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世界の生物多様性は60%を喪失 WWF『生きている地球レポート2018』を発表

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2018年10月30日、WWFは『Living Planet Report:生きている地球レポート2018』を発表しました。2年に一度発表しているこの報告書では、世界の生物多様性の消失状況と、人類の消費による地球環境への負荷の増大を明らかにしています。世界の生物多様性は過去40年間で60%減少、一方、人類の消費による地球環境への負荷は過去50年間で190%増加しました。自然がもたらすサービスの経済的価値は、年間約1京4000億円と推定されます。WWFは、「今」が地球と人類の未来を左右する重要なときであり、本気で問題解決に取り組むことを呼びかけています。

世界の生物多様性の豊かさは60%が消失

多くの野生生物の生存にとって、そして人類の健康と暮らしにとって、健全な地球環境は欠くことができないものです。
気候が不安定になったり、土地が劣化したり、海や森が作りだすものがなくなったりしたら、野生生物はもちろん人類もまた健康かつ豊かに暮らすことはできません。
健全な地球環境とは、いわば地球上の生命のつながりである生物多様性が維持され、さまざまな生物種、遺伝子、生態系が保たれている状態を示すといってよいでしょう。
しかし今、その生物多様性が非常なスピードで失われています。
WWFは2018年10月30日に発表した『生きている地球レポート2018』の中で、その現状を明らかにしました。

Living Planet Report 2018

その内容は、人間の活動が野生生物、森林、海洋、川、気候に与える影響を示すものであり、同時に今、急いで行動しなければ、地球環境の未来は取り返しのつかない事態になることを示しています。

『生きている地球レポート』で、その代表的な指標の一つと定めている、「生きている地球指数(LPI)」は、まさにこの生物多様性の危機を測るものといえます。
これは、陸、淡水、海、さまざまな自然の中で生きる、脊椎動物の個体群サイズの変動率から計算した指数で、今回の報告書では特に、調査対象となった代表的な哺乳類、鳥類、爬虫類、両生類、魚類の個体群が、1970~2014年の間に平均60%減少したことがわかりました。
この指数のもとになっているのは、世界の4,000種を超える哺乳類、鳥類、爬虫類、両生類、魚類の合計1万6,000以上の個体群のデータです。

人類は一年間に地球「1.7個分」の資源を使っている?

生物多様性を脅かしている最大の要因は、野生生物の生息地の消失と劣化です。
さらに木材や紙、シーフードといった自然資源の過剰な利用、気候変動(地球温暖化)、外来生物、汚染などの影響が指摘されています。
背景にあるのは、かつてない規模に拡大している人間の活動。
その規模を示す「エコロジカル・フットプリント」は、さまざまな人間活動が、地球環境に与えている圧力の大きさを表すものです。
この数値は、過去40年間に上昇し続け、地球が一年間に供給できる本来の「生物生産力(バイオキャパシティ)」を超過し続けてきました。
「生物生産力(バイオキャパシティ)」には当然、地球1個分という「限界」があります。
しかし、2014年の時点で人間は一年間で、実に地球1.7個分の自然資源を消費するようになりました。
この「使い過ぎ」にあたる分は、自然の恵みを生み出している、環境の母体そのものを食いつぶすことによって得られているものです。
この状況が続けば、恵みを生み出す母体そのものがきわめて深刻な事態に陥り、人類をはじめ多くの野生生物が生存の危機にさらされることになります。

インド、ジャンム・カシミール州ラダック東部、ヘミス国立公園、ユキヒョウ(Panthera uncia)
© National Geographic Stock - Steve Winter - WWF

インド、ジャンム・カシミール州ラダック東部、ヘミス国立公園、ユキヒョウ(Panthera uncia)

実際にこうした資源の使い過ぎによって生じる問題は深刻で、例としては、過去50年間で、開発や養殖により、その30~50%が減少したとされる、世界のマングローブの森が挙げられます。さらに、浅海域のサンゴ礁も、過去30年間で半分が消失したと推測されています。

一方で、自然のもたらす、空気、水、食料、エネルギー、医薬品などに関係したサービスは、地球全体で年間、約1京4,000兆円(125兆米ドル)にのぼると推定されています。
たとえば、花粉を媒介する野生のハチのような受粉動物の働きによって生産されている穀物の生産額の価値は、世界全体で年間、約26兆3,200~64兆6200億円(2,350〜5,770億ドル)に相当するとみられています。

アカオマルハナバチ(Bombus lapidarie)は広範囲に一般的に生息するマルハナバチのー種
© Ola Jennersten - WWF-Sweden

アカオマルハナバチ(Bombus lapidarie)は広範囲に一般的に生息するマルハナバチのー種

2020年までに何をなすべきか

環境への負荷を減らし、生物多様性の劣化を示す下降の傾向を上向きにするためには、人類が自然の再生する力を考慮し、環境に配慮した資源やエネルギーの消費を実現する「持続可能な未来」を築く必要があります。
その実現に向けた国際的な目標も、すでにいくつか確かなものとなっています。
たとえば、2020年までの取り組みとして重要なものとしては、次のものがあります。

  • 持続可能な開発目標(SDGs)
  • パリ協定
  • 生物多様性条約(CBD)愛知目標など

これらはいずれも、人類が自然を保護し回復させるチャンスといえるでしょう。
2018年11月にエジプトで開催される第14回CBD締約国会議では、各国がこの問題の緊急性を十分に認識し、積極的かつ効果的な国際取り組みの実現に向けた検討が行なわれます。

生物多様性の損失を表す予想図。今後の積極的な取り組み次第で、下降線を上昇線に変えることができる可能性を示しています。

生物多様性の損失を表す予想図。今後の積極的な取り組み次第で、下降線を上昇線に変えることができる可能性を示しています。

2018年夏、日本では、猛暑、豪雨、強風被害など、いままで経験したことがない異常気象に遭遇しました。
こうした災害は今、世界の各地でも同様に生じ、深刻な被害をもたらしていますが、これらは地球温暖化の影響により頻度が増えたり、強力になっているといわれています。
日本は今も、地球温暖化の主な原因である二酸化炭素(CO2)の排出量が世界で第5位の国。
また、水産物(シーフード)の輸入額は世界第2位(2016、FAO)、木材自給率は33%(2015,林野庁)と、日本での生活は、世界の自然に大きく依存する一方で、国内外を問わず、地球環境に負荷をかけていることが分かっています。
もし世界の人々が、今の日本と同じ水準で生活をしたとしたら、地球の自然資源は、2.8個分に相当する量が必要となります。

今回の報告書の発表にあたり、WWFは、環境と自然資源を保全・維持し続けていくために、消費や生産の方法を大きく見直す時期に来ていることを訴えました。
国には、環境保全に関する国際的な枠組みへの積極的な参加と実践を。
企業には、自社の調達方針の見直しと、温暖化対策への真剣な取り組みを。
市民には、環境に配慮した製品の選択や、過剰な利用、ゴミの廃棄の見直しなどを。
今、すべての人々が、それぞれの立場で可能な行動を、すぐにも取ることが求められています。

生きている地球レポート2018(LPR2018)

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