「渡り」をする野生動物の危機:国連が報告書を発表
2024/02/20
2月12日から17日まで、ウズベキスタンのサマルカンドで「移動性野生動物種の保全に関する条約(通称:ボン条約)」の第14回締約国会議(CMS COP14)が開催されました。
この「ボン条約」は、ドイツのボンで採択され、1983年に発効した国際条約で、渡り鳥をはじめ、海洋を回遊する鯨類やウミガメ類、魚類、昆虫類など、地球規模で「渡り」をする移動性の野生動物を保全することを目的とした国際条約です。
今回のCOP14が開幕した12日、国連は世界で初の「渡り」をする野生動物の現状を明らかにした報告書を発表。
同条約の附属書に掲載されている野生動物1,189種のうち、44%について個体数の減少傾向が見られ、22%が絶滅の危機にあることを明らかにしました。

アフリカの広大なサバンナを、国境を越えて移動するアフリカゾウも、ボン条約の附属書に名を連ねる野生動物の一種です。
特に影響が深刻とされたのは、アホウドリ類やミズナギドリ類などの海鳥や、サメ、エイなどの魚類です。
これらの野生動物を追い詰めている主な原因は、海中で誤って漁網などにかかり命を落とす「混獲」、そして過剰な漁獲など。
さらにこの他にも、気候変動による環境の変化や、生息地の悪化や消失といった危機の要因が指摘されました。

今回の報告書では、生息地について、ボン条約の附属書の掲載種にとって重要な生息地とされる地域の51%が保護区などの指定を受けておらず、また調査対象となった地域の58%では、開発などによる非持続可能な圧力が生じているなど、深刻な現状が明らかになりました。
「渡り」をする生きものたちは、人が引いた国境を越え、遠く離れた場所の自然をつなぎ、一つの生態系として織りなす、大切な役目を担っています。
それを守り、地球全体の視野に立って生物多様性を保全していく上で、「ボン条約」は国際的にも重要な役割を担う条約といえるでしょう。
残念ながら、日本はいまだにこの条約には加盟していません。
しかし、日本もまた、多くの渡り鳥や回遊する魚たちがやってくる重要な国の一つ。
その意味と、価値と、責任を忘れることなく、こうした世界の取り組みへの参画を求めていきたいと思います。

報告書では気候変動による影響も指摘されました。東アフリカのサバンナに生息し、群で移動してくらす絶滅危惧種のリカオンは、気温の上昇に伴い、捕獲する獲物の量と、育つ仔の数が少なくなる傾向が指摘されました。気候変動対策は、今や重要な野生動物保護の柱の一つになりつつあります