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開催報告:【アーカイブ動画あり】スクール・パリ協定プラス 2024 ~脱炭素に関するシリーズ勉強会~ 再エネ調達力が企業の競争力を左右する! 日本企業の生の声と、農業系再エネのポテンシャルを知ろう!

この記事のポイント
2023年末に開催されたCOP28は、2030年までに再エネを3倍に拡大することに合意しました。これを受けて、WWFジャパンは、「脱炭素社会に向けた2050年ゼロシナリオ」を改定。2030年までに再エネを3倍にすることが可能であることを明らかにしました。その鍵となるのが太陽光発電と風力発電です。このうち今後の太陽光発電のポテンシャルが大きい建物と農地の分野で先頭を走る事業者をお迎えし、躍動する再エネの最前線をご紹介するセミナーを開催しました。その概要と資料をご報告いたします。
目次

セミナーの目的

2023年12月ドバイで開催されたCOP28では、世界全体での気候変動対策の進捗評価の仕組み「グローバル・ストックテイク」が実施され、2030年に向けて再生可能エネルギー設備容量を3倍に拡大すること等が合意されました。現在、政府は、次期エネルギー基本計画と2035年の削減目標(NDC)策定に向けた議論を開始しています。企業においても再エネの調達率を上げることは、グローバルサプライチェーンから外されないための必須条件です。
WWFジャパンでは、日本においても2030年までに再エネ3倍が可能か、そしてIPCCの示す2035年に温室効果ガス(GHG)60%以上の削減が可能かを検証しました。これは、2050年にGHG排出ゼロを実現する道筋を描いた「脱炭素社会に向けた2050年ゼロシナリオ」をアップデートしたもので、結果として2030年までに再エネ3倍(太陽光2.9倍、風力10倍)が可能であることが示されたのです。
そのカギは太陽光発電と風力発電の飛躍的拡大にあります。近年一部のメガソーラー発電施設によって景観や環境を損なうなど地域社会との軋轢を生むケースや、再エネの適地は日本には少なくなったという言説など否定的な声も聞かれます。しかしファクトを冷静に見ると、国内の再エネのポテンシャルは極めて大きく、太陽光発電で言えば今後は地上型ではなく、屋根置きなどの建物系と農業系、中でも営農型(ソーラーシェアリング)が有望です。
今回のスクールパリ協定プラスでは本格化する再エネ争奪戦の現状と、その解決策の一つとしてのソーラーシェアリングについて、再エネ需要家企業であり日本気候リーダーズ・パートナーシップ(JCLP)共同副代表でもある大和ハウス工業株式会社小山勝弘氏及び、千葉県匝瑳市でソーラーシェアリングを推進する市民エネルギーちば株式会社宮下朝光氏をお招きし議論しました。

プログラム

進行説明 WWFジャパン 羽賀秋彦

解説:日本における再エネ3倍の道筋~WWFエネルギーシナリオより~
WWFジャパン専門ディレクター(環境・エネルギー) 小西雅子
資料 WWFジャパン 小西雅子

解説:需要家企業からみた再エネ調達の課題と求める施策
大和ハウス工業株式会社 経営戦略本部サステナビリティ統括部長
日本気候リーダーズ・パートナーシップ(JCLP)共同副代表 小山勝弘様
資料 JCLP共同副代表 小山勝弘様

解説:ソーラーシェアリングの現状とこれから
市民エネルギーちば株式会社 専務取締役/環境事業部本部長 宮下朝光様

鼎談 小山勝弘様、宮下朝光様、小西雅子

質疑応答

各講演の概要

アーカイブ録画

解説: 日本における再エネ3倍の道筋~WWFエネルギーシナリオより~ WWFジャパン専門ディレクター(環境・エネルギー) 小西 雅子

なぜ再エネ調達が必要なのか

再エネ調達が企業の競争力を左右する時代です。
再エネは脱炭素社会の主役として国際的に拡大が求められています。それは昨年末に開催された気候変動に関する国連会議、COP28において、2030年までに世界の再エネを3倍に、エネルギー効率を2倍にすることが合意されたことからも明らかです。

