【第4部:電力系統編】 第2章 ダイナミックシミュレーションでみた地域間連系線の送電容量の推定
2013/09/17
自然エネルギーによる電力シミュレータを利用して石炭・石油・ガス・原子力・水力・地熱・バイオマスの発電を含めて、各地域における1年間の1時間ごとの電力需給を検討した(参考文献2)。このシミュレータでは、ある地域である時刻に電力供給が不足すると、その不足電力が外部から供給されたものとして記録する。これから1年間の不足電力(MW)とその電力量を知ることができる。同様に余剰が生じれば余剰電力(MW)が記録される。
不足電力は、その地域が外部から電力を導入する必要規模を示しており、1年間の最大値をみれば、地域への最大送電規模を推定するのに有効である。
2.1 ダイナミックシミュレータ
開発したプログラムは、日本全体について、電力需要、既存発電設備、太陽光・風力発電設備、蓄電設備(揚水+蓄電池)が与えられた場合に、拡張AMEDAS2000の気象データを用いて1年間の1時間ごとの平均出力のシミュレーションを行う。電力需要は毎月の電力需要にもとづいて1日24時間の日負荷パターンを設定している(全国の負荷曲線を一律とおいた)。このシミュレータを10電力の各地域に適用して計算を行っている(参考文献2)。
まず、沖縄については完全に独立して電力供給ができるように、太陽光と風力、さらに変動分をバイオマス発電が補うようにし、2050年にはエネルギー自給自足できることを確認した。沖縄以外の9地域については、次のような順序で計算を行った。
1. 9地域(北海道から九州)をひとつの地域として計算
初めに、日本全体では電力の不足が生じないかを検討した。沖縄を除く9地域をひとつの地域として想定したケースについて、必要な太陽光と風力の規模を設定して、1年間の電力需給を計算した。その結果、1年間に一度も電力の不足が生じないことを確認した(余剰はあるが不足はない)。
2.地域ごとの独立のシミュレーション
次に、それぞれの9地域ごとに独立のシミュレーションを行って、1年間の最大の電力不足分(最大不足電力)を検討した。9電力地域全体では不足が出なくても、地域ごとに見ると限定した蓄電池容量と太陽光と風力の供給容量によっては不足が生じることがある。自然エネルギーが大量に利用されるときには、地域の資源が有効に利用されるので、各地域はエネルギー自立に近づいていく。しかし、関東や関西のような大都市を含む電力需要の大きい地域では、その地域内だけでは供給が困難なときもあるため、地域外からの送電が必要になってくる。
3.いくつかのグループに切断した場合のシミュレーション
9地域を結ぶ送電網全体をいくつかのグループに切断して、それぞれのグループの地域の最大の不足電力と余剰電力を計算した。このようにすると、切断面において双方向に必要な最大の送電規模、つまり地域間送電線の必要容量を知ることができる。
図14の太線は切断区分の例を示している。例1は、北海道と東北の間を切断、例2は東北と関東の間を切断、例3は九州+四国+中国の地域を他の地域から切断したケースである。この切断面によって送電網を分けてシミュレーションを行い、切断した2つの地域間の電力のやりとりを求めた。切断部分における2つの地域の年間最大不足電力(MW)を検討することができる。
2.2 地域間送電容量の推定方法
さらに、このプログラムを利用していくつかの複数の地域をまとめたグループを対象にした計算を行って、以下のような各地域間の送電規模を推定する方法を検討した。
まず、「北海道+東北+関東」地区(東日本地区)と、「中部+北陸+関西+中国+四国+九州(西日本地区)」地区の2つの地区を区分して考えた。(図14の例4)この両者の間
の送電容量はできる限り小さくなるように考えている。関東と中部の間の周波数変換の問題を避けるだけでなく、地理的・気象条件的にも合理的である。理由は以下のとおり。
- 両者は、関東と関西という大規模需要地をそれぞれ有している。
- 太陽光については、どの地域でも需要に比例した発電規模を設定している。
- 関東には、北海道と東北から風力を供給できる。
- 関西には、北陸、中部、中国、九州などから風力が供給できる。
送電容量の計算をする過程で、風力発電設備と蓄電池の各地域への配分によって、計算結果が変化することがわかった。ここでは多様な地域配分の計算結果を検討し、適切な配分を決定して以下を確認した。
- 沖縄を除く9地域全体の計算では不足分を生じない。
- 「①北海道+②東北+③関東」地区では不足分は生じない。
- 「④中部+⑤北陸+⑥関西+⑦中国+⑧四国+⑨九州」地区では不足分を生じない。
ここで「不足分を生じない」とあるのは、プログラムの計算結果のなかで1年間におけ る「最大不足電力(MW)」の項目がゼロになること示している。
以上のような前提のもとで、送電区間ごとに表10のような推定方法を作成した。
ここで、②東北→①北海道および③関東→②東北の送電区間(方向)が省略されているのは、両者とも後のシミュレーション結果において、常にゼロとなるからである。
なお、中部・北陸間(南福光変電所)、関西・四国間(阿南紀北直流幹線)に現在送電線があるが、ここでの計算対象としていない。この区間は迂回路として上記計算結果の一部を配分すれば、別途計算可能である。
なお、ここでは同時に「不足電力量(MWh)」にも注目して、その大きさも必要に応じて検討している。送電容量が大きくても、その発生時間はごくわずかであって、その電力量は小さい場合は、送電線を敷くよりもデマンドレスポンスで対応したほうが経済性が高い場合があると思われるからである。
また、以下の計算によって推定している送電容量は、拡張AMEDAS気象データ2000年を使用しており、気象データによって結果は異なってくる。また、関東と中部間の(つまり東西連系線をまたぐ)送電をできる限り小さくする方針で検討したが、現在計画されている300万kW程度の送電容量の規模が設置できるのであれば、さらに広域運用が可能となるので有効である。同時に大規模な災害などの緊急時の活用が可能になると考えられる。
2.3 シミュレーション結果と地域間送電容量
