脱炭素社会に向けたエネルギーシナリオ提案 【第4部:電力系統編】
2013/09/24
WWFジャパンは、「脱炭素社会に向けたエネルギーシナリオ提案」(以降WWFシナリオと呼ぶ)として、これまでに以下のような報告を継続的に作成、発表してきた。
今回はこれらに続くもので、2050年に100%自然エネルギーシナリオを実現するための送電系統、蓄電システム、余剰電力の燃料利用などの技術的な道筋、およびその費用について検討している。主要な検討内容は以下のようになっている。
(1)100%自然エネルギーシナリオ
100%自然エネルギーシナリオでは、純粋な電力の供給のほかに燃料供給用(電化もしくは水素生成)に太陽光と風力を利用する計画である。このため、純粋に電力を供給するために必要な規模より大きな太陽光と風力の設備を準備することで、供給が変動しても電力の不足がないようにし、生じる余剰電力を燃料用に利用するシナリオを検討した。
(2)電力供給構成
2020、2030、2040、2050年における各年の石油・石炭・ガス・原子力・水力・地熱・太陽光・風力を含む電源構成を検討している。原子力は2040年までにゼロとなり、石油・石炭・ガスの発電設備は、40年寿命で削減する場合を参考にして、2050年にはゼロになることを想定した。火力発電は太陽光と風力により生じる供給変動を調整する役割を持っており、設定した設備利用率で常時は運転し、供給が変動して不足するときには定格出力に引き上げて調整機能を持つようにした。
(3)太陽光と風力の特性検討と地域配分
拡張AMEDAS気象データ2000を用いて824地点について太陽光発電と風力発電の1時間ごとの1年間の発電電力量を計算した。風力発電は設備利用率が18%を超えるサイトとして90地点を抽出した。沖縄を除く9つの地域について1年間の1時間ごとの平均出力の地域間の相関分析を行って補完関係を検討した。太陽光発電設備は消費電力量に比例して各地域へ配分した。風力発電については、設備利用率、各地域の消費電力量を検討して、各地域への配分を行った。
(4)揚水発電と蓄電池
揚水発電については現状の規模が将来も利用可能とした。太陽光と風力の規模と電力需要を考慮して、地域間の送電容量が小さくなるように各地域へ蓄電池の配分を行った。
(5)地域間送電容量の推定
沖縄については別の扱いとし、沖縄を除く全国の9地域について、はじめに地域ごとの電力供給量と全国の電力供給量を、1年間のダイナミックシミュレーションを行って算出した。そのうえで、いくつかの地域をグループにして行うダイナミックシミュレーションによって、各地域間の送電容量を推定した
(6)送電線の規模と費用
地域間送電費用、太陽光と風力の規模に応じて必要となる地域内送電線費用について検討した。
(7)蓄電費用の検討
蓄電池費用を電気自動車(以降EV)の利用と揚水発電の規模を考慮して検討した。
(8)余剰電力の利用法
各地域で太陽光と風力の変動によって余剰電力が発生するが、まれに発生する最大の余剰電力に対応した水素生産設備を建設すると、水素生産設備費用が過大になる。そこで余剰電力の発生状況のヒストグラムから燃料への転換などを有効利用可能とするための適正な設備規模について検討した。余剰電力からの燃料電池車(以降FCV)と産業用燃料としての水素供給のための水素生産装置の規模と費用を検討している。
脱炭素社会に向けたエネルギーシナリオ提案 <第四部 電力系統>
第1章 | シナリオ実現に必要な基本要素の検討 |
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1.1 燃料用電力を含むシナリオ 1.2 電力供給構成 1.3 火力発電の設備容量 1.4 地域別発電設備構成 1.5 揚水発電と蓄電池の地域別配分 1.6 太陽光発電の地域別配分 1.7 風力発電の地域別配分 |
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第2章 | ダイナミックシミュレーションでみた地域間連系線の送電容量の推定 |
2.1 ダイナミックシミュレータ 2.2 地域間送電容量の推定方法 2.3 シミュレーション結果と地域間送電容量 2.4 デマンドレスポンスの可能性 |
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第3章 | 費用の算定 |
3.1 地域間送電線費用 3.2 地域内送電線費用 3.3 太陽光発電の系統安定化費用 3.4 余剰電力利用費用 3.5 蓄電池費用 3.6 総合的費用算定 |
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第4章 | まとめ |
第5章 | 実現のために必要な施策 |
5.1 自然エネルギーを主役とする電力系統システムの3つのポイント 5.2 (1)送電網の独立性を高め、公平性を確保するために必要なこと 5.3 (2)気象予測を使った出力予測システムを活用した広域の中央制御の系統運用 5.4 (3)効率的な電力市場とルール設計 5.5 おわりに |
※単位について
1000TOE=1000トン石油換算、MTOE=百万トン石油換算、1TOE=11,630kWh 本報告では最終用途エネルギーに注目して1次エネルギーは扱っていない。 ただし、自然エネルギーからの電力を燃料に転換するときに生じる損失は供給構成に含めている。