「プラスチックに係る資源循環の促進等に関する法律施行令案」等に関する意見表明


WWFジャパンは、「プラスチックに係る資源循環の促進等に関する法律(以下、本法)」が2021年6月に成立した際に、他の23団体と共同で提言を行う(※1)など、本法で不十分な点、カバーできていない点について指摘し、改善を働きかけてきた。しかしながら、2021年10月に新たに示された、「プラスチックに係る資源循環の促進等に関する法律施行令案等(以下、本施行令案等)」において、これらの改善点が依然として反映されていないことから、WWFジャパンは、本施行令案等に関する意見募集に際し、以下の通り意見を表明する。

1. 追加的なプラスチック汚染を根絶する目標の2030年への前倒し:

「プラスチックに係る資源循環の促進等を総合的かつ計画的に推進するための基本的な方針案(以下、基本方針案)」において参照している「大阪ブルー・オーシャン・ビジョン」は、日本政府が主導し、世界における海洋プラスチックごみによる追加的な汚染をゼロにまで削減することを目指すことをG20首脳が宣言した、評価に値するものである。但し2015年の国連サミットで採択された「持続可能な開発目標SDGs」では、海洋汚染を防止、削減するためのターゲット14.1において、「海洋堆積物や富栄養化を含む、特に陸上活動による汚染など、あらゆる種類の海洋汚染を防止し、大幅に削減する」ための期限を2025年までと定めている(※2)。それにもかかわらず、「大阪ブルー・オーシャン・ビジョン」では流出ゼロへの削減期限を2050年としており、2025年というSDGsの目標期限を実質的に取り下げてしまっているに等しい。世界では現在年間1,100万トンのプラスチックが陸域から海洋流出し、2040年には約3倍の年間3,000万トンに達すると予測されている(※3)。ついては、日本が率先して、2050年ではなく2030年までにプラスチックの流出を根絶することを目指すことで、世界における流出根絶目標についても2050年から大幅に前倒しさせる必要がある。

2.マイルストーン(目標)の明確化と、バイオマスプラスチック導入以外の目標の引き上げや期限前倒し:

基本方針案において「プラスチック資源循環戦略 」を参照し、以下の排出削減やリユース・リサイクル関連のマイルストーン(目標)を設定している。

  1. 2030年までにワンウェイプラスチックを累積25%排出抑制
  2. 2025年までにプラスチック製容器包装及び製品のデザインをリユース又はリサイクル可能なデザインにすること
  3. 2030年までにプラスチック製容器包装の六割をリユース又はリサイクル
  4. 2035年までに使用済プラスチックを100%リユース、リサイクル等により有効利用
  5. 2030年までにプラスチックの再生利用を倍増
  6. 2030年までにバイオマスプラスチックを約200万トン導入

基本方針案で示された「2050年カーボンニュートラルを実現」しつつ、環境への流出を2030年に前倒しで根絶するためには、新たな問題を引き起こす恐れのある「6)2030年までにバイオマスプラスチックを約200万トン導入」を除き、これら目標自体の引き上げや期限前倒しが必要である。「1)2030年までにワンウェイプラスチックを累積25%排出抑制」については、排出抑制目標をさらに引き上げるべきである。そのためにはこれまで通りの薄肉化や軽量化、リサイクル主体の取組では限界があり、使い捨て容器包装無しでの提供や、リユースが推進される社会を実現するための新たな仕組みづくりが求められる。「3)2030年までにプラスチック製容器包装の六割をリユース又はリサイクル」については、2030年までに原則としてプラスチック製容器包装の100%をリユース又はリサイクルする必要がある。「4)2035年までに使用済プラスチックを100%リユース、リサイクル等により有効利用」については、達成目標を2030年までへと前倒しすべきである。「5)2030年までにプラスチックの再生利用を倍増」については、2030年までにバージン素材を100%用いたプラスチック製品の製造を原則として禁止にした上で、目標を上積みすることが望ましい。
なお「1)2030年までにワンウェイプラスチックを累積25%排出抑制」や「5)2030年までにプラスチックの再生利用を倍増」においては、その基準年や基準数値が示されていないため、ワンウェイプラスチックの排出を総量として何トン減らすのか、プラスチックの再生利用を何%とするのかが不明である。これらを明確に示し、目標を数値化することが求められる。

