ユキヒョウと家畜。どちらも守るべき存在に。
2024/11/15
ユキヒョウの生息地、西ヒマラヤのラダック。
今、この地ではユキヒョウが絶滅の危機にあります。
特に、大きな問題となっているのは、ヒツジやヤギなどの家畜の過放牧です。
放牧地の拡大などによって、ユキヒョウの獲物となる草食動物が減少。さらに、ユキヒョウが家畜を襲い、害獣として駆除される、という問題も起こっています。
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チャンタン地域のハンレは、家畜への被害が多く確認されている場所です。2022年の地域住民のインタビュー調査によると、1年間に死亡した家畜の死因の3割がユキヒョウやオオカミに襲われたことによるものでした。
ユキヒョウや基本的に夜行性。
夜間、ヒツジやヤギが休んでいる間に襲います。
つまり、家畜を守るためには、家畜を囲う柵を強化し、ユキヒョウの進入を防ぐことがカギとなります。
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一般的なコラル。コラルの高さは1メートル程度のため、ユキヒョウやオオカミが容易に飛び越え、中へ入り込むことができます。
そこで、WWFは、家畜の被害を防ぐ対策のひとつとして、ユキヒョウなどの肉食動物を防除するよう強化した「コラル(家畜囲い)」の設置を支援しています。今回、私が視察したこのコラルは、ユキヒョウの習性に対応した設計がされていました。
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WWFが設置を支援したコラル。2メートルを超える高さまで金網が張り巡らされています。下段は石が組まれコンクリートで強化され、ユキヒョウが地面を掘ってコラルの下から侵入するのを防いでいます。
強化されたコラルを使用している住民からは、「このコラルを使うようになってから家畜は襲われていない。さらに、夜間の見回りなどの負担もなくなり、安心して休めるようになった」という話が聞けました。
また、コミュニティのリーダーからは「ユキヒョウやオオカミに対して怒りや憎しみが薄れ、守るべき存在だと思う気持ちが増した」という嬉しい言葉もありました。
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野生動物の保全には、地域住民の理解と協力が欠かせません。
住民の中でユキヒョウへの保全への意識が高まったことは、今後の活動を継続するうえでも大きな意味を持ちます。
また、こうした気持ちの変化をもたらすためには、現地のスタッフの根気強い対話や働きかけ、問題を解決に導く対応があったことを忘れてはなりません。
私たちはこれからも、現地のスタッフと協力して、保全に取り組む仲間を増やし、その輪を広げていきます。
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強化されたコラルを使用している住民(左)にインタビューするWWFスタッフ(中央、右)