【WWF声明】遅すぎるカーボンプライシング本格導入と拙速すぎる原発方針転換のGX基本方針案に抗議する

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2022年12月22日のGX実行会議で岸田首相はGX基本方針案を提示しました。しかし、カーボンプライシングの本格導入を欠き、他方で原発活用への方針転換が国民的議論無く拙速に決められました。WWFジャパンはそれらに改めて抗議します。2030年までに温室効果ガス排出量を半減させるためには、キャップ&トレード型排出量取引制度と再エネ・省エネ既存技術の最大限活用といった、国際的に実効性が認められた政策の導入が必要です。

2022年12月22日に政府官邸で第5回GX実行会議が開催され、岸田首相は成長志向型カーボンプライシングを中核とする「GX実現に向けた基本方針(案)」(以下、「本基本方針案」)を提示した。その中では、①企業の自主的削減目標に基づく排出量取引制度の将来的な導入、②革新炉開発・建設等の原子力活用を含むエネルギーの安定供給の再構築、③水素・アンモニア技術開発などへの投資支援策の実施が掲げられた。

WWFジャパンは、本基本方針案でカーボンプライシングが本格導入に至らず、他方で国民的議論を欠いて原発活用へ拙速に方針転換することに、改めて抗議する。パリ協定の掲げる1.5度目標とそれに不可欠な2030年までの温室効果ガス排出量半減の達成には、キャップ&トレード型排出量取引制度や再エネ・省エネ既存技術の最大限活用などの実効性ある排出削減策が必須である。またその政策の立案・実施は社会全体での議論に根差していなければならない。これらの点を繰り返し強調しつつ、本基本方針案が特に改善すべき3点を再度指摘する。

第一に、成長志向型カーボンプライシングは、企業の自主性に依存する点で実効性に疑問があり、制度導入のスピードも遅い(※1)。総排出量の上限の設定や制度参加、目標未達時の排出枠購入が法的に強制されるキャップ&トレード型排出量取引制度が早期に必要である。また検討プロセスはこれまで一部の企業や有識者のみの参加に留まっている(※2)。透明性と関連するアクターの参画を確保するべきである。

第二に、原子力の積極利用は従来の政府方針の転換にあたるが、国民的な議論を欠く形で極めて拙速に決定された(※3)。くわえて、革新炉開発・建設は、2030年までの排出量半減に貢献せず、再エネへの投資原資を奪う可能性がある。少なくともまずは、議論に広く国民が参加し、その熟議に基づいて原子力利用の方向性が決定されるべきである。

第三に、GXへの投資支援策にも改善が必要だ(※4)。排出削減効果が低く、パリ協定下のタイムラインにも整合しない水素・アンモニア混焼・専焼技術の追求を転換し、石炭火力発電の廃止目標・計画を直ちに設定すべきである。他方、地域間連系線の増強やペロブスカイト太陽電池の開発加速は、まさに2030年までの削減に資する点で評価できる。原資が限られるなか、これら再エネ・省エネ既存技術の導入拡大の支援こそがGX投資に求められる。

そもそも産業界の自主性頼みから脱却しない限り、国際的に認知されるカーボンプライスにはなりえない。キャップ&トレード型排出量取引制度や再エネ・省エネ既存技術の開発・実装に対する集中的支援こそが、本来は2030年までの排出量半減を達成する政策の中核をなす。他国の炭素国境調整措置などに曝される今こそ、国際的に実効力が認められる本質的な政策の導入を制度詳細の検討や関連法案の審議、そして社会全体での議論の中で実現させていくべきである。

(参照したWWFジャパンの声明)
※1:「脱炭素を達成する真の『成長』を志向するなら、早急なカーボンプライシング本格導入を!」(2022年12月1日付)
※2:「2030年目標達成のため排出削減を強く促すカーボンプライシングを透明性の高い議論に基づき導入することを要請する」(2022年11月4日付)
※3:「原子力の積極利用の方向性へ国民的議論なく大きく転換することに断固反対する」(2022年12月9日付)
※4:前掲1に同じ

<2023 年 1 月 19 日追記>
本件に関連して実施されたパブリックコメントにおいて、WWF ジャパンは以下の意見を提
出しました。
「GX 実現に向けた基本方針」に関する意見
「原子力利用に関する基本的考え方(案)」に関する意見
「今後の原子力政策の方向性と行動指針(案)」に関する意見

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