【動画あり】タイ最大の国立公園でトラの調査を開始
2018/12/20
【動画】マエ・ウォン国立公園とクロン・ラン国立公園の調査で撮影されたトラの親子の映像
タイ・ミャンマー国境に広がる生物多様性の宝庫
タイとミャンマー国境に残る広大な森林。
WWFは、約18万平方キロメートル(日本の面積の約半分)に及ぶこの地域をダウナ・テナセリウム・ランドスケープと名付け、優先保護地域の1つとしています 。
この地域は、依然として8割以上が森林に覆われており、トラやヒョウといった8種の野生のネコ科動物の他、アジアゾウやマレーグマといった絶滅危惧動物の重要な生息地となっています。
中でも、東南アジアの大陸部に生息するトラの亜種インドシナトラは2015年の段階でカンボジアでは既に絶滅、ベトナムでは5頭以下、ラオスでは2頭と推定されており、繁殖可能な個体群はタイとミャンマーにしか残されていません。
約100頭のトラが生息する北部地域
ダウナ・テナセリウム・ランドスケープは、保護区が集中しているエリアが北部と南部に分かれています。
北部には11の国立公園と6つの保護区が集まっており、すべ合わせると、1万8,000平方キロメートルに及ぶ森林地帯を形成しています 。
その中でWWFは、タイの国立公園当局と協力して、2012年からマエ・ウォン国立公園とクロン・ラン国立公園でインドシナトラの調査を継続的に実施 。
2015年11月から2016年10月までの1年間にもこの2つの国立公園内の82か所に164機の自動撮影カメラを仕掛けて調査をした結果、オスの成獣4頭、メスの成獣6頭、幼獣6頭の計16頭を確認しました 。
この北部一帯の地域では、WWF以外の環境保全団体もトラの調査を行なっており、地域全体では100頭前後の成獣が生息していると推測されています 。
トラの個体数が不明の南部地域
一方、ダウナ・テナセリウム・ランドスケープの南部には、タイ最大のケーン・クラチャン国立公園を中心とする、4,800平方キロメートルに及ぶ森林地帯が広がっています 。
しかし、この一帯では、これまでに十分なトラの調査が行なわれておらず、同地域に何頭のトラが生息しているのか未だ明らかになっていません。
ケーン・クラチャン国立公園では、過去に自動撮影カメラで数頭のトラが撮影されたことがありましたが、系統立った調査は行なわれておらず、トラの個体数は不明のままでした。
WWFがトラの調査を開始
そこで、2017年にWWFジャパンはWWFタイと協力して、ケーン・クラチャン国立公園でトラの調査を実施することを決定。
その後、国立公園当局から調査許可を取得し、国立公園レンジャーに対する調査トレーニングを実施しました。
そして、2018年6月、国立公園の中心部30か所に60機の自動撮影カメラを仕掛け、本格的な調査を開始しました。
調査対象区域は、過去のパトロールからトラの足跡や糞などの痕跡が最も多く見つかっている場所を優先的に選択。
対象区域の個体数が特定できたら、次の区域にカメラを移し、国立公園内を順次調査する予定です。
両国にまたがる保全計画の策定を目指して
WWFでは今後、ケーン・クラチャン国立公園と国境をはさんで隣り合う、ミャンマーのタニンダーリ国立公園予定地でもトラの調査を開始する予定です。
トラは国境関係なく、2つの国立公園を行き来している可能性が高いため、WWFでは双方の国立公園における個体数や生息域を明らかにし、両国にまたがる保全計画を策定することを目指しています。
これらの取り組みは、ダウナ・テナセリウム・ランドスケープの広域を視野に入れた保全の第一歩となるものです。
国立公園を中心としたこれらの森林地帯は、今のところ良好な自然環境が広くまとまった規模で残されている場所ですが、今後、周辺地域での開発などによる影響が懸念される地域でもあります。
特に、ミャンマー側で急激に拡大している天然ゴム農園は、北部と南部の保護区をつなぐ重要な森林を脅かす大きな要因となっています。
ここで生産される天然ゴムは、日本にも輸入され利用されることが予測されており、日本での暮らしとも無関係ではありません。
こうしたことから、WWFジャパンはWWFミャンマーと協力して、ミャンマー側でも森林保全と持続可能な天然ゴム生産のプロジェクトを実施しています。
世界的にも貴重な自然が残るこの地域の森と、トラをはじめとする希少な野生生物を守っていくために、WWFでは国境を越えた立場から保全の取り組みを進めてゆきます。