現状の地域間の連系線容量は、図15に示すようになっている(参考文献5)。
図のボックスのなかの数値は、各地域の最大需要電力であり、ボックス間には地域間の送電容量が示されている。【 】内は、地域間連系設備(全設備健全時)の熱容量を示しており、その下には2013年度8月平日昼間帯の運用容量の算定結果が示されている。
(1)2020年の計算結果
最初に9つの地域を個別のものとして扱って、1年間のシミュレーションを行った(表 11)。右端の全国計とあるのは、全国を一つの送電網として計算したケースである。
次にいくつかの地域グループでシミュレーションを行った。そして地域別にシミュレーションした結果と、地域グループ別にシミュレーションした結果のなかから、生じている不足電力の最大値を他地域から送電を受けねばならない送電容量と推定している。
2020年の場合には、地域間の送電必要量はゼロであることがわかる。以上の計算結果から、2020年には各地域は独立に電力供給を行っていることがわかった。
(2)2030年の計算結果
2030年の個別の地域別シミュレーションでは、不足電力は、関東700万kW、関西609万kW、中国154万kWであり、他の地域ではゼロである(表13)。
地域のグループの計算結果では、関西は中国から433万kW、北陸から49万kW、中部から126万kW、九州から中国へ281万kWという結果になっている(表14)。この結果を送電図として表現すると図16のようになる。
(3)2040年の計算結果
個別地域のシミュレーションでは、不足電力は、関東で1136万kW、中部337万kW、関西827万kW、中国312万kW、四国122万kWが必要となっている(表15)。
地域グループのシミュレーションでは、北海道から東北へ318万kw、中国から関西へ877万kW、九州から中国へ757万kWとなっている(表16)
以上の計算結果から各地域間の最大の送電容量は、北海道・東北間が318万kW、東北・関東が1136万kW、関西・中部間が337万kW、中国・関西間が877万kW、中国・四国間が122万kW、九州・中国間が757万kWになっている(図17)。
2050年には、北海道、東北、北陸、四国、九州では、都市型の地域に比べて、水力+地熱の割合が大きくなってエネルギー自給割合が高くなり、とくに北海道では水力と地熱だけでほとんど需要を満たせるようになっている。沖縄は、太陽光、風力、バイオマスにより自給できるように計画した。
2.4 デマンドレスポンスの可能性
デマンドレスポンスは、電力の利用者側が供給変動に対して行動することによって供給と需要のマッチングをとる活動である。利用者側は、供給の変動に応じれば電気料金を割り引くなどのインセンティブが与えられれば、緊急に必要ではない電気機器のスイッチを切るか、スマートメータで自動的に使用停止にできる可能性がある。供給不足の生じる時 間が小さく、かつ規模も極端に大きくなければ、地域間送電線よりもデマンドレスポンスによって対応できると思われる。完全に不足分をゼロにするには、送電容量を増大すればよいが、短い時間のために大きな送電設備を準備する費用よりも、デマンドレスポンスのほうが低費用であると予想される。
そこで不足分の発生する時刻を検討した。
図19、図20には、2050年における関東と関西の1年間の不足電力の発生回数とその電力量の時刻別分布を示している。早朝と夕刻から夜にかけての発生が多いことがわかる。これは1日の電力需要パターン、太陽光、風力の関係などから決まる現象である。昼間の時間帯に不足電力が少なく、早朝や夜間に多いことは、EVからの電力供給や電力のデマンドレスポンスを考察するうえで貴重な情報である。
2050年における1年間の不足電力の発生回数(1回は1時間)は、関東で413時間、関西で430時間になっている(表19)。不足電力の平均は、それぞれ440万kW, 286万kWになる。
もし、このような早朝や夜間の時間帯にスマートメータを利用して、自動的にまたは電力利用者の応答によって電力需要を小さくできれば、送電線への負担を減少できる可能性がある。
脱炭素社会に向けたエネルギーシナリオ提案 <第四部 電力系統>
第1章 | シナリオ実現に必要な基本要素の検討 |
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1.1 燃料用電力を含むシナリオ 1.2 電力供給構成 1.3 火力発電の設備容量 1.4 地域別発電設備構成 1.5 揚水発電と蓄電池の地域別配分 1.6 太陽光発電の地域別配分 1.7 風力発電の地域別配分 |
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第2章 | ダイナミックシミュレーションでみた地域間連系線の送電容量の推定 |
2.1 ダイナミックシミュレータ 2.2 地域間送電容量の推定方法 2.3 シミュレーション結果と地域間送電容量 2.4 デマンドレスポンスの可能性 |
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第3章 | 費用の算定 |
3.1 地域間送電線費用 3.2 地域内送電線費用 3.3 太陽光発電の系統安定化費用 3.4 余剰電力利用費用 3.5 蓄電池費用 3.6 総合的費用算定 |
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第4章 | まとめ |
第5章 | 実現のために必要な施策 |
5.1 自然エネルギーを主役とする電力系統システムの3つのポイント 5.2 (1)送電網の独立性を高め、公平性を確保するために必要なこと 5.3 (2)気象予測を使った出力予測システムを活用した広域の中央制御の系統運用 5.4 (3)効率的な電力市場とルール設計 5.5 おわりに |
※単位について
1000TOE=1000トン石油換算、MTOE=百万トン石油換算、1TOE=11,630kWh 本報告では最終用途エネルギーに注目して1次エネルギーは扱っていない。 ただし、自然エネルギーからの電力を燃料に転換するときに生じる損失は供給構成に含めている。