農地の環境保全等活動の交付金制度の問題点を指摘!生物多様性保全と持続的な農業の両立に向けた提案を自然保護6団体が提出


  • 農地の生物多様性保全に関わってきた自然保護団体6団体が、農地の環境保全等に使われる農業・農村多面的機能交付金制度に対し共同で提言書を提出
  • 全国各地で展開される事業(予算額1600億円)の運用や効果検証の問題点を指摘
  • 科学的な根拠に基づく評価の導入や生物多様性の劣化につながる対象事業の見直し、生物多様性保全活動の義務化などに向け、NGOや専門家との協働を要望

自然保護に関わる6団体は、「農業の有する多面的機能の発揮の促進に関する法律」の点検・検証結果(令和2年11月30日)に対し、以下の点の改善を求め、提言書を提出しました。

<主な内容>
提言1.多面的機能の発揮促進の十分な効果検証をすべき
提言2.生物多様性を劣化させる事業を見直し、生物多様性保全活動を義務化すべき
提言3.自然環境や生物多様性の保全機能の向上に資する活動の支援を増やすべき
提言4.生物多様性に詳しい専門家・NGOも制度設計や見直しに参画させるべき

<解説>
この法律は、農業・農村がもつ、「食料等の生産」以外の機能(国土保全、水源かん養、自然環境保全、景観形成等の多面的機能)を発揮するために農業団体等の活動に支払われる交付金制度の根拠法です(2014年設立)。この制度は、農地が食料生産のみならず人類の生存の基盤となる自然環境・生物多様性を守る公益的機能を有すると意義づけており、国土の52%と高い割合を占める農地と、延べ6万団体からなる農業関係団体を、年間約1600億円の税金で支援するなど、農地生態系に対し重要で影響力の大きな制度です。

自然保護に関わる6団体は、各分野の専門性や現場での経験と、本法に関する公開資料から、生物多様性を劣化させうる事業にも交付金が支払われた事例がある点や、交付金の効果検証が制度運用状況に関するアンケート結果のみで行われており、本法の目的である公益的機能が発揮できたのかが十分検証できていない点などを指摘しました。

近年、世界的にも有機農業など生物多様性を活かした持続可能な農業への転換に注目が集まっています。例えばEUでは、2020年発表の「Farm to Fork戦略」内で2030年までに有機農業実施面積を25%、化学農薬50%削減等の目標を掲げています。また日本においても、2021年に「みどりの食料システム戦略」が公表され、そこには2018年時点でわずか0.5%の有機農業実施面積を、2050年までに25%に増やしていくといった意欲的な目標が含まれています。現在、この戦略の関連法案が国会で提出・審議され、持続可能な農業への転換に向けて、本制度の拡大が議論される等、再び着目されています。

以上のことから、本制度の改善は、日本の農地における生物多様性の急速な劣化と、持続可能な農業への転換への対処という両面において急務です。今後予定されている本制度の評価・見直しの機会に(中間年評価(令和4年度)、最終評価(令和6年度))、今回の提言書で指摘した問題点の解決が強く望まれます。

共同提出団体(公益財団法人日本自然保護協会、公益財団法人日本野鳥の会、公益財団法人世界自然保護基金ジャパン、特定非営利活動法人ラムサール・ネットワーク日本、特定非営利活動法人オリザネット、一般社団法人リアル・コンサベーション)では、今後、地域の方々との協働による交付金を活用した優良事例づくりや、関係者との意見交換・政策提言を行なう予定です。

■報道関係者からのお問合せ
WWFジャパン プレス担当 新井 Email: press@wwf.or.jp

この記事をシェアする

人と自然が調和して
生きられる未来を目指して

WWFは100カ国以上で活動している
環境保全団体です。

PAGE TOP