COP28 結果報告
2023/12/14
- この記事のポイント
- 世界の200近い国々が協力して脱炭素化に取り組むことを約束したパリ協定。この実施や追加ルールを議論する国連気候変動枠組条約締約国会議(COP28)が、アラブ首長国連邦(UAE)ドバイにて、2023年11月30日~12月13日に開催されました。 COP28は初日に、長年の課題であった、気候変動による「損失と損害」を救済していく基金の運用化に合意して幸先の良いスタートを切るも、その後の交渉は難航し、会期を延長して合意にたどり着きました。直接的な化石燃料の段階的廃止の言葉は入らなかったものの、2050年ネットゼロを達成するべくエネルギーシステムにおいて化石燃料から転換していくことに合意して終了しました。
化石燃料からの転換に合意!
世界有数の産油国アラブ首長国連邦で開催されたCOP28で最も注目されたのは、パリ協定史上初めて温暖化を進める最大要因としての化石燃料の廃止に合意できるかどうかでした。
交渉は難航しましたが、結果として会期を一日延長し、化石燃料を名指して、エネルギーシステムにおいて転換していくことに合意しました。
「2050年までにネット・ゼロ(温暖化ガス排出実質ゼロ)を達成するために、公正で秩序だって衡平な方法で、エネルギー・システムにおいて化石燃料を転換していく、この重要な10年にその行動を加速させる」と明記しました。
激しい交渉の末に合意された文章なので、回りくどい表現にはなっていますが、2050年までにいわゆる脱化石燃料を実現させ、特に1.5度に気温上昇を抑えるために必須である2030年頃までのこの10年間に行動を加速させる、という文言です。
実はこの最終合意に至るまでに議長案は二回出されているのですが、当初の案では「化石燃料の段階的廃止」という明確な表現が入っていました。ところが会議終盤に出された2回目の案では、著しく弱められて、化石燃料の段階的廃止という言葉はすべて消えて、各国が化石燃料の消費と生産を削減することを含めて自由に選べるようなテキストになってしまいました。
この2回目のテキスト案には、欧州連合を始め、小島嶼国連合や先進的なラテンアメリカ諸国連合が大きく反発し、小島嶼国の代表は、「これでは死刑執行書だ」と涙ながらに語りました。交渉は夜を徹して行われ、会期も延長された翌日の朝に出てきた最終案では、2050年までに化石燃料から転換していくとなっており、これで最終合意となったのです。
2021年のイギリスCOP26で、初めて石炭火力からの段階的削減に合意されましたが、昨年のエジプトCOP27では、それ以上の進展はありませんでした。今回のCOP28では、パリ協定が合意された2015年には考えられなかった化石燃料を名指ししての削減に合意されたことは、歴史的転換点と言っても過言ではありません。
COP28の合意では、太陽光や風力といった再生エネを30年までに現状の3倍に拡大させる目標や、エネルギー効率改善を倍増させることも明記されました。約200ヶ国が参加するパリ協定のCOP28の成果文書に入ったことで、化石燃料から再生エネルギーへの転換はさらに加速することが見込まれます。
当初は世界有数の産油国であるアラブ首長国連邦がホストとなるCOP28において、果たして脱化石燃料へ向けて合意できるのか危ぶまれていましたが、アル・ジャベール議長は最大の成果としてこのエネルギーの合意を誇っていました。
名実ともにエネルギーCOPとなったCOP28は、弱いながらも化石燃料からの転換を象徴する成果を上げたと言えます。
2025年提出期限の次国別目標(NDC)に向けてのメッセージ
2015年にパリ協定が策定された当時から、このままの各国の取り組みでは、最終目標である「世界の気温上昇を1.5度に抑える」ことには届かないと分かっていました。このため、パリ協定は、一方では、5年ごとに世界全体の取り組み進捗を評価し、もう一方ではそれを踏まえた各国の削減目標等を5年ごとに提出しなおさせるという2つの5年サイクルを設けることで、不断の改善を各国に促す仕組みを組み込んでいます。このうちの前者、「5年ごとの世界全体での取り組み進捗評価」が「グローバル・ストックテイク」と呼ばれ、今回のCOP28で、その最初の結論を出すことになっていました。
