2030年目標達成のため排出削減を強く促すカーボンプライシングを透明性の高い議論に基づき導入することを要請する

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2022年10月26日に政府官邸でGX実行会議が開催され、成長志向型カーボンプライシング構想及びGXリーグの段階的発展に関する論点等が提示されました。今後、政府の提示する具体案が実効性を伴うカーボンプライシングとなるために、WWFジャパンは6つのポイントの充足を求めます。

2022年10月26日に第3回GX実行会議が開催され、成長志向型カーボンプライシング構想(以下、CP構想と呼ぶ。)及びGXリーグ(以下、GXLと呼ぶ。)の段階的発展に関する論点等が提示された。また並行してGXLに関する学識有識者検討会も開催されており、2023年度のGXLの開始に向けて詳細が議論されている。

本来、「成長志向型」という性格付けは、短期的なコスト負担を避けたり、「自主的」要素を増やしたりして抜け穴を生じさせるための言い訳としてではなく、中長期的な成長に必須な脱炭素型産業構造への転換に、真に貢献しうる制度を確保するために使われるべきである。

2021年開催のCOP26では、パリ協定における長期目標が事実上1.5度に引き上げられた。その達成には、今後10年の取組みが極めて重要と認識されたほか、2022年4月公表のIPCC第6次評価報告書第3作業部会報告書では2030年までに世界の温室効果ガス排出量を約43%削減させる必要性が示された。COP26を経てパリ協定の施行に関するルールブックも全て完成し、あらゆる政策と対策を総動員し、社会全体が行動を加速させることが求められている。日本は菅前政権が2021年4月に表明したとおり、目標こそ2030年度に温室効果ガスを2013年度比で46%削減、更に50%の高みを目指すとする。しかし、石炭火力発電の延命につながる電源投資制度や自主的取組みに基づくGXLの実施が目指されるなど、当該目標の達成に向けた政策は心もとない。

WWFジャパンは、2030年に2013年比46%削減はもちろんのこと、50%削減の達成をも実現する政策として、ボランタリーなものではなく、キャップ&トレード型の排出量取引制度(以下、ETSと呼ぶ。)の導入と炭素税の強化が今回こそ実現するために、今後提示される具体案が次の6点を満たすことを要求する。

(1) 排出削減の義務履行に向けた法的強制力を伴うこと

政府が来年度の開始を目指すGXLでは、目標の設定や達成など全てが参画企業の自主性に委ねられる。情報開示による金融市場等のガバナンスが想定されているが、総排出量の抑制や個々の目標達成を確保する上でエンゲージメントやダイベストメントでは限界がある。
ETSの場合、政府が制度対象事業者からの総排出量に法的な上限としてキャップを設定するほか、各企業は罰則の下で排出枠の調達を毎年求められる。また炭素税も最終的には強制徴収される。制度的な担保、罰則の必要性はGXL賛同企業も言及しており、排出削減を確実にするために法的強制力が不可欠の要素である。

(2) 広い範囲の排出主体を制度の対象とすること

十分なカバー率の必要性は政府も認識する一方で、現段階ではGXLへの参画は任意とされている。そのため、前述の学識有識者検討会でも言及のとおり、制度不参加や中途離脱のおそれを排除できていない。また、現状の参加インセンティブの不十分さはGXL賛同企業からも聞かれるほか、その削減効果も不確実である。翻ってETS・炭素税は法的な制度であるため、適切な要件の設定を通じて広範な排出主体が対象となる。

(3) 排出枠価格の上限・下限設定によって市場を過度に歪めないこと

政府の検討では、炭素価格の安定化のために市場取引価格の上下限の設定が議論されている。確かに一案だが、市場の炭素価格形成機能を制限し、社会的費用が十分に最小化されないおそれもある。また価格設定には難しさが伴う。本来ETSではキャップ(総排出量の上限)を時間の経過とともに縮小させていく予見性を示すことによって、炭素価格の長期的な上昇トレンドを確保していくものである。価格安定化策で制度の特長を没却しないようにするべきである。

