アマゾンにおけるジャガー保護 活動報告(~2023年12月)
2024/04/05
- この記事のポイント
- ラテンアメリカの生態系の頂点に立つ大型肉食獣ジャガー。その存在は、獲物となる多様な生物の息づく自然の豊かさを象徴するものでもあります。しかし、ジャガーの生息地は今、各地で失われており、ジャガーも減少が懸念されています。WWFブラジルは現在、ジャガーの主要な分布域の一つである、アマゾン北部でジャガーの調査活動を展開。その情報を基にしたジャガーの保全を目指しています。WWFジャパンはこの取り組みを支援。今回は2023年7月から12月まで現地で行なわれた活動と、その成果を報告します。
ラテンアメリカの自然とジャガーの受難
ジャガーは、中南米の森やサバンナ、山地林や湿地帯などに広く生息する野生動物で、南北アメリカ大陸に生息する野生のネコ科動物では最大の体躯を持ちます。
環境への適応力も高く、出会った動物はすべて獲物にできる、と言われるほど。湿地帯などでは、ワニや魚なども重要な食物にしています。
ジャガーはかつて、北米のテキサスやアリゾナなどにも生息していましたが、現在は安定して繁殖する個体群は確認されていません。
また、中米各地でも農地や放牧地の拡大、開発などによって、生息地の自然が分断され、多くの地域で絶滅が心配されています。
かつては1,500万平方キロともいわれた、広大なジャガーの分布域は、現在870万平方キロに減少。
さらに、家畜を襲う害獣としての駆除や密猟の影響も深刻化しており、ジャガーの個体数は減少していると考えられています。
謎につつまれたジャガーの実情を明らかに
そうした中で、南米ブラジルのアマゾン北部は、ジャガーにとって比較的安全で安定した、貴重な生息域となっています。
特に、アマゾン川北岸に広がるアマパ州を中心とした一帯は、自然度の高い熱帯雨林が今も残り、獲物となるペッカリーなどの野生動物も豊富に生息。
ジャガーと同じく、南米を代表する大型肉食獣であるピューマも、多く息づいています。
生物多様性が豊かなこの森を守る取り組みは、ジャガーの保全を考える上でも、重要な意味を持つものといえるでしょう。
しかし、このアマパ州一帯は、多くが起伏に乏しい平地の地形。しかも、雨季には川が増水して冠水する森を含めた、広大な熱帯雨林が広がっており、人が立ち入ることもままなりません。
重要な生息域であることは間違いない反面、植生や野生動物の調査も容易にはできないため、どれくらいの密度で、どれくらいの野生のジャガーが生息しているのか、ほとんどわかっていないのです。
そこでWWFブラジルでは、保全活動を行なう上で欠かせない、ジャガーの生態や行動についての調査活動を展開。その結果をもとに、国や州政府にジャガーの保全政策の実現を働きかけようとしています。
2022年7月からはWWFジャパンも、日本国内で寄付金を募り、この取り組みを支援。いまだ謎に包まれた、アマゾンの森に生きるジャガーの現状を明らかにする取り組みを目指しています。
新たな調査地での調査を開始
調査1年目、WWFブラジルはシコ・メンデス生物多様性保全研究所(ICMBio)と協力し、アマパ州中部のアラグァリ川流域で、カメラトラップ(調査用の自動カメラ)を使用した調査活動を実施。
地図上で格子状に設定した3 km間隔、36カ所の調査地点に、計72台のカメラを設置し、約2カ月にわたり画像データを収集しました。
この地域は陸路がなく、調査地点に至るには、川をボートで付近まで移動し、その後は森に分け入っていかねばなりません。このカメラの設置だけで、調査チームは10日を費やすことになりました。
その後、入手した1万5,000点以上の画像データを解析。ジャガーの姿を捉えた19点の動画を含む、1,500点あまりの野生動物の映像を記録することができました。
しかし、広大なアマゾン北部全体から見れば、この調査でカバーできた地域はごく一部。ジャガーはより広く、多様な環境を利用しながら生きています。
そこで、活動の2年目となる2023年7月からは、アマパ州の北端、大西洋に面した保護区のカボ・オランジ国立公園での調査を開始しました。
6,573平方キロの面積を誇るこの国立公園は、広大なアマゾンの熱帯雨林の中でも、海岸部にまで森が広がる、珍しい貴重な植生が残る場所。
また、カシポレ川やウアサ川など、複数の川の流れや河口域が随所に見られる、ウェットランド(湿地)の環境としても重要で、世界の湿地を保全する「ラムサール条約」の登録地にも指定されています。
