【WWF声明】原子力の積極利用の方向性へ国民的議論なく大きく転換することに断固反対する
2022/12/09
2022年8月24日の第2回GX実行会議での首相指示を受けて、経済産業省・資源エネルギー庁の審議会である総合資源エネルギー調査会電力・ガス事業分科会原子力小委員会(以下、「原子力小委」)は検討を進め、同年11月28日に原案を示した後、同年12月8日に原子力政策の方向性と行動指針案(以下、「本方向性案」)として公表した。そこでは、原発再稼働への総力結集、既設炉の最大限活用、次世代革新炉の開発・建設などに取り組むとする。2022年12月開催予定のGX実行会議を経て、岸田首相は本方向性案を今後10年間のロードマップの一環とすることが見込まれる。
WWFジャパンは、そのあまりにも拙速な議論の進行に、断固として反対する。2011年の東日本大震災における福島第一原子力発電所事故以来、政府は原発の新増設や建て替えを想定していないとしてきた。本方向性案は、これを大きく転換して原子力の積極活用を図るものであるにもかかわらず、国民的な議論を経ることなく作成された。こうした進め方は2022年参議院選挙以降2~3年は国政選挙が無いことに乗じたものとの誹りを免れない。
また、本方向性案が革新軽水炉等の次世代革新炉の開発・建設を志向する点に、特に強い疑問を併せて提示する。放射性廃棄物の最終処分の目途は依然立たず、超長期の管理や安全性への懸念もつきまとう。加えて、革新炉は商用運転開始まで長期間を要し、2030年半減が必要なパリ協定下のタイムラインに全く整合しない。更に、再生可能エネルギーの実装・向上に必要な原資を次世代革新炉の研究開発投資が奪いかねない。
原子力による災害のリスクはゼロにできず、万が一の際には国民の生命・身体・財産、並びに自然環境に甚大な被害が生じるおそれがある。そのため国民全員が原発利用には利害を有する。原子力利用に関する議論に広く国民が参加できる機会を保障し、その熟議に基づいて原子力利用の方向性が決定されるべきである。原子力小委での議事・資料の公開や、パブリックコメントは実施されているが、これらは行政の必要最低限の責務に過ぎない。憲法で適正手続を受ける権利が保障され、行政運営に透明性を求める行政手続法1条の趣旨を考慮すれば、実質において国民の意見が反映されるプロセスを確保すべきである。
例えば、原子力利用を国民が議論する公開の場を、経済産業省や資源エネルギー庁のみならず環境省・原子力規制委員会の対等な関与の上、日本各地で定期的に開催することが考えられる。その際には参加者の無作為抽出、開催方法の工夫による参加者の多様な属性への配慮、運営者の高い中立性の確保などが必要である。加えて、策定プロセスとその条件を、原子力基本法などの法律で明確に定めることが重要である。
WWFジャパンの試算では、原子力を段階的に廃止し2030年に向けて再生可能エネルギーを電力需要の50%まで高めることにより、2050年にはすべてのエネルギー需要を再生可能エネルギーで賄うことが可能だと示している。国はこういった様々な研究成果を真摯に参考にしながら、国民的議論を経たうえで、原子力に関する方針を定めるべきである。少なくとも全く国民参加の議論の場がないままで、原子力推進への方向転換を突然決定することは許されるものではない。