(4) ETSの導入と炭素税の強化が共に早期に実施されること

ETSではキャップ(総排出量の上限)の設定により、炭素税よりも確実な排出削減の効果が期待できる。他方、ETSの対象とする事業所には一定以上の規模であること等の要件が設定されるため、当該制度がカバーする排出量も自ずと限定される。しかし化石燃料の輸入や精製等の上流を対象とした炭素税の強化が同時に実施されれば、サプライチェーンでの価格転嫁を通じ、広く社会に価格シグナルが届き得る。加えて、比較的早期に実施可能な炭素税の強化を行ないつつETSを検討・導入していくなど、両者の併用で2025年までの排出量ピークアウトへ迅速な政策展開をなし得る。このようにETSと炭素税は相互補完的であり共に実施するべきである。

(5) 排出削減の必要性を強く喚起すること

GXLやカーボン・クレジット市場の検討が進む中、クレジットの供給制度は整備されつつある。またCP構想では企業の脱炭素投資に対する政府支援も検討される。しかし、クレジットへの旺盛な需要も、行動変容も、投資もイノベーションも全て、企業や個人が排出削減の必要性に強く駆られてこそ生じる。需要創出に向けた官民協議会・国民運動では不十分である。経済・社会に広く法的強制力を及ぼすETS及び炭素税が、排出削減の切迫した必要性を創出できるほどの強さであってはじめて、2030年目標の達成とその他便益も期待できる。

(6) 透明性のある議論でETSの導入と炭素税の強化が実施されること

カーボンプライシングの影響の広さに鑑みると、その議論では高い透明性と関連するアクターの参画が不可欠である。しかし、CP構想やGXLに関する政府内の議論は、一部の企業や有識者のみの参加に留まり、議事は公開されず資料・議事要旨が事後的に公表されるに過ぎない。極めて閉鎖的であり、速やかな是正が必要である。

今後、社会全体を巻き込んだ透明性の高い議論を通じて、CP構想の具体案が上述の6点を満たし、早期かつ適切にETSの導入と炭素税の強化がなされるように、WWFジャパンは引き続き状況を注視し、政府に対して必要な提言・要求を行なっていく。

補遺

WWFジャパンが考える、日本で導入されるべきETS及び炭素税の概要は次のとおり。
<ETS>

  • 化石燃料の燃焼で温室効果ガスを直接排出する主体からの排出総量が制度の対象とされること。ただし、一定規模以上の事業所単位とする。
  • 制度対象全体の総排出量のキャップ(上限)を定め、日本の2030年目標と整合する形で経時的にそのキャップを縮小させていくこと。
  • 排出枠の初期配分を無償割当でなく、原則としてオークション方式で行なうこと。
  • 履行確保に十分な強さの罰則を設けること。
  • 第三者機関を活用したMRV(測定・報告・検証)制度を構築すること。
  • 5年ごとのNDC引上げにあわせるなど、定期的に制度レビューと改善を行なうこと。
  • 市場安定化、制度間連携、クレジットの使用制限などについて、排出削減目標の達成という制度の趣旨や効率性などの特長を没却しない形で、適切な措置を取ること。

<炭素税>

  • 全ての化石燃料の輸入量又は精製量を課税標準とし、当該化石燃料の輸入・精製を行なう事業者に課税すること。
  • 化石燃料ごとの炭素含有量に比例し、行動変容に十分な税率とすること。
  • ETS対象事業所を保有する事業者には還付を実施し、二重負担を回避すること。
  • 歳入は一般財源とすること。ただし、増加した歳入に相当する金額を、他の税制での特別措置で再エネ技術等の開発や家庭の支援に充てることは検討の余地がある。
  • ETSと一体的に、定期的なレビューと改善を行なうこと。

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