【声明】世界自然遺産・知床での携帯電話基地局と太陽光パネルの設置計画に対する見解


現在、北海道・知床岬をはじめとする4つの地域で、新たな携帯電話基地局の建設計画が進められようとしている。報道によれば2024年4月26日に、この事業のため関係省庁と通信電話事業者が設置した「知床半島地域通信基盤強化連携推進会議」の第2回会議が開催され、特に知床岬の基地局建設予定地では、7,000平方メートルの太陽光パネル等の発電設備が、基地局の電源をまかなうため設置される方針が明らかにされた。また、この他にも、地中にケーブルを敷設するなどの計画もあり、基地局予定地周辺では環境の深刻な改変が生じる懸念がある。

知床半島は2005年に世界自然遺産に指定された、国内屈指の重要な保護地域の一つであり、オオワシやシマフクロウなど、国際的な絶滅危機種としてIUCN(国際自然保護連合)のレッドリストに種名が掲載されている野生動物の貴重な生息域でもある。そして、その保全は、国際法、国内法の双方で義務付けられているものでもある。
環境省はすでに、この重要な地域における開発事業を認可しているが、それにあたって行なわれた事前の調査内容は不十分である、との見解が、2024年6月7日の、令和 6年度知床世界自然遺産地域科学委員会の第1回会議でも明確に指摘されており、一年を通じた多様な生物相の調査を行なった上で、事業の推進を判断すべきであるとされた。このように、世界自然遺産としての顕著で普遍的な価値(OUV)の保全を担保できない状況の中で、事業の認可と推進が判断されたことは、国際自然保護団体として、甚だ遺憾と言わざるを得ない。知床の世界自然遺産は、日本一国だけのものではなく、世界の財産であり、日本政府および関係省庁はこれを未来に引き継ぐ責任を、期待と共に託されていることを、忘れるべきではない。

今回の基地局の設置計画については、2024年6月20日現在で、日本自然保護協会や北海道自然保護協会、日本環境会議といった諸団体・機関から、強い懸念と計画の見直しを求める声が上がっている。いずれも、世界自然遺産を保全する上での問題点を明らかにし、知床に生息する希少種の保全に必要な対策を求めるもので、関係省庁および事業にかかわる事業者は、その内容を重く受け止め、今後の対応を検討する必要がある。

また、それにあたっては、自然保護か、安全確保のための開発か、という二項対立の議論に、安易に陥らないよう、注意するべきである。この2つはいずれも重要な課題であり、その解決に向けた検討は、双方真摯に行なっていかねばならない。

今回の開発計画は、2022年に知床半島沖で起きた観光船の事故を受け、通信環境の不備を解消するためのものと説明されているが、この基地局の設置が本当に、安全性を確保する上で最適な手段なのか。さらには事業の公益性や必要性は十分に説明できるのか。これらを今一度改めて検証する必要がある。

そして、十分な環境配慮が実現できる手立てを議論するためには、計画に関する事前の十分な情報提供にもとづき、オジロワシをはじめ多様な野生生物の生息状況を含めた科学的な調査が実施され、その結果および科学委員会を含む専門家や第三者の見解をふまえつつ、地域と関係者による意見交換等による合意形成が必要であると考える。

開発中止も明示的に選択肢に含めた慎重な再検討を行った上での判断として、基地局の設置が、総合的に見て必要かつ適切な手段となり得る場合は、改めて環境影響評価をふまえたゾーニング等を実施し、自然に悪影響を及ぼさない建設適地の選定を行ない、その結果についても情報の開示と合意形成をはかりながら、検討を進めていくべきである。

環境省をはじめ本計画に関係する省庁、および各事業会社には、現状の計画が世界自然遺産に及ぼし得る影響を軽視することなく、計画の全面的な見直しの可能性も視野に入れた、真摯な対応を行なうことを求める。

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