が縮小傾向にある中、世界的には水産物の消費量は拡大し続けていることから、輸出による消費増が期待されています。
日本のASCブリを海外へ
今回のブリのASC認証取得を受けて、アクアファームの内藤信二代表取締役社長は、今回の認証取得を受け、次のようにコメントしています。
「今後は、国内での販売に加え、海外への輸出を視野に生産を行ってまいります。またアクアファームでは本認証取得に留まらず、さらなる飼料効率の改善・環境への配慮を行うことで、よりおいしいブリを国内外のお客さまに提供してまいります」
今回のASCブリの出荷は今年の秋ごろを予定しているとのことですが、順調に出荷が開始されれば、国内はもとより日本のASCブリの輸出がより本格化することが期待されます。
ASCブリの普及にむけたさらなる改善
魚類養殖は海藻や二枚貝の養殖と比較すると、給餌と投薬作業があること、排泄物や残餌による環境汚染が進行しやすいことから、ASC規準との格差が生じやすい特徴があります。
日本でASC規準に即した「環境と社会に対し責任のある養殖業」が普及するためには、日本を代表する養殖魚であるブリ類で、いかにこれらの格差をなくしていくかが鍵となります。
しかしながら、これらの課題の克服は、個々の生産者が自助努力を重ねるだけでは困難で、関連企業、研究機関、行政機関との連携はもちろん、環境と社会に配慮した養殖業に対するマーケットと消費者の関心と理解が重要となります。
2020年の東京オリンピックにむけて
東京オリンピック・パラリンピック大会の開催まであと2年余りとなりました。
オリンピックはスポーツの祭典ですが、日本の持続可能な社会に向けた取り組みが国際的に評価される機会ともなります。
巨大なイベントの開催で消費されるエネルギー、資材、食料は膨大です。
この大量消費による環境・社会への影響を可能な限り低減するために、大会で消費されるエネルギー、資材、食料には高い水準の持続可能性が求められています。
水産物に関して先のリオ大会では、大会事務局が供給する水産物はASCならびにMSC認証を取得したもののみとするという目標を掲げ、結果75%が認証水産物で賄われました。
東京大会の調達コードでは、ASCおよびMSC認証に加えて、国内認証さらには管理計画を有する漁業由来の水産物も供給可能となっており、これらを用いながらどのようにして高い持続可能性を担保するかが課題となっています。
WWFはASC認証が持続可能性の高い制度として普及発展するよう、さまざまな関係者と意見交換を進めるとともに、責任ある養殖を目指す生産者の取り組みを支援していきたいと考えています。