G7の環境大臣会合と首脳会合でも、2030年代前半、あるいは気温上昇を1.5度に抑えるタイムラインで、排出削減対策が取られていない石炭火力発電の段階的廃止に合意しています。

また、こうした各国政府の決定に加え、民間企業、特にグローバル企業による国際イニシアチブも増加しています。かつて国連会議は各国政府が中心の会合でしたが、現在は都市や企業、機関投資家なども参加して、国を超えて連携し、国際イニシアチブを作っています。たとえば、企業や都市の環境関連情報を開示するCDP、パリ協定の1.5度目標に整合した目標を認証するSBTi、再エネ100%で事業活動を行うRE100など、非国家アクターと呼ばれる民間発の国際イニシアチブが事実上のグローバル・スタンダードになっているのです。

WWF「脱炭素社会に向けた2050年ゼロシナリオ」の概要

日本の2030年目標の再エネの割合は36〜38%と非常に低いため、このままではCOP28の要請である2030年までの再エネ3倍は達成できません。WWFジャパンでは、2011年からシステム技術研究所とともに、2050年に再エネ100%を実現する「脱炭素社会に向けた2050年ゼロシナリオ」を作ってきましたが、COP28の決定を受けて、このシナリオを基に、日本で実現可能かどうかを検討しました。

その結果、2030年までに再エネを3倍にすることは可能であることがわかりました。その実現に必要なのは、なんといっても省エネルギーです。IEAが「省エネは第一の燃料」と言うように、生活水準を下げることなく、現在ある技術だけで、2035年までに最終エネルギー需要を32%削減できます。

また、石炭火力は2030年までに全廃しても、電力需要がまかなえることも確認しています。日本には十分なガス火力があり、現在35〜50%の稼働率を60〜70%に高めれば、ガス火力を新設する必要もありません。実際に、全国の1時間ごとの気象データを使って電力需給を調査するダイナミックシミュレーションを行った結果、現在の地域間連系線の容量のままで、2030年までに再エネを50%に増加できることがわかりました。

そして、再エネの割合を2030年に約53%、2035年に77%に引き上げることができれば、2035年に温室効果ガスの削減量は2013年比で66%以上可能であることが示されました。
官民一体となって推進している風力発電は2030年に現在の10倍の40GWになり、太陽光発電は設備利用率の向上とペロブスカイトの普及にともない、2030年に161GWまで拡大すると見込まれます。3倍には少し届きませんが、風力と太陽光を合わせた再エネは、COP28の要請である3倍が可能であることを示しました。

再エネのポテンシャルはどこにあるのか

日本のどこにそれだけの再エネ、特に太陽光を導入することができるのでしょうか。太陽光発電協会の分析では、社会問題になっているメガソーラーは現在の10GWが2050年でも11GWと、ほとんど増えません。
それでは、どこにポテンシャルがあるかといえば、住宅と農地です。現在18GWの戸建て住宅の太陽光発電は、2050年に90GWまで増やすことができます。農地で太陽光発電を行うソーラーシェアリングは現在の0.6GWから2050年に40GW、そして耕作放棄地にも40GWを導入することが可能です。

さらに、エネルギー需要の6割を占める熱・燃料需要を再エネの余剰電力を使って水を電気分解したグリーン水素でまかなえば、2050年に再エネ100%の社会が可能であることもわかりました。
これによって、再エネ比率は2035年に76%、2040年に90%まで引き上げることができます。再エネは国産エネルギーで、安全であり、化石燃料の輸入に充てている約20~30兆円の国富の流出を防ぐことができる、将来性のあるエネルギーです。

そんなに再エネを導入すれば、日本の国土は風車とパネルだけになってしまうという懸念もあるでしょう。2050年に熱燃料を含めたエネルギー全体を再エネ100%でまかなうためには電力需要の1.8倍の再エネ発電を行う必要がありますが、それだけの施設を建設しても、太陽光は国土面積の約1%、風力は5%以下に収まると、私たちは試算しています。
しかも、太陽光パネルの発電効率が現在の約15%から30%に向上すれば必要な面積は半減しますし、壁面に設置できるペロブスカイトが普及すれば面積はさらに縮小できます。また、ソーラーシェアリングはそもそも農地で行うため新たな面積は必要ありませんし、風力発電も農地や牧場との両立が可能です。

