【第4部:電力系統編】 第4章 まとめ
2013/09/17
本報告においてとりまとめた主要な結論は以下のとおり。
- 自然エネルギーとして、国内にある水力、地熱、太陽光、風力、バイオマスなどを組み合わせて利用することにより、2050年には100%自然エネルギーによる供給が可能である。
- 太陽光と風力は変動するエネルギー供給源であるが、その規模を大きくとって、1年間の供給量に不足が生じないようにして、同時に発生する余剰電力を燃料用に供給するシナリオを検討した。2050年には太陽光発電4.77億kW、風力発電1.13億kWの規模になる。風力発電出力の地域間の相関係数は、東北・北海道間が0.5であり、そのほかの地域間では0.3以下であり、地域間の補完関係が利用できることがわかった。
- 2020年〜2040年の電力供給については、現在ある化石燃料の発電設備を削減しつつ、適切に利用することによって、自然エネルギーの供給の変動を吸収することができる。
- 日本の10電力の供給地域の電力需要と自然エネルギーの供給構成を検討し、1年間の1時間ごとのダイナミックシミュレーションにより地域間の最大送電容量を推定した。その計算方法は、沖縄を除く全国9地域間を、各地域間で2つに切断し、分断された各地域内の不足電力分から、必要な送電容量をもとめた。
2050年の送電容量は、北海道・東北間が721万kW、東北・関東が1654万kW、関西・中部が691万kW、北陸・関西が121万kW、中国・関西が891万kW、中国・九州が918万kW、中国・四国が218万kWになった。この結果にもとづいて地域間送電線の建設費用を検討した。また、想定した太陽光、風力の規模を考慮して、地域内における送電関連と系統安定化の費用を推定した。これらの地域間・地域内送電線と系統安定化の合計費用はおよそ16兆円になることがわかった。 - 沖縄を除く9地域の地域間の送電については、以下の各点が判明した。
関東・中部地域間の送電をできる限り小さくして、周波数変換の問題を小さくできる。特に大きな電力消費地域は、関東と関西である。関東地域の不足分に対しては、北海道と東北から余剰電力を供給し、関西地域の不足分に対しては、中部・北陸・中国・九州・四国地域からの余剰電力を供給できる。沖縄については他の地域とは独立して自給が可 能である。 - 変動を吸収する手段として、既存の揚水発電、電力用蓄電池、EVのバッテリーを組み合わせて利用することを検討し、電力用蓄電池の費用を推定した。揚水発電の利用可能な規模によるが、2050年までに必要な蓄電池費用は4.1 〜7.3兆円と推定された。
- 発生する余剰電力は大きなピークがあるので、そのヒストグラムを検討した。燃料用 に利用する場合に余剰電力を扱う設備の規模を余剰電力の最大値(309GW)の39%(120GW)にしても、余剰電力の78%を有効に利用できることがわかった。
- 余剰電力は、ヒートポンプ、EVに電力として使用するほか、水の電気分解により水素を生産して燃料電池車と高熱用燃料に利用することができる。2050年までの水素生産装置の費用は4.7兆円の規模になった。
- ここで検討した項目についての2050年までの費用合計は、24.9〜28.0兆円であり、40年間にこれを毎年支払うとすると年間6277 〜7012億円となり、毎年のGDPの0.1%程度である。
第1章から第4章で示したことを、系統マップとして2020年「自然エネルギー転換時代」、2030年「自然エネルギー主役時代」、2040年「脱原発時代」、2050年「自然エネルギー100%時代」と名づけてまとめる。(WWFジャパン作成)
脱炭素社会に向けたエネルギーシナリオ提案 <第四部 電力系統>
第1章 | シナリオ実現に必要な基本要素の検討 |
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1.1 燃料用電力を含むシナリオ 1.2 電力供給構成 1.3 火力発電の設備容量 1.4 地域別発電設備構成 1.5 揚水発電と蓄電池の地域別配分 1.6 太陽光発電の地域別配分 1.7 風力発電の地域別配分 |
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第2章 | ダイナミックシミュレーションでみた地域間連系線の送電容量の推定 |
2.1 ダイナミックシミュレータ 2.2 地域間送電容量の推定方法 2.3 シミュレーション結果と地域間送電容量 2.4 デマンドレスポンスの可能性 |
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第3章 | 費用の算定 |
3.1 地域間送電線費用 3.2 地域内送電線費用 3.3 太陽光発電の系統安定化費用 3.4 余剰電力利用費用 3.5 蓄電池費用 3.6 総合的費用算定 |
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第4章 | まとめ |
第5章 | 実現のために必要な施策 |
5.1 自然エネルギーを主役とする電力系統システムの3つのポイント 5.2 (1)送電網の独立性を高め、公平性を確保するために必要なこと 5.3 (2)気象予測を使った出力予測システムを活用した広域の中央制御の系統運用 5.4 (3)効率的な電力市場とルール設計 5.5 おわりに |
※単位について
1000TOE=1000トン石油換算、MTOE=百万トン石油換算、1TOE=11,630kWh 本報告では最終用途エネルギーに注目して1次エネルギーは扱っていない。 ただし、自然エネルギーからの電力を燃料に転換するときに生じる損失は供給構成に含めている。