提言:気候変動に取り組む企業が求める 3つの戦略と9つの施策 ~自然エネルギーの電力を利用しやすい国に~
2020/01/31
気候変動を抑制するためには、地球規模で脱炭素社会を実現する必要がある。日本においてもエネルギーの効率化を推進するとともに、化石燃料から自然エネルギーへ転換を図ることが求められている。事業活動に大量の電力を必要とする企業にとっては、自然エネルギーで作られた電力を安価に利用できることが望ましい。量の拡大とコストの引き下げに向けて、政府と電気事業者に重点的に取り組んでいただきたい3つの戦略と9つの施策を提言する。
[戦略]
1. 2030年までに国全体の発電電力量の44%以上を自然エネルギーで供給する。
2. 2030年までに自然エネルギー(太陽光と風力)の発電コストを化石燃料(石炭とガス)の発電コストよりも低減させる。
3. 2030年までに自然エネルギー100%の電力を他の種別の電力と同等の価格で販売する。
*自然エネルギー100%の電力:環境負荷の低い自然エネルギーだけで発電したCO2フリーの電力(基礎排出係数・調整後排出係数ともにゼロ)
[施策]
◇エネルギー転換の推進
1. 自然エネルギーの開発に関する規制緩和(環境に配慮したうえで)
2. FIT(固定価格買取制度)に依存しない自然エネルギーの導入促進
3. 優先給電ルールの改定(自然エネルギーを最優先に供給)
◇送配電ネットワークの改善・強化
4. 日本版コネクト&マネージの早期実施
5. 送電網の強化に予算を重点配分
6. 配電レベルの電力融通を促進(送電事業と配電事業の分離も検討)
◇企業・自治体の利用促進
7. 需要家と発電事業者でPPA(電力購入契約)を可能に
8. 環境価値のトラッキングシステムを整備
9. FIT非化石証書の入札最低価格を引き下げ
自然エネルギーユーザー企業ネットワーク(RE-Users)
課題検討ワーキンググループ
[事務局]
公益財団法人 自然エネルギー財団
一般社団法人 CDP-Worldwide Japan
公益財団法人 世界自然保護基金(WWF)ジャパン
*この提言は自然エネルギーの電力の利用拡大に取り組む企業が情報共有の場として参加する「自然エネルギーユーザー企業ネットワーク」(RE-Users)の活動の一環で、2019年4月から開始した課題検討ワーキンググループに参加した大手企業20社の意見をもとに、事務局が作成したものである。
参加企業(50音順)
花王、コニカミノルタ、ソニー、大和ハウス工業、ナブテスコ、野村総合研究所、富士通、
丸井グループ、三菱地所、ユニリーバ・ジャパン、リコーほか(公表可能な企業だけ記載)
施策の背景と必要性
1. 自然エネルギーの開発に関する規制緩和
自然エネルギーを利用した発電設備を開発するにあたり、環境に配慮しながら用地を選定したうえで建設することは当然である。日本においては全国各地に荒廃した農地・林地が増加しており、再生が望まれる。農地・林地には古くからの規制(農地の転用禁止など)が残っていて、自然エネルギーの発電設備を建設する適地であっても開発できないケースが多い。規制を緩和することによって、環境に配慮しながら荒廃した農地・林地の有効活用と自然エネルギーの拡大を両立させることが可能になる。さらに自然エネルギーの開発をトラブルなく進めるために、国が適正な立地を指定するゾーニングも有効な対策である。洋上風力発電と漁業の問題についても、国が明確な指針を示すことが望まれる。
2. FITに依存しない自然エネルギーの導入促進
固定価格買取制度(FIT)は日本における自然エネルギーの導入量を飛躍的に拡大させる効果を発揮してきた。今後も地域の資源を生かした発電設備の開発・導入に有効である一方、FITに依存しないコスト競争力のある自然エネルギーの電力を増やすことが国全体の導入量を拡大するうえで重要になる。企業が施設や敷地に自然エネルギーの発電設備を導入して電力を自家消費すれば、FITに依存しない自然エネルギーを効率的に増やすことが可能になる。FITの適用を受けない発電設備の導入を促進するために、コスト削減を支援する対策が求められる。企業や家庭が自家発電した自然エネルギーの電力を余すことなく自家消費できるように、蓄電池の導入を支援する対策も急務である。逆にコストを増加させる可能性がある新たな施策(託送料の発電側基本料金など)を実施することは避けるべきである。
3. 優先給電ルールの改定
海外の主要国では、限界費用の低い電力から優先的に供給するルール(メリットオーダー)が一般的である。火力発電や原子力発電よりも限界費用の低い自然エネルギーの電力を優先して供給するルールによって、電力の需要が増えてもコストを最小限に抑えることができる。日本ではメリットオーダーではなく、出力を変動できない原子力・水力・地熱を優先させる独自のルールを採用している。海外と同様にメリットオーダーに変更すれば、電力コストを低減できるうえに、CO2も放射性廃棄物も排出しない自然エネルギーの電力をより多く利用することが可能になる。