日本はG7の中で唯一、石炭火力の廃止計画を持たず、再エネ目標も低いままですが、国内にはこれほど大きな再エネのポテンシャルがあります。RE100やSBTiのような国際イニシアチブがデファクト・スタンダード(事実上の標準)になっている現在、日本企業がグローバルマーケットで選ばれるためにも、1.5度目標に整合した政策が求められています。

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解説:需要家企業からみた再エネ調達の課題と求める施策 大和ハウス工業株式会社 経営戦略本部サステナビリティ統括部長 JCLP共同副代表 小山勝弘様

私からは、JCLPの共同副代表として、7月に発表した提言について発表させていただき、その後、JCLP会員企業の率先行動の一例として、当社、大和ハウスグループの取り組みについてご紹介させていただきます。

次期NDC、エネルギー基本計画に対するJCLPの提言

日本気候リーダーズ・パートナーシップ(JCLP)は、ビジネスの力で脱炭素社会の実現を先導するという志一つでつながる民間企業約250社の企業グループです。

JCLPは今年7月、次期NDCとエネルギー基本計画に対する「日本の次期温室効果ガス削減目標およびエネルギー基本計画に対する提言」を発表しました。
この提言では、次期NDCを2035年に2013年比で75%以上の削減し、再エネ比率は2035年に60%以上にすることを求めています。そして、それを実現するためのパッケージとして、①再エネの導入加速、②建物の脱炭素化、③自動車のゼロエミッション化、④製造業の脱炭素化、⑤効果的カーボンプライシングの5つの政策提言を行っています。
われわれ企業が自らの首を絞める内容もありますが、各分野でリードしている会員企業の知見を踏まえ、自らの率先行動の指針として取りまとめました。

この提言の背景には、再エネ調達が企業にとって死活問題だという現実があります。今や投資家はもちろん、顧客からも脱炭素の要請を受ける場面が増えているため、企業にとって再エネの確保は一刻を争う状況となっています。

日本の再エネ導入量は他国に比べて少なく、主要国で唯一直近5年間の導入量が減っています。そのため企業の再エネ調達環境も厳しく、2022年の世界のRE100企業の再エネ利用率が50%なのに対し、日本企業は半分の25%にすぎません。
そのため、会員企業からは、安価かつ安定的な再エネ調達が不可欠という声が上がっています。このままでは生産拠点の海外流出を含めて、国際的な産業競争力を失いかねないと、非常に強い危機感を持っています。

JCLPの求める再エネ導入拡大の規模感、需要家としての課題

こうした危機感を背景に、再エネの割合を2035年までに現在の3.6 倍となる268GWに拡大することを提言しています。この規模感はGHGの削減に基づいていますが、拡大の方法や方向性はわれわれ需要家企業の課題を解決するものであってほしいと思います。その課題は、①多様な再エネ調達方法の確保と、②コスト・経済合理性です。

RE100企業のグローバルと日本の再エネ調達方法を比較すると、グローバルではPPAが約3割なのに対して、日本では3%と10分の1にすぎません。残りの9割以上は再エネメニュー、あるいは非化石証書であり、そのほとんどがFITの非化石証書なので、FITが段階的に終了すると大きな伸びが期待できません。
これに対して、RE100企業の再エネ需要だけでも、2030年に3.7倍になると試算されています。そのため、速やかにPPA、あるいは自家消費型太陽光の拡大に移行したいと考えています。

どう増やしていくかといえば、太陽光発電の分野では、まず建物系では住宅やオフィスビルへの導入、土地系では営農型のソーラーシェアリングや耕作放棄地への設置、ペロブスカイトは耐荷重という課題を抱える既存建物への設置拡大や、国内の産業力強化の観点からも期待しています。洋上風力については、EEZの活用も含めた浮体式の意欲的な導入目標が、地域の産業経済活性化も含めて重要と考えています。
それから、FITの買取期間が終了した卒FIT電源も重要です。すでに当社のような住宅メーカーなどが住宅用の卒FIT電源の継続活用に取り組んでいますが、今後出てくる事業用についても長期電源化していくことが必要です。