実は、前述した「化石燃料の段階的廃止」もこの文脈で議論がされたのですが、グローバル・ストックテイクの結論としての決定には、もう一つ大事な箇所がありました。
それは、次の各国の削減目標(2025年が提出期限)に向けたメッセージです。WWFが重視していたポイントとして以下の2つがあります。
一つは、2023年4月に発表されたIPCC第6次評価報告書(AR6)で示された、世界全体で必要な削減水準がしっかり書き込まれること。特に、気温上昇を1.5度に抑えるためには、「2035年までにGHG排出量を2019年比で60%削減が必要」という点です。
もう一つは、その知見を、各国がそれぞれの次の削減目標にしっかりと反映させることを促す、なるべく強い表現が盛り込まれること。パリ協定における各国の削減目標は、NDC(国ごとに決定する貢献)と呼ばれる文書に書き込んで提出することになっており、これはその名の通り、各国が自分たちで決めます。このため、各国に特定の目標水準を強制することはできません。それでも、各国が上記の「必要な削減水準」をしっかりと考慮することを、どれだけ強く言えるかが問われていました。
交渉の中盤から、過去の決定以上に強い表現は案からはもれてしまい、新しい決定にはなりませんでしたが、それでも、2035年に世界全体で必要な削減水準である60%への言及は入り、かつ、各国の次回の削減目標を含むNDC提出時に、どのようにグローバル・ストックテイクからの結果を考慮したかの説明が必要ということが、特だしで言及されました。合意文書の片隅に見られる小さな文言ですが、日本も含めた各国にとって大事な一歩となりました。
カーボンマーケットの国際基準
パリ協定6条は、いわゆる国際的なカーボンマーケットのルールを決める条項です。6条2項は、二国間などの分散型のカーボン取引、そして6条4項は、京都議定書時代のクリーン開発メカニズム(CDM)の跡を継ぐもので、国連主導型のカーボンメカニズム、さらに6条8項は、非市場型のメカニズムのルールを決めるものです。
今回注目されたのは、6条4項において、大気中から温室効果ガスを除去するいわゆる除去クレジットの取り扱いです。6条4項監督委員会が一年かかって検討した結果が提案として提出されましたが、結論から言うと、6条2項、4項、8項のすべてにおいて、結論は出されず、先送りされて終了しました。
クレジット取引は民間市場が先行していますが、6条のルール作りの議論は、民間市場においても何をもって品質の良いクレジットとなるのかを理解するのに非常に役立ちます。中でも熱帯雨林減少防止などの排出回避系は、6条2項においても4項においても国際議論の中では否定的です。
こうして6条の合意が延期されていく理由の一つに、国際的にクレジットによるオフセットに対する忌避感が挙げられます。まずは2030年などに向けた短期目標は、クレジットによるオフセットに頼らず、自らきちんと半減させていくことが求められます。
気候変動の影響へ対応するための2つの合意
今回のCOP28会期序盤での最大のサプライズは、なんと言っても、気候変動影響からの「損失と損害」を防ぎ、救済するための基金を運用していくことについて、会議初日に合意が成立したことでした。
気候変動からの悪影響に特に脆弱な途上国を支援する「損失と損害」基金の設立は、前回のCOP27での大きな成果の一つでした。今回の会議ではそれを運用化していくための詳細事項の合意が期待されていました。どの機関がこの基金を管理するのか、誰がお金を拠出するのか、様々な論点についての交渉が特別な委員会で1年間継続され、今回の会議でも交渉が難航すると思われていましたが、会議初日に合意が成立し、そのおかげで他の重要議題により議論を集中できる余地が生まれたことは大きな効果でした。
議長国のUAEやドイツが、それぞれ1億ドルという巨額の金額拠出を表明(日本は1000万ドルを表明)したことを踏まえると、おそらく会期前から相当な政治的な駆け引きがあったものと思われます。最も大きな被害を受ける人々への支援に向けて、貴重な一歩となりました。
もう一つ、気候変動からの悪影響を抑えるための取り組みとして、今回のCOP28で決めなければならなかった議題として、「適応のグローバル目標に関する枠組み(フレームワーク)」というものがあります。