4. 日本版コネクト&マネージの早期実施
自然エネルギーの発電設備を開発するにあたって、送電網に接続できない問題が全国各地で発生している。送電網の運用ルールが硬直的で実態に合わない形で作られているために、実際には送電網に十分な空き容量があるにもかかわらず、新規の発電設備を接続できない。この問題を改善するために政府が打ち出した「日本版コネクト&マネージ」を可能な限り早期に実施すべきである。送電網を運用する事業者には、日本版コネクト&マネージに迅速に対応することを求めたい。東京電力パワーグリッドが日本版コネクト&マネージにのっとり、送電網の空き容量を活用する「試行的な取り組み」を千葉県で開始した。こうした取り組みを全国各地に拡大すべきである。
5. 送電網の強化に予算を重点配分
自然エネルギーの資源量が豊富な地域でも、発電した電力を供給するための送電網が十分に整備できていない場所が残されている。資源量が豊富な地域と電力需要が大きな地域を結ぶ送電網を整備することは、長期的に自然エネルギーの電力を拡大するうえで不可欠である。国のエネルギー関連予算を送電網の強化に重点的に配分して、全国に分散する自然エネルギーの発電設備を最大限に利用できる送電網を早期に構築していただきたい。
6. 配電レベルの電力融通を促進
これから太陽光発電を中心に自然エネルギーの電力を自家消費する企業や家庭が増えていく。その余剰電力を無駄なく効率的に活用するためには、配電網のレベルで電力を融通する必要がある。現在のところ配電網による電力融通には多くの制約がある(逆潮流を制限するなど)。より柔軟に配電網を利用できる施策を講じて、地域内で自然エネルギーの電力を融通しやすくすれば、地域間をつなぐ送電網の負荷を軽減する効果も期待できる。加えて配電レベルの託送料金を低く抑えるなどコスト面の対策を実施することにより、地域内の電力融通・取引を拡大することが可能になる。欧州の先進国では送電網と配電網の運用事業者を独立させて、それぞれで最適な運用体制を構築している。日本においても2020年4月の発送電分離(送配電部門の中立化)に続いて、送電部門と配電部門の分離を検討すべきである。
7. 需要家と発電事業者でPPAを可能に
現在の電気事業法では、需要家に電力を販売できるのは国に登録した小売電気事業者に限られている。これに対して欧米の先進国では、需要家である企業が発電事業者と電力購入契約(PPA)を直接締結できる国や地域が多い。企業にとっては電力調達手段の選択肢が増えて、より条件に合う自然エネルギーの電力を購入しやすくなる。発電事業者は電力の販売先を多様化できるため、健全な競争環境が生まれる。自然エネルギーの発電コストの低下を促して、国全体の電力コストを低減する効果も期待できる。日本においても需要家と発電事業者のPPAを可能にすることが望ましい。
8. 環境価値のトラッキングシステムを整備
欧米をはじめアジアや南米の主要国においては、自然エネルギーの電力が生み出す環境価値(CO2を排出しないなどの効果)を国全体で管理するシステムがある。環境価値の元になる発電設備、発電期間、環境価値の所有者などの情報をトラッキング(追跡確認)できる。自然エネルギーの電力を利用する企業はトラッキングシステムで環境価値を確認でき、購入後は環境価値の所有状況を証明することが可能になる。日本ではグリーン電力証書、J-クレジット、非化石証書、そのほかの自然エネルギー由来の電力、といった形で環境価値の管理が統一されておらず、企業が環境価値をもとに電力を選択して利用状況を証明できる共通の手段がない。海外と比べて明らかに遅れをとっている。国全体の自然エネルギーの電力を対象にしたトラッキングシステムを早急に整備する必要がある。
9. FIT非化石証書の入札最低価格を引き下げ
日本では自然エネルギーで発電した電力の約半分は固定価格買取制度(FIT)で買い取られ、その環境価値は非化石証書として小売電気事業者に販売されている。現在のところFIT由来の非化石証書は市場における最低入札価格が1.3円/kWhに設定されていて、小売電気事業者は非化石証書を組み合わせた自然エネルギー100%の電力を通常の価格よりも高く販売している。海外では自然エネルギー由来の証書を0.1~0.2円/kWh程度で購入できる国が多い。FIT非化石証書は発行量が膨大であることから(2018年度の発行量は約800億kWh分)、入札最低価格を引き下げれば、小売電気事業者や企業のコスト負担を軽減できるとともに、販売量が増加してFIT賦課金の低減に寄与する。合わせて最終販売価格の決定権がある小売電気事業者には、非化石証書の購入コストを上回るような価格で販売することのないように望む。