もうひとつの課題は、コストと経済合理性です。再エネのコストは着実に低減していますが、今後の拡大が期待される中小規模の案件やオフサイトPPAにはまだ十分な価格競争力がありません。この課題を解決するためには、経済的支援も含めた拡大施策を強化し、規模の経済によってコスト低減を図ることに加え、カーボンプライシングによる経済的インセンティブも重要です。
また、将来の化石燃料賦課金などを財源とする GX移行債の資金使途については、水素・アンモニアのような未来の技術だけではなく、中小規模の再エネ案件のようにあと一歩後押しが必要なものにも振り向けてほしいと思います。

とはいえ、本当に電力の60%を再エネにできるのかという懸念もあろうかと思います。今回の提言は、IGES(地球環境戦略研究機関)にご協力いただき、IGESが策定した1.5℃のロードマップに整合した目標になっています。

2030年に再エネ60%という目標はGHGの削減、企業のビジネスの創出のみならず、エネルギー安全保障にもインパクトがあります。エネルギー自給率が現状の12%から40%に向上すれば、ウクライナ危機のようなことがあっても、国内の産業や暮らしへの影響を抑えることができます。このことは、当社のように国内でビジネスを行う事業者には非常に重要だと考えています。

また、化石燃料を輸入するため年間約30兆円が海外に流出していますが、この約6割を削減すれば、15兆円以上の資金が国内に還流します。この資金を日本の強みを生かす技術の普及に回し、経済の好循環を生むことにも期待しています。

JCLPの会員企業245社の売上は155兆円、従業員数は約364万人で、日本の全電力約8%にあたる760億kWhの需要があります。これだけの企業がビジネスを通じた脱炭素社会の実現を本気で追求しています。私たちは会員企業の多様性という強みを生かし、今後も再エネの利用に務め、自らの率先行動と政策提言活動を加速していきます。いっしょにやりたいという企業は、ぜひご参加ください。

©JCLP

大和ハウスグループのカーボンニュートラルへの挑戦

ここからは、JCLP会員企業の一例として、大和ハウスグループの取り組みについてご紹介させていただきます。

当グループは、いわゆるCSRではなく、成長戦略の一つとして、① 原則としてすべての屋根に太陽光パネルを設置し、②2030年にはZEH、ZEBと言われるゼロエネルギー住宅、ゼロエネルギービルを100%にし、③2025年度には自社発電由来の再エネでRE100を達成するという3つ柱に取り組んでいます。さらに、この取り組みを通して、2030年にバリューチェーン全体のGHG排出量40%削減、2050年のカーボンニュートラルの達成をめざしています。

当社の基本スタンスは、 1.5度目標を達成するため、「2030 年までにやれることはすべてやる」です。当社の強みを生かして事業成長にも脱炭素にも貢献するため、われわれの強みである全国津々浦々の土地情報を活用して再エネ発電を増やしてきました。当社はまた毎年、日本一多くの建物を建設しています。そのすべての屋根に太陽光を設置すれば、相当なインパクトになると考えています。

われわれがRE100に加盟したのは2018 年ですが、自ら再エネを作って量の拡大に貢献しながらRE100 をめざそうと考え、当社の電力使用量を上回る再エネの開発に取り組んできました。その結果、2020年に初めて発電量が使用量を上回り、現在は使用量の約1.6倍に達しています。

再エネ発電が100%超えた2020 年からは作るフェーズから使うフェーズに移行し、自社の再エネ発電所由来の再エネ価値を証書化し、事務所、工場、施工現場で再エネ電力に切り替えてきました。その結果、昨年の再エネ利用率は大和ハウス単体で100%、グループグローバル全体で95.9%と、ほぼ100%になりました。今後もオフサイトPPAを中心に開発を進め、2030年までに再エネ発電所を現在の5倍の 2,500MWまで拡大する計画です。

