©WWFジャパン

「辛くても、やらなくてはと思う仕事。」再生可能エネルギー普及担当インタビュー(後編)


WWFってパンダマークの動物を保護している団体?
いえいえ、もっといろいろやっています。知っているようで知らないWWFのこと。WWFスタッフが語る、仕事のこと、働いている人たちのこと、これからのこと・・・。
なかなかお伝えできていないお話しを、WWFジャパンスタッフへのインタビューという形式でお伝えいたします!

今回は、自然保護室 気候・エネルギーグループに所属する市川大悟です。(後編)

自然保護室気候・エネルギーグループ市川大悟
©WWFジャパン

自然保護室気候・エネルギーグループ 国内での再生可能エネルギーの普及プロジェクトを主に担当
市川大悟

子どもの頃にどっぷり遊び漬かった田舎の原風景。その自然をこれからも残したいと考えてWWFに。元々は、畑違いのエンジニアですが、逆に培った経験を糧に、エネルギー面から環境問題の解決に貢献したいと考えています。人と自然が共存できる社会を、皆さんにお見せできるよう、これからも頑張っていきます!

環境問題の取り組みには調整役が必要

©@エコみらい

——環境保全の仕事は、知識だけじゃなくコミュニケーションスキルも必要なお仕事なのですね。

環境問題ってそれぞれの事情がぶつかるところの話でもあるので。相手の話をきちんと聞いて、話の落とし所や、適切な誘導ができるような人が求められているかもしれません。

——それぞれの事情がぶつかる?

例えば、風力発電設備を建てることは、温暖化防止のためには良いことですけれど、コミュニケーションや、情報の不足などで、地域関係者の充分な理解が得られないまま、建設されてしまえば、景観は変わるし、騒音は出るし、建設で森が壊されてしまえば、野生生物の生息域にも影響を及ぼし、地域住民との軋轢が起こる可能性もあるとなれば、反対意見が出てきます。

一方で、建設候補地の所有者は、設備を建てることで経済的なメリットが見込まれるため、開発を進めたいと考えます。

関係者のそれぞれの背景や主張が異なる状態では、トラブルになって、議論がまとまらないこともあるため、私たちの仕事はお互いに理解をしていただけるような、“橋渡し役”に近いと考えています。

——第三者としての役割が必要なのですね。

協議の現場で、コーディネータとして働くこともあれば、地域関係者に呼びかけ、講演会やシンポジウムを開き、お互いの気持ちを理解できるような機会を作って、その後の協議が円滑に進むようにすることも大切な仕事の一つですね。

——実際に市川さんがアプローチして地域の問題が解決した事例はありますか?

2017年5月まで、徳島県鳴門市で取り組んでいた、ゾーニングのモデル作りですね。鳴門市はいい風が吹く場所なので風力発電の事業話がくるのではと言われていました。

そこで私たちは地域の人たちの意見を聞きながら、地域関係者と協力して、約3年かけてゾーニングマップを作り、市のウェブサイトで公開していただきました

その結果、風力発電事業者にマップを見ていただくことができ、地域での大きなトラブルは発生せず、風力発電に不適合とマッピングされた地域には、現時点で施設は建てられていません。

また、関係省庁と情報交換をして、政策提言をすることも私たちの仕事の一部なのですが、その成果として、現在では、環境省が全国の自治体にゾーニングの実施を推奨するために、マニュアルを作って公開しています。適切な自然エネルギーの普及には、行政の協力は不可欠なため、重要な支えとなっています。

ゾーニング取組自治体

ゾーニング取組自治体

——環境問題はそれぞれの利権がぶつかるところの話、というのは動物の生息地の保護にも通じる話ですね。それゆえに、環境問題に関わる仕事は、知識とコミュニケーション能力が問われるのかもしれません。

辛くても、やらなくてはと思う仕事

徳島県の剣山

徳島県の剣山

——市川さんがこの仕事で感じるやりがいや、よろこびはどんなことですか?