こうした場所でジャガーがどのように息づき、どれくらい生息している可能性があるのか。今回の調査はその一端を解き明かす挑戦です。
カボ・オランジ国立公園での調査
調査は前年と同じく、森の中、3 km間隔で設けた36カ所の調査地点に、72のカメラトラップを約60日間にわたって設置し、その後データを回収、分析する方法で行なわれました。
設置した場所は、雨季になると川の増水で水没する氾濫原の森と、水没しない少し高い場所の森で、道はなく、所々はボートで移動する必要があります。
調査拠点となったのは、カボ・オランジ国立公園の南部、園内にある人口1,000人ほどのクナーニ村です。
クナーニ川のほとりにあるこの村にたどり着くには、アマパ州の州都マカパの町から自動車で幹線道路を北上すること360km、さらに未舗装の悪路を53km、計5時間以上も走らねばなりません。
さらに、自動車を降りた後も、クナーニ川にかけられた200mの吊り橋を渡る必要があります。
さまざまな困難を乗り越えて
拠点自体がこうした場所ですから、調査用のカメラの設置も難航を極めました。
調査チームは3つ編成され、総員は19名。プロジェクトを共に推進するICMBio(シコ・メンデス生物多様性保全研究所)の調査員や、調査中荷物を運んだり森の中でのキャンプ生活をサポートするスタッフ、さらに村在住のガイドらで構成されました。
調査に携わるスタッフの中には、他の地域での調査に参加したことのある経験者もいたほか、事前にWWFブラジルのパートナーであるフィールドワーク・コーディネーターからも、調査用機器の扱いなどについてのトレーニングも行なわれていました。
しかし、1日に片道最大15kmも、道なき熱帯雨林の中を歩いて、調査地点を目指す調査員の負担は大きく、カメラの設置の計画や手順の見直しを迫られることになりました。
また、場所によっては、森の中でGPS信号が失われ、正確な座標の特定できなくなる事態に全ての調査チームが遭遇。位置情報の記録が困難となる場面もありました。
さらに、もう一つ、今回の調査では調査チームが強く意識していたリスクがありました。それは、2023年にアマゾン地域を襲った異常気象に伴う深刻な干ばつです。
ただでさえ気温と湿度の高い森の中での作業は、身体に大きな負担となります。それが干ばつにより、さらに酷くなれば、通常と同じように行動すること自体が難しくなります。
今回は、事前に関係者の間でこのリスクがきちんと認識され、対策を講じていたため、問題はありませんでしたが、気候変動のようなアマゾン全体を脅かす問題は、こうしたフィールドの現場にも、影響を及ぼし始めています。
調査の結果は今後明らかに
このカメラトラップの設置は、2023年11月30日から12月9日にかけて行なわれ、事故等もなく無事に終えることができました。
設置したカメラは、2月中旬以降に回収、その後、データを取り出して分析し、ジャガーをはじめ、カメラが捉えた野生動物の数と、確認地点を明らかにする予定です。
ジャガーは果たして、どれくらいの密度、数がいるのか。
その獲物となる野生動物は、何が、どれくらいいるのか。
また、前年の調査と異なる点は出てくるのか。
60日にわたり、森の中で記録を続けたカメラの中身が、教えてくれるに違いありません。
カメラの回収は、また設置の時と同じ大きな困難を伴うものとなりますが、日本からもこの取り組みを応援しながら、ジャガーの未来につながる成果を期待したいと思います。
WWFジャパンの「野生動物アドプト制度」について
WWFジャパンは、絶滅の危機にある野生動物と、その生息環境を保全する世界各地のプロジェクトを、日本の皆さまに個人スポンサー(里親)として継続的にご支援いただく「野生動物アドプト制度」を実施しています。
現在、支援対象となっているのは、アフリカ東部のアフリカゾウ、ヒマラヤ西部のユキヒョウ、南米アマゾンのジャガーの保護活動。今回ご報告した取り組みにも、ご参加いただいている皆さまより寄せられたご支援が活用されました。
この場をお借りして、心より御礼申し上げます。
また、この活動の輪を広げていくため、ご関心をお持ちくださった方はぜひ、個人スポンサーとしてご支援に参加いただきますよう、お願いいたします。
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