住宅系ではすべての事業でZEH(ゼロエネルギーハウス)を推進した結果、ZEHの割合はマンションで100%、戸建てで97%、賃貸住宅で約5割になりました。また、建築系ではZEB(ゼロエネルギービル)にした自社施設をショールームにしてお客さまへの提案を強化し、ZEB化技術をパッケージ化してコストダウンを図った結果、新築の約7割がZEBになっています。

当社はこのように幅広い用途の建物を扱っていますので、これを組み合わせた大型のまちづくりを一つのグループで担えることが最大の特徴です。そこで、再エネ発電事業から、電力の小売り、都市開発から管理を組み合わせて、千葉県船橋市に日本で初めて再エネ100%のまちづくりを実現しました。

これからもゼロカーボンのサプライチェーンから再エネ100%の住宅や建物を世界一たくさん生み出したいと考えています。そのためにやれることはすべてやるという強い使命感を持って、カーボンニュートラル実現への貢献を果たし、未来の子どもたちの「生きる」を支えていきたいと考えています。

解説:ソーラーシェアリングの現状とこれから 市民エネルギーちば株式会社 専務取締役/環境事業部本部長 宮下朝光様

太陽光発電と農業の両立

私からは、ソーラーシェアリングのお話をさせていただきます。
まず、ソーラーシェアリングは特許技術です。長島彬さんという方が 2003年に考案され、2004年に特許を取得され、2005年に広く普及させるために特許を無償で公開しました。
その特許の内容は、細いパネルを使うことです。住宅用の屋根や野立ての太陽光発電では6列セルという大きなパネルを使いますが、私たちは2列セルという、その3分の1の幅のパネルを使い、遮光率を3分の1にして設置します。

長島さんは、植物の光飽和点からソーラーシェアリングを構想しました。植物には光飽和点という成長に必要な光の量があり、残りの光は光合成に利用されません。そこで長島さんは、植物が利用しない光を発電に使おうと考えました。したがって、シェアリングという言葉には、パネルと作物とで太陽光を分かち合うという意味が込められています。

ソーラーシェアリングのパネルは細いので、影が細いです。その影は時間とともに移動して、必ず光が下に当たるので、作物には影響がありません。私たちが集めた情報では、50種類以上の野菜でネガティブになったケースがありません。

私たちは、太陽光パネルの下の農地で有機農業を行っています。それによって農薬や化学肥料を製造する際に化石燃料を使わずに済みますので、CO2を削減することができます。さらに不耕起栽培に取り組み、土中に炭素を貯めてもいます。すなわち、パネルでCO2を削減し、植物の光合成で CO2を削減し、有機農業でさらにCO2を削減するというように、3つの方法でCO2を削減しています。

©市民エネルギーちば

農産物の生産から農村経営へ

続いて、今後の農業についてお話します。
まず、農地で太陽光発電事業を行うと売電量収入が入りますが、温室効果ガスであるメタンの発生を抑制することでも収入を得ることができます。

水田稲作では標準で 2 週間水を抜く「中干し」を行いますが、もう1週間延ばして3週間にするとメタンの発生が抑えられ、その環境価値をJクレジットで販売することができます。また、収穫が終わった後に稲の藁を鋤き込んでもメタンの発生が抑制できるので、今後はそれもJクレジットになります。
さらに、ソーラーシェアリングを行うと水田に適度な日陰ができて水温と地温が下がり、微生物の活動も弱まるので、メタンの発生が抑えられます。将来はこの削減分も収入になる可能性があります。
このように、これからの農業は、農作物を作るだけではなくて、農村の資源のすべてを活用した「農村経営」になると、私たちは考えています。

私たちの試算では、耕作放棄地を除いた農地の18〜20%でソーラーシェアリングを行うと、年間約9,000億kWh 以上の電気を作ることが可能です。これは昨年1年間に全電力会社が販売した電力量に匹敵します。もちろん夜は発電しませんし、曇りや雨の日の発電量は少なくなりますが、農地には1年分の電力を生み出すことができるほど大きなポテンシャルがあります。

その本命は水田です。面積が大きい水田は集約しやすいためメガソーラーシェアリングに向いており、近くには県道か国道が通り、電線もありますので、非常に立地条件に恵まれています。