適応は、気候変動の原因であるCO2排出量を減らすための「緩和」対策に対し、気候変動の影響に備えて、抑えていくための対策として大事な分野です。気温上昇や降雨量増加、干ばつなどを見込んだ災害・防災計画から、感染症拡大防止対策、農業における作付時期変更や高温耐性の強いものを育てることなど、幅広い「適応」対策が存在します。
しかし、CO2排出削減などの「緩和」対策と比較すると、注目度という点では劣っていたのは確かです。顕在化してしまっている気候変動影響を前に、世界的な目標を設定し、その中で各国が協働して取り組み体制を改めて整備することで、取り組みを強化していこうというのが今回の「適応のグローバル目標に関する枠組み」の合意という議題でした。
この議題では、目標の設定方法について各国の意見の食い違いがあった他、資金支援についての項目を入れたかった途上国と、それを警戒した先進国の間での対立が最後まで尾を引きました。
延長日まで難航した交渉の結果、成立した同「枠組み」は、それでも、水資源・水災害、食料・農業、健康、生態系・生物多様性、インフラ、貧困、遺産保護などの分野別の2030年までの目標を設定しました。また、適当対策の段階ごと(脆弱性の評価から始まって、計画・実行・モニタリングまで)の2030年目標も設定しました。今後2年間でこれらの目標をどのように計測していくかを検討する作業計画の発足も決めました。
しかし、資金支援については、一般的な呼びかけにとどまり、新しい要素は少ない合意となり、途上国からは不満の声も聞こえました。
非国家アクターに求められる役割の深化
交渉の外では、昨年をはるかに超える多くの企業、自治体、大学や研究機関、若者団体、先住民族、NPO/NGOなど、いわゆる「非国家アクター」とよばれる組織や団体が存在感を発揮していました。グローバル・ストックテイクの成果が、これから各国において策定される次期NDCをより高い野心に導く強いメッセージとなるよう、政府間交渉にできるだけ大きくポジティブな影響を与えるためです。
12月1日から2日にかけて、COP議長国による公式プログラムとしては初めて、地域気候行動サミットが開催されました。自治体の首長をはじめとする都市や地域のリーダーたちを招いて行われたこのサミットは、各国の取り組みを加速するために欠かせない地域との連携、地域が果たせる役割をリーダーたちが議論。このサミットで起ち上げが発表された「高い野心のマルチレベルパートナーシップ連合(CHAMP)」には、日本を含む63か国が賛同し、次期NDCの策定を各国の都市や地域の知見を取り入れながら進めていくことを約束しました。これから2025年に向けて、ここで約束されたことを各国がいかに実行に移し、地域とともに高い野心を生み出せるか重要です。
一方では、非国家アクターのネットゼロ実現に向けた取り組みの「質」を追求する動向に深化が見られました。
昨年のCOP27では、グテーレス国連事務総長の呼びかけにより集まったハイレベル専門家グループが、非国家アクターのネットゼロ宣言のあり方に関する提言書を発表。非国家アクターのネットゼロ宣言の「質」がより一層問われるようになっていました。
12月2日、ハイレベル専門家グループのメンバー数名と責任投資原則(PRI)や国連環境計画金融イニシアティブ(UNEP-FI)などいくつかの機関が関わり「ネットゼロ政策に関するタスクフォース」の立上げが発表。このタスクフォースは、提言書の主旨である非国家アクターによるネットゼロ宣言の信頼性と説明責任を確実にしていくため、それに資する政策や規制を推進することを焦点としています。
昨年の提言書が単なる提言に終わらず、非国家アクターのネットゼロ宣言の質を担保する実質的な国際スタンダードとなるよう、タスクフォースは必要な情報や技術的サポートを提供していく役割を担います。さらには政策や規制が非国家アクターの信頼性ある取り組みを加速させるドライバーとなるよう、政策立案者や規制当局との連携も進めていくことが期待されています。
また同じく12月2日、世界首長誓約(GCoM)と世界資源機関(WRI)が、同提言書の内容に基づき、都市や地域向けにより具体的な提言書を発表。これは自治体がネットゼロ宣言を行い、信頼性と説明責任を担保しながら、その実現に向けた施策を実行していく上での指針となります。
