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トカゲモドキ属とイボイモリがワシントン条約掲載へ

この記事のポイント
沖縄・奄美の固有種であるトカゲモドキ属6種とイボイモリが、絶滅のおそれのある野生生物の国際取引を規制するワシントン条約附属書IIIに初めて掲載されます。この実現により、ペットとして海外でも取引されている、希少な日本の野生動物の取引規制が強化されることになります。今回の掲載の意義と今後の課題について解説します。

トカゲモドキ属イボイモリ掲載の背景と経緯

2020年11月6日、環境省が、ワシントン条約(絶滅のおそれのある野生動植物の種の国際取引に関する条約)事務局に対し、沖縄・奄美の固有種であるトカゲモドキ属6種とイボイモリを附属書Ⅲ(3)へ掲載することを要請しました。

これを受けて11月16日に条約事務局から締約国へ通知され、その90日後である2021年2月14日に、これらの種が正式にワシントン条約附属書Ⅲへ掲載されることになりました。

今回掲載されることになるのは次の7種で、いずれも沖縄・奄美の森林に生息する固有種です(以下まとめて「対象7種」といいます)。

分類  和名  学名

  1. トカゲモドキ科トカゲモドキ属 クロイワトカゲモドキ Goniurosaurus kuroiwae
  2. 同属 マダラトカゲモドキ Goniurosaurus orientalis
  3. 同属 ケラマトカゲモドキ Goniurosaurus sengokui
  4. 同属 オビトカゲモドキ Goniurosaurus splendens
  5. 同属 イヘヤトカゲモドキ Goniurosaurus toyamai
  6. 同属 クメトカゲモドキ Goniurosaurus yamashinae
  7. イモリ科イボイモリ属 イボイモリ Echinotriton andersoni
沖縄本島やんばるに生息するクロイワトカゲモドキ
©Taichiro Oda

沖縄本島やんばるに生息するクロイワトカゲモドキ

奄美・徳之島に生息するオビトカゲモドキ
©Taichiro Oda

奄美・徳之島に生息するオビトカゲモドキ

久米島に生息するクメトカゲモドキ
©Nozomi Murayama

久米島に生息するクメトカゲモドキ

対象7種を含む南西諸島に生息する両生類・爬虫類について、WWFの野生生物取引監視部門TRAFFICは、2018年に取引状況の調査を実施しました。

いずれも絶滅のおそれが高く、国内で捕獲・取引が禁止されているにも関わらず、海外でペットとして取引されていることが明らかになったことから、政府やペット事業者、地元関係者に対策を求める呼びかけを開始しました。

さらに、2019年5月、日本政府に対し、対象7種を含む南西諸島の希少種をワシントン条約附属書IIIに掲載することを求める要望書を提出し、その後も掲載に向けた働きかけを続けてきました。

WWF/TRAFFICは、今回の環境省によるワシントン条約事務局への要請と、それにより実現する国内の野生生物として初の附属書III掲載を、希少な野生生物の密猟や違法取引を防止するための前進として、歓迎します。

ワシントン条約付属書III掲載の意義

対象7種は「一部の島にしか生息しない種、あるいは生息に特殊な環境タイプを必要とする」南西諸島に固有の野生生物で(レッドデータおきなわ第3版)、いずれも絶滅のおそれが高い種として、環境省およびIUCNのレッドリストに掲載されています。

個体数が減少している原因として、生息地の減少や外来種の影響に加えて、国内外でペットとして人気があり、それゆえに密猟・違法取引の対象となっていることが指摘されています。

そこで国内では、種の保存法(絶滅のおそれのある野生動植物の種の保存に関する法律)の国内希少野生動植物種に指定されており、捕獲、国内での取引、輸出入が法律で禁止されています。

また沖縄県と鹿児島県の天然記念物にも指定され、条例でも捕獲等が禁止されています。

こうした国内規制に加えて、今回対象7種がワシントン条約附属書IIIに掲載されることには、主に2つの意義があると考えます。

意義その1:海外での取引に規制がかかる

第1に、今までのルールのもとでは、対象7種がいったん日本国外へ持ち出されてしまうと、他国へ輸入されたり、他国内で取引されていても、これを規制するすべがありませんでした。

ワシントン条約附属書IIIは、条約締約国が自国に生息する野生生物をまもるために他の締約国に協力を求めるものです。

対象7種がワシントン条約附属書IIIに掲載されると、これらの種を輸出する際には、日本産の場合は日本政府の発行する輸出許可書が、他国産の場合は原産地証明がそれぞれ必要となります。

日本の法令で捕獲等が禁止されている対象7種について日本政府が輸出許可書を発行することは原則ないので、今後は対象7種が他国へ輸入されたり、他国内で取引されることを規制する道が開かれました。

意義その2:同分類群の保護への波及効果

第2に、対象7種の国際取引がワシントン条約で規制されることによって、日本に生息する対象7種だけではなく、世界各地に生息する同分類群のトカゲモドキ・イボイモリが全体として保全される効果が期待されます。

トカゲモドキ属やイボイモリ属の近縁種は、南西諸島だけではなく、ベトナムや中国など海外にも生息しています。

これらの種の判別は専門家でないと難しいことも多く、種ごとに取引の規制状況が異なることは、種や生息地に関する虚偽申告に基づく違法取引を可能にし、密猟や密輸の現場での監視・取締りを困難にします。

2019年に開催されたワシントン条約第18回締約国会議(CoP18)では、中国とベトナムに生息するトカゲモドキと中国のイボイモリを附属書IIに掲載することが全会一致で可決されました。

これにより、中国産とベトナム産のトカゲモドキとイボイモリについては、輸出国政府の発行する輸出許可書がなければ国際取引ができなくなりました。

一方で、日本の対象7種については国際取引が規制されていないため、中国産・ベトナム産のこれらの種を日本産と偽って取引されるリスクが指摘されていました。

また、ペットとして人気のあるこれらの取引市場において、海外では規制の及ばない日本産のトカゲモドキとイボイモリに対し取引の需要が増大し、これらの捕獲圧が高まることが懸念されていました。

今回の附属書III掲載実現により、これらのリスクや懸念が払しょくされ、それによりトカゲモドキとイボイモリ全体の保全につながる効果が期待されます。

国内希少種をまもる上で今後の課題

今回対象7種のワシントン条約附属書III掲載が保全上プラスとなることは明らかですが、これらの種を含む日本の希少な野生生物を密猟や違法取引から守るには、重要な課題が残されています。

今回の附属書III掲載によって、対象7種の取引に対し、密輸・違法取引として規制することが可能になりました。

しかし、条約や法令の規制は、執行されることによって初めて、その抑止効果が発揮されるものです。

実際、対象7種を含む日本の野生生物の密猟や密輸・違法取引が摘発された事例は未だ非常に少ないのが現状です。

今後は、現場での有効な監視・取締りと、法の適正な執行を実現していくことが重要となります。

また今回ワシントン条約附属書IIIに掲載されるのは上記の対象7種のみですが、日本固有の希少な野生生物で、海外で密輸や違法取引の対象となっている種は他にも存在します。

これらの種に対しても、国際取引を有効に規制し、生息地での密猟行為を抑止していくためには、ワシントン条約へ掲載していくことが重要となります。

WWFジャパンでは、現地の様々な主体と協力して、希少な野生生物の密猟・持ち出し・違法取引の抑止のための活動を進めます。

また、法執行の強化とともに、未だ法令や条約の保護が及んでいない野生生物をまもるための提案や働きかけも引き続き行っていきます。

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