また、地域を元気にするということも私たちのミッションのひとつです。そのため、売電収入から地域の農業法人に耕作委託料を出し、地域の任意団体に寄付金を出しています。設備にかかる固定資産税は地元の自治体に入りますし、農地を貸してくれる農家には賃料を払っています。私たちはこうして売電収入のおよそ10%を地域に還元していますが、これを「匝瑳システム」と名づけ、他の地域にも展開していきたいと考えています。

ソーラーシェアリングの未来

私たちは、パネルは将来、ペロブスカイトになると考えています。先月、積水化学さんと弊社のグループ会社のTERRAが、ペロブスカイトでソーラーシェリングの実証実験を行うことを発表しました。
具体的には、積水さんのペロブスカイトをレンズ型という飛行機の翼の断面のような形にし、上と下に巻きつけて両面受光にします。また、通常の太陽光パネルは南側に向けますが、これは東西に向けます。パネルは曲げてありますので、朝と昼と夕方にすべての方向から光を受けることができます。南側に向ければ昼に発電量がピークになりますが、こうすれば発電量が分散するので電力系統への負荷も抑えることができます。

ペロブスカイトの製造にはヨウ素が必要ですが、ヨウ素の70%は日本にあり、関東平野、特に千葉県北部にたくさん埋蔵されています。そのため、国内で製造することができるので、世界の状況に左右されない魅力があります。
そのペロブスカイトの価格は、 2028年には結晶系シリコンより安くなると予想されています。これからは、日本発のソーラーシェアリング技術と日本発のペロブスカイトを融合させ、ソーラーシェアリングを農地に展開し、さらに拠点も増やし、世界に広げていきたいと考えています。

鼎談 小山勝弘氏、宮下朝光氏、小西雅子

小西:ありがとうございました。まず小山さんにお伺いします。JCLPの提言が「自らの首を絞めるかもしれないが、それでも再エネが必要だ」とおっしゃいましたが、企業はどんな声を持ってらっしゃるんでしょうか?

小山:政府に高い目標を求める理由は、企業として予見性を高めたいからです。政府のGHGの削減目標は京都議定書の6%から26%になり、さらに46%と、この5年で20ポイント上がりました。それによって5年前に下した意思決定は誤りになり、投資が無駄になります。それなら最初から世界がめざす1.5度目標に整合した削減目標を政府が掲げてほしいということが提言の背景にあります。また、再エネのニーズは投資家からもお客さまからも高まっているので、競争力のある安定した価格で確実に調達したいと、あらゆる企業が声を上げています。

小西:確かに日本の削減目標は国際合意を後追いしているので、企業としては最初から国際目標に整合した計画を立てる方がやりやすいということですね。そして、再エネを求める声はそれほど高まっているんですね。

小山:海外の取引先から、再エネで製造してほしいという要請も増えています。また、2年前に電力価格が高騰したように、電力は価格変動が大きいのに対して、再エネはランニングコストがかからず、価格変動も小さいので、初期投資を電気代の先払いと考えれば、電力調達戦略としても合理的です。

小西:それだけ大きなニーズに応えるには、再エネのポテンシャルを開発していくことが必要ですが、宮下さんは日本の農地の18%でソーラーシェアリングを行えば、電力需要をまかなえるとおっしゃっていましたね。

宮下:そのとおりです。これから耕作放棄地も出てくるので、土地はある。企業は再エネ電力がほしいので、お金もある。そこで問題になるのは、誰が下の農地で農業を行うかということです。日本の農家は年々減少していますので、私たちは全国的に展開する農業生産法人を新たに作ろうと計画しています。

小西: 50種類の作物に何も問題はなく、さらに水田で行うと広い面積が得られるということですが、ソーラーシェアリングの課題というのは、むしろ農業従事者をどう増やすかという日本の農業そのものが持つ課題でもあるわけですね。

宮下:私たちはソーラーシェア = 農業と考えているので、農業を再生するために農業生産法人に若い人材、あるいは定年後のシルバー人材を集めたいと考えていますが、現役の企業のみなさんにも農業に進出していただけると助かります。