3.事業者への努力要請に一定の強制力をもたせること:

基本方針案において、事業者に以下を「努めるもの」として要請している。

  1. プラスチック使用製品設計指針に即してプラスチック使用製品を設計すること
  2. プラスチック使用製品の使用の合理化のために業種や業態の実態に応じて有効な取組を選択し、当該取組を行うことによりプラスチック使用製品廃棄物の排出を抑制すること
  3. 自ら製造・販売したプラスチック使用製品の自主回収・再資源化を率先して行うこと
  4. 排出事業者としてプラスチック使用製品産業廃棄物等の排出の抑制及び再資源化等を実施すること

これらに基づき、具体的な事業者の取組についても、特定プラスチック使用製品の提供事業者への必要に応じた指導や助言、多量提供事業者への勧告、公表、命令といった規定はあるものの、原則として強制力がない要請に留まっている。このように努力を要請するだけでは、一部の意欲的な事業者が率先して取り組むという効果は期待されるものの、全体としての効果が限定されることが容易に想定される。引き上げ、前倒しした目標を確実に実現すべく、これらの事業者への取組要請に、一定の強制力を持たせる必要がある。

4.バイオプラスチックを含めた代替素材の使用につき、やみくもに推進することなく、必要不可欠な製品や部品についてのみ、持続可能性が担保できるものを使用するように義務付けること:

基本方針案や、「プラスチック使用製品設計指針案(以下、製品設計指針案)」
にて、製品材料について、プラスチック以外の素材への代替や、バイオプラスチックの利用を促進するとしている。基本方針案において参照している「プラスチック資源循環戦略 」においても、「6)2030年までにバイオマスプラスチックを約200万トン導入」というマイルストーンが示されている。この200万トンという量は、2018年実績4.7万トン(※4)の42.5倍となるが、このように代替素材の生産を急拡大させることで、新たな環境・社会問題を発生させる可能性が高い。バイオマス以外の代替素材についても、急激な生産拡大に伴い同様の懸念がある。ついては、安易に代替素材への切替えを検討する前に、必要不可欠ではない製品や部品の生産を最小化すべきである。その上で、代替素材の生産に関わる土地利用転換に伴う環境破壊やリユース・リサイクル可能性などライフサイクル全体での環境負荷、食料との競合等を含む、環境や社会への総合的な影響について検証を行い、「特に悪影響の大きい代替素材の使用を禁止する」必要がある。第三者による認証制度を活用する際には、「代替素材の含有率」を認証するだけでは不十分であり、上記の通り、環境や社会への悪影響を確実に回避できるような認証制度を導入する必要がある。さらに、持続可能性が担保された認証製品については、政府が優先調達するだけでは効果が限定的であり、国や自治体、事業者に対し、認証製品の導入を段階的に義務付けていくべきである。

5.主務大臣による設計認定制度について、国や地方公共団体、事業者に対し、認定プラスチック使用製品の使用に努めるよう単に要請するのではなく、一定程度の認定製品の使用を義務付けた上で、認定されていないプラスチック使用製品の使用を制限していくこと:

国には、環境や社会へのライフサイクル全般に渡る悪影響を確実に抑えられるように製品設計指針を適正に設定した上で、その指針に適合して設計された製品が確実に使用されることと、製品設計指針に適合しない環境・社会リスクの高い製品の使用を根絶していくことの双方につき責任がある。ついては、認定プラスチック使用製品について、国や地方公共団体、事業者が率先して調達するよう努めるだけでは不十分であり、国はこれらの主体に認定プラスチック使用製品の使用を段階的に義務付けるとともに、認定されていないプラスチック使用製品の使用を段階的に制限していく必要がある。

6.主に家庭から排出されるプラスチック使用製品について、分別収集、再商品化その他のプラスチックに係る資源循環の促進等に必要な措置を講じるために、製造事業者や使用事業者に、必要なコストの負担を求めること:

容器包装リサイクル法では、市町村により分別収集された容器包装について、同法の指定法人に再商品化を委託し、製造事業者や利用事業者にその再商品化費用の負担等を義務付けている(※5)。一方、本施行令案等では、市町村が分別収集した容器包装プラスチック以外のプラスチック使用製品について、容器包装リサイクル法における指定法人に再商品化を行うことを委託することとなっているものの、この再商品化の費用は、製造業者や使用事業者ではなく、市町村が実質的に負担することになる。「製品の設計から消費後の段階までライフサイクル全般に渡り金銭的責任を含む責任負担を、自治体や納税者から生産者に移転することで、廃棄物総量の削減や資源循環を促進し、環境負荷を低減する」という、拡大生産者責任の原則(※6)に沿った形で、市町村が分別収集して指定法人に再商品化を委託したプラスチック使用製品についても、再商品化費用の負担を、製造事業者や使用事業者に求めるべきである。

7.特に自然環境への流出の可能性が高い、漁具・農業用資材に使用されるプラスチックについても、本施行令案等における明確な対象とすること。そして、製造事業者や使用事業者への環境配慮設計や流出防止措置の導入、適切な漁具管理や流出時の報告・回収を義務付け、必要な基盤整備等を行うこと:

プラスチック製の漁具や農業用資材においては、その使用特性上、自然環境への流出の可能性が特に高いものの、流出防止や流出後の回収のための管理制度が確立していない。しかしながら、「プラスチック使用製品廃棄物及びプラスチック副産物の排出の抑制、回収、再資源化等の促進を総合的かつ計画的に推進するため」という基本方針にもかかわらず、本施行令案等において、プラスチック製の漁具・農業用資材について、実質的に全く触れられていない。ついては、漁具及び農業用の資材等による環境汚染を防止し資源循環を推進するため、拡大生産者責任の原則に基づき、製造・使用事業者への環境配慮設計や流出防止措置の導入を義務付ける必要がある。そして、Global Ghost Gear Initiativeによる国際的な最良管理手法(※7)等を参考に、流出を防止し流出後の環境影響を軽減、回復させるために、漁具マーキング等適切な管理や流出時の報告、回収を義務付け、国が地方公共団体と協力して必要な基盤整備等を行うことが求められる。

8.特に製造・流通・使用過程で生ずる一次マイクロプラスチックの環境への流出の防止のために、意図的に使用されるマイクロプラスチックの製造・利用を早期に禁止し、予防原則の観点から、一次マイクロプラスチック発生抑制対策を早期に導入すること:

マイクロビーズ・マイクロカプセルなど、化粧品などで意図的に混入されるマイクロプラスチックの使用につき、アメリカなど世界では規制の動きが進む(※8)が、日本では業界団体の洗い流しのスクラブ製品における使用中止の自主規制は存在する(※9)ものの、広範にその製造・利用を規制する法制度は未だ存在しない。また、合成タイヤの摩耗や、合成繊維の衣料の洗濯などにより、大量の一次マイクロプラスチックが発生し、自然環境に流出していると推定されている(※10)が、こちらについての法規制も存在しない。本施行令案等においても、「プラスチック使用製品廃棄物及びプラスチック副産物の排出の抑制、回収、再資源化等の促進を総合的かつ計画的に推進するため」という基本方針にもかかわらず、上記についての対策は全く盛り込まれていない。ついては、意図的に混入されるマイクロプラスチックの製造・使用につき早急に全面禁止することが求められる。併せて、発生の量やリスクが特に大きいとされる製品を中心に、環境への影響調査を行いつつ、予防原則の観点から一次マイクロプラスチックの発生抑制対策を早期に導入しなければならない。

9.別途、明確な発生抑制目標を有し、プラスチック汚染問題全体を包括した基本理念となるような「基本法」を早急に制定すること:

上記のように、本施行令案からは、漁具や農業用資材への対策、一次マイクロプラスチック対策がほぼ完全に抜け落ちているが、影響が広範にわたるプラスチック汚染問題の包括的かつ本質的な解決のためには、本法のような個別法に基づく施行令案等の設定だけでは制度的に限界がある。ついては、明確な発生抑制目標を有し、プラスチック汚染問題全体を包括的に解決するための基本理念となるような「基本法」を早急に制定することが求められる。WWFジャパンは他の13団体と「脱プラスチック戦略推進基本法(案)」を策定し、2021年2月に23団体共同で公表している(※11)。

10.地球規模のプラスチック汚染を包括的に解決するために、各国がすべきことを明確に規定し、世界各国からの幅広い参加を促進できる、法的拘束力のある国際協定の早期発足に向けて、日本政府として最大限貢献すること:

地球規模のプラスチックのライフサイクル全般に関わる汚染や気候変動問題を解決するためには、世界の多くの国が参加し、以下の内容を盛り込んだ国際協定(※12)を早急に発足させる必要がある。

  1. 法的な拘束力を持たせること
  2. 各国が何をしなければならないかを明確に示すこと
  3. 継続的に改善を図ること
  4. 幅広い参加と遵守を求めること
  5. 問題解決に意欲的であること

「大阪ブルー・オーシャン・ビジョン」の発足を主導した日本政府には、世界各国と協力し、法的拘束力のある国際協定の早期発足に向けて最大限貢献することが求められる。

【参照元】

※1. WWFジャパン (2021). 「プラスチックに係る資源循環の促進等に関する法律」成立に際してのNGO共同提言. https://www.wwf.or.jp/activities/statement/4637.html (閲覧日: 2021年11月1日)

※2. United Nations. Sustainable Development Goals. Goal 14: Conserve and sustainably use the oceans, seas and marine resources. TARGETS AND INDICATORS. https://sdgs.un.org/goals/goal14 (閲覧日: 2021年11月1日)

※3. The Pew Charitable Trusts and SYSTEMIQ (2020). Breaking the Plastic Wave: A Comprehensive Assessment of Pathways Towards Stopping Ocean Plastic Pollution.

※4. 環境省 (2021). バイオプラスチックを取り巻く国内外の状況.

※5. 経済産業省 (2006). 容器包装リサイクル法 活かそう、「資源に」.

※6. OECD (2016). Extended Producer Responsibility. Updated Guidance for Efficient Waste Management.

※7. Global Ghost Gear Initiative (2021). Best Practice Framework for the Management of Fishing Gear.

※8. FDA (2020). The Microbead-Free Waters Act: FAQs.  https://wWWFda.gov/cosmetics/cosmetics-laws-regulations/microbead-free-waters-act-faqs (閲覧日: 2021年11月1日)

※9. International Pellet Watch Japan (2016). 日本化粧品連合会がマイクロビーズの自主規制を開始. http://pelletwatch.jp/2016/03/31/%E6%97%A5%E6%9C%AC%E5%8C%96%E7%B2%A7%E5%93%81%E9%80%A3%E5%90%88%E4%BC%9A%E3%81%8C%E3%83%9E%E3%82%A4%E3%82%AF%E3%83%AD%E3%83%93%E3%83%BC%E3%82%BA%E3%81%AE%E8%87%AA%E4%B8%BB%E8%A6%8F%E5%88%B6%E3%82%92/(閲覧日: 2021年11月1日)

※10. IUCN (2017). Primary Microplastics in the Oceans: A Global Evaluation of Sources.

※11. WWFジャパン (2021). 「脱プラスチック戦略推進基本法(案)」を策定. https://www.wwf.or.jp/file/20210212_ocean01.pdf(閲覧日: 2021年11月1日)

※12. WWF (2021). Success Criteria for a New Treaty on Plastic Pollution. https://www.WWF.no/assets/attachments/SUCCESS-CRITERIA-for-a-new-treaty-on-plastic-pollution-FINAL-DRAFT-30-AUG-2021-WEB-medium-res.pdf(閲覧日: 2021年11月1日)

以上

関連サイト
環境省(2021年).「プラスチックに係る資源循環の促進等に関する法律施行令案」等に関する意見募集について. http://www.env.go.jp/press/110005.html (閲覧日: 2021年11月5日)

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