うーん。なんですかね…。だいたい私の仕事の性質上、トラブルが多いところに行くので楽しい仕事ではないですけど(笑)。

開発で壊されてしまったかもしれない場所が、ゾーニングマップを作ったことで壊されずに済んで今も残っている状況は、よかったなとしみじみ思います。地味なよろこびですけど。あるものがあるように残るのが嬉しいことですかね。

——市川さんの仕事は、残す仕事なのですね。

はい。環境保全なので。保全ってあるものをあるように残すことなので。あと、地元の人からマップのおかげで事業者とも分かり合えて助かりましたと言ってもらえる時もよろこびを感じます。なかなかないですけど(笑)。

ゾーニングにおける地域向けシンポジウムの開催

ゾーニングにおける地域向けシンポジウムの開催

——苦労するのはどんなことですか?

環境保全の取り組みの意義や重要性を、自治体にご理解していただくことでしょうか。実際に問題が起きるなどの出来事がないと、なかなかご理解を得るのが難しいこともあります。

行政側も様々な事情があってのことと思いますが、起きてからでは遅いとお伝えしても、起きてないことに着手するのにご理解してもらうのが大変ですね。

——そんな厳しい状況で、市川さんは相手にどうやって話を切り込んでいくのですか?

そうですよね(笑)。まさに永遠の課題でもあってですね。危機感をお伝えできるように資料に工夫をしてみたり、ゾーニングのメリットを伝えてみたり、なんとか相手の心に響くように模索しながらやっています。

100軒回れば数軒単位では本気で話を聞いてくださる人もいるので、今は粘り強く対話をしながら各地を周っているところです。

——仕事を頑張れるモチベーションはどこにあるのでしょうか?

WWFにいると地球環境に関する表に出ないデータや資料が入ってくるので、本当に日々危機感が募っていきます。だから、辛いこともあれば、おもしろいことばかりではないですが、やらなくてはと思う仕事。それがモチベーションでしょうか…。

——今後の目標があれば教えてください。

自然エネルギーを増やしながら日本のきれいな里山の景観が保全できたらいいなと思います。

あと、自分たちの仕事のことや、皆さまからのご支援がどのように役立てられているか、多くの方に理解してもらえるよう伝えていけたら、と。

——市川さんのお仕事は、主にどのような活動に費用が必要なのでしょうか?

自分たちのように人と人をつないで、上手く物事が進むよう調整するコンサルタント的な仕事の場合、主な活動費としては、人が動くための費用が必要になります。サポーターの皆さまからの大切なご支援金を、最大限活用するよう日々心掛けています。

また、エネルギーの問題って背景にあることが見えたとき初めて末端にある問題の重要性が分かるんです。

何をやっているか、なぜそこに注力しているのか、バックグラウンドのところまで丁寧にお伝えし、なぜそこにWWFが活動費を使っているのかご理解をいただけるように、これからも視点を広げながら、さまざまな問題に気づけるようなやり方を見つけていきたいですね。

——何事も分かりやすさを求められがちな現代において、市川さんのようなエネルギー問題の仕事はもちろん、WWF全体の取り組みの本質を伝えることはむずかしいことかもしれません。けれど、WWFのサポーターさんだけでなく、多くの人たちに知って欲しいと思いました。市川さん、貴重なお話をありがとうございました。今後の活動を楽しみにしています。



(終わり)

写真:市川大悟
文:島田零子

この記事をシェアする

自然保護室(気候・エネルギー)
市川 大悟

学士(農学)
準学士(機械工学)
高等専門学校で機械工学を専攻後、大学で環境学を修了。卒業後は工学分野の知識を活かし、環境分野とも関わりの深いエネルギー分野のエンジニアを経て、2012年にWWF入局。以降、再生可能エネルギーのプロジェクト担当者として活動。

子どもの頃にどっぷり遊び漬かった田舎の原風景。その自然をこれからも残したいと考えてWWFに。元は畑違いのエンジニアですが、逆に培った工学の経験と環境の知識を糧に、エネルギー面から環境問題の解決に貢献したいと考えています。主な活動は、地域での再生可能エネルギーの導入を手助けすること。モデルプロジェクトの組成や、合意形成の援助、国の制度を変えるための政策提言などを行っています。
人と自然が共存できる社会を、皆さんにお見せできるよう、これからも頑張っていきます!

人と自然が調和して
生きられる未来を目指して

WWFは100カ国以上で活動している
環境保全団体です。

PAGE TOP