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野生生物の違法取引撲滅を!拡がる運輸業界での取り組み

この記事のポイント
野生生物の密輸(違法取引)の撲滅に向けて、運輸業界での取り組みが拡がっています。特に、たくさんの人やモノが行き来する空港で働く人は誰でも、密輸を防ぐ機会を持っています。そこで2019年12月12日、ANAと成田国際空港会