こうした進展により、非国家アクターのネットゼロ宣言や取り組みは、国際的なスタンダードのもとで「質」が追求され、グリーンウォッシュ(見せかけの環境配慮)かどうかの判断はさらに明確になっていくでしょう。
また、脱炭素に必要な政策や規制は、非国家アクターから求めていくものであるという機運も高まっています。各業界団体や政府に対し、1.5度目標に整合する方針や政策を求める、いわゆるロビイングやアドボカシーを、企業や自治体が自ら積極的に行うことも、非国家アクターがとるべき取り組みの重要な一部として評価されるようになりました。
脱炭素社会の実現に取り組む非営利団体の連合体 We Mean Businessは、COP28に向けて「Fossil To Clean」キャンペーンを開始。キャンペーンの一部として行われた政府に対し化石燃料からの脱却を求める公開書簡には、12月3日時点で、年間収益約220兆円に相当する200以上の企業が世界中から賛同しています。
12月5日には、日本の非国家アクターのネットワーク「気候変動イニシアティブ」に参加する186の企業や自治体、団体が、政府に対しカーボンプライシング政策の改善を求める提言書を発表しました。これから企業や自治体などの非国家アクターには、自らの削減の取り組みに加え、それを実現するサポートや変容を求め、政府や業界団体をも説得していくリーダーシップが問われていくことになるでしょう。
このように、COP28では企業や自治体などの非国家アクターに求められる行動や考え方が急速に深化していることが感じられました。COP28で得られた成果を、各国における今後の次期NDCの策定や政策の発展にどのようにつなげていくことができるのか。それは、政府だけでなくあらゆる非国家アクターを含む社会全体がどれだけ気候危機への対策に主体的に行動をしていけるかにかかっています。
日本はどう受け止めるべきか
今回、曲がりなりにも化石燃料からの転換の方向性が国際社会の総意として決まったことを受けて、日本としてもそれに応じた、国内対策および海外への支援対策を実施していかなければなりません。国内でのカーボンプライシングをはじめとした実効的な脱炭素対策に加え、海外支援においても、アンモニア発電のような石炭火力延命策から地道な再エネ・省エネへと重点をシフトしていくべきです。
また、今回のグローバル・ストックテイクを受けて、日本としてもそれを踏まえた次の削減目標を準備していかなければなりません。2035年60%(2019年比)を最低基準とした削減目標の準備に向けて、早期に国内検討を始めるべきです。
WWFジャパン気候グループ コメント
小西雅子
「温暖化の最大要因として化石燃料を正面からとらえ、2050年ネットゼロの達成に向けて化石燃料から再エネなどへ転換していくことに200ヶ国が参加するパリ協定において合意したことは、歴史的転換点と言っても過言ではないと思います。もちろんもっと明確に化石燃料廃止を明示した方がベターでしたが、それでも2015年にパリ協定が大変な交渉の末に成立した時には、とても脱化石燃料を合意できる日が来るとは想像できなかったので隔世の感があります。化石燃料ではなく再エネこそが主流エネルギー、それが世界の総意です!」
山岸尚之
「今回のCOPは、化石燃料から脱却していく方向性を明確に示したという点では大きな転換点と言えます。しかし、それは実施されてこそ。これからは、今回の結果を踏まえて、日本国内でも対策の強化(カーボンプライシングの強化)や野心的な次の削減目標(2035年60%削減を最低水準)の準備が必要です。そして、その準備は今から始めなければいけません。」
田中健
「この2週間、本当に世界中の多様な人々がそれぞれの立場で数々のメッセージを発信していました。交渉に影響を及ぼそうとする非国家アクターの勢いは、ますます濃密になったように感じます。まだまだ主流とは言えませんが、企業や自治体が必要な政策や規制を政府に求めたり、業界団体にポジティブな変容を求める行動は、これからますます評価されるものと思われます。2025年に提出される次期NDCの策定に向けて、日本でもより多くの非国家アクターが積極的に声をあげていくことを期待しています。」