小西:熱い期待が寄せられていますが、小山さん、いかがでしょうか。

小山:企業としてすぐにフルコミットすることは難しいですが、当社を含めた企業は人的資本経営といって、多様性を高めながら自律的な成長を図ることが課題になっていますので、越境プログラムや副業制度を利用した体験農業的な関わりならできると思います。

宮下:それでいいんです。これからはルンバのような草刈り機が開発され、昼間は充電して夜中に走り回って草を刈るとか、ロボットやAIを使うようになるので、人間は時間給で働き、土日は休めるようにすれば、やりたいという人は出てくると思います。それで農業を再生し、地域を元気にし、エネルギーと食料を生産する。日本のようにエネルギーと食料の両方の自給率が低い国では、ソーラーシェアリングは合理的な方法だと思います。

小西:まさに「農村経営」になるわけですね。ところで、小山さんが企業は再エネの調達を多様化したいと同時に、コスト合理性も追求するとおっしゃっていたので、宮下さんにソーラーシェアリングの価格をお聞きしてもいいですか?

宮下:今はFITの価格が非常に安いので、非FITのオフサイトPPA、つまり別の場所で発電した電力を託送料金を払って新電力を経由して企業に届ける方法になりますが、私たちはこの方法に補助金を活用しています。50kW出力の低圧設備の建設に約1,500万円かかりますが、農水省、経産省、環境省、東京都の2分の1補助金を使えば 750万円で済みます。企業には20数円/kWhで買っていただくことになりますが、それでも十分採算が取れます。自家消費型のオンサイトPPAなら完全に採算が取れますので、まずはオンサイトをやり、さらにオフサイトも組み合わせる総力でやろうと思っています。

小西:オンサイトは系統電力より安いので経済合理性がありますし、地域に貢献している良質な再エネとしての付加価値もありますね。ところで、小山さんが政府に望むのは、水素やアンモニアなどの未来の技術へのGX投資ではなく、中小規模の再エネを後押しがほしいとおっしゃっていましたが、具体的にどんな後押しが必要だと考えていますか?

小山:まさに宮下さんおっしゃった補助金がいい例です。大企業は量の確保も課題なので、ソーラーシェアリングに目が向かないのが現状ですが、JCLPには地域に貢献する再エネという質に注目している企業もたくさん参加しています。また、JCLPがお手伝いをしている「再エネ100宣言RE Action」という中小企業向けのイニシアチブに参加している企業は、地域密着型で再エネへの思いが強いので、ソーラーシェアリングとの相性がいいと感じています。

小西:GX債の使途がこれから決まっていきますが、2030年に向かって再エネを増やすには、ポテンシャルのある分野を後押しする必要があるということですね。それから、小山さんの大和ハウスグループは、2040年に再エネ100%という目標だったのに、2024年に達成したというお話に驚きました。

小山:RE100に加盟した時にも勝算がなかったわけではありませんが、FIT制度では再エネ価値を含めて売電するため、その環境価値が使えないので、卒FITの活用が始まる2040年を目標年にしていました。その後2019年に非化石証書の制度ができたので、15年前倒して達成することができました。

小西:東京都の排出量取引制度でも、最初は反対していてもいざ始まってみると過達成する企業が少なくありません。脱炭素の世界では、やってみると予想以上にできて、しかも前倒しできるということが起きるんですね。
お2人は住宅系と農業系の雄、まさに日本でいちばんポテンシャルのある再エネ分野の方々ですので、お互いにご質問があればお聞きしたいと思います。

小山:50種類以上の作物がソーラーシェアリングに活用できるということですが、果物などにも広げていくような新しい取り組みがあるんでしょうか。

宮下:その地域に合うからその作物を栽培しているので、新しい作物でなく、同じものを作ればいいと思います。ただ、相性がいいのは根菜類です。さつまいも、じゃがいも、さといもなどのいも類は非常にいいですし、ブルーベリーやお茶も相性がいいです。

小西:小山さま、宮下さま、ありがとうございました。

© WWF Japan

開催概要

日時:2024年9月13日(金) 15:00 ~ 16:40
場所:Zoom オンラインウェビナー
対象者:ご関心のある一般の方々
参加費:無料
参加者数:281名

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