【WWF声明】ネットゼロに向けた化石燃料からの転換に不十分なGX「分野別投資戦略」の決定に抗議する


2023年12月22日、政府は、脱炭素成長型経済構造移行推進戦略(以下、GX推進戦略)に関する「分野別投資戦略」を取りまとめた。これは、GX推進戦略に基づき、GX経済移行債による投資促進策を実施するために、施策内容や時間軸、金額、事業者に求める要件などを具体化するものである。

WWFジャパンは、この「分野別投資戦略」が、今後10年間における化石燃料からの転換を加速させる上で、不十分なものに留まっていることに抗議する。

パリ協定が掲げる1.5度目標の達成に向けて、IPCCは温室効果ガス排出量を2019年比で2030年までに43%削減、2035年までに60%削減する必要があることを示す。これは2023年12月13日に閉幕した第28回国連気候変動枠組条約締約国会議(COP28)の決定でも明記された。更に、ネットゼロ実現に向けて化石燃料から転換し、取り組みをこの10年間で加速させることが合意されている。温室効果ガス排出量の9割近くをエネルギー起源CO2が占めること、排出削減の能力と責任を持つ先進国であることを踏まえると、日本でも化石燃料からの転換は急務である。そのために、上記「分野別投資戦略」を次のとおり改善する必要がある。

(1)既存の再エネ技術の普及も投資支援の中核に据えるべき

現状の「分野別投資戦略」では、再エネについて、ペロブスカイト型太陽電池や洋上風力などの「次世代型再エネ」に重きが置かれている。これらは欠かせない技術開発ではあるが、他方で2030年までの排出削減が不十分になる懸念がある。COP28決定では、2030年までに世界全体で再エネ発電容量を3倍にすることにも合意されており、日本国内でも整合させる必要がある。

そのためには、既存の太陽光・風力といった再エネの拡充に、「次世代型」と同等以上に支援を充てるべきである。IPCC第6次評価報告書第3作業部会報告書で、2030年排出量半減は1トン当たり100ドル以下の対策で実現可能とされる。更に、その大半は20ドル未満の太陽光・風力、省エネなどの技術である。既に確立した再エネ技術の普及は、技術開発の不確実性が伴わない、確実かつ最も経済効率的な排出削減策の1つであり、限りある原資をその分野にこそ重点的に充てなければならない。

また、技術面のみならずソフト面でも支援が必要である。例えば、全ての自治体で地球温暖化対策推進法上の促進区域が設定されるように、国は十分な支援をするべきである。

(2)2030年までの石炭火発の廃止計画を早急に策定し、それと矛盾しない投資支援策とするべき

今回取りまとめられた「分野別投資戦略」では、「水素等」の中で発電部門におけるアンモニア混焼・専焼技術の開発支援も排除されていないほか、CCSの本格稼働に向けた支援も予定されている。

しかし、この方向性は先般のCOP28決定と整合するか疑問が残る。上述の化石燃料からの転換の加速に加えて、排出削減対策のとられていない石炭火力発電の段階的削減を加速することも合意された。「排出削減対策」について、例えばIPCCは発電所からのCO2を90%以上回収することといった形で定義づける。石炭火発へのアンモニア混焼による排出削減はその水準に及ばず、CCSによる回収を2030年までに大規模に実施することは困難である。加えて、COP28では有志国のイニシアティブも新たに立ち上がるなど、石炭火力発電に対する国際的な視線は厳しさを一層増している。

これらに照らすと、石炭火力発電からの脱却が一層強く求められることは明白である。石炭火力発電を2030年に向けて迅速に、かつ経済社会への影響を最小限にして安定的に廃止する観点から、必要な投資支援策を整理・構築するべきである。その際には、石炭火力発電の廃止計画が前提となる。それを直ちに策定することが求められる。



世界経済では今や、温暖化対策の巧拙が各国の競争力に直結しつつある。2030年までに化石燃料からの転換を早期かつ飛躍的に進めてこそ、日本は再び温暖化対策と経済の両面で世界の牽引役となれる。「分野別投資戦略」のこれら改善に、速やかに着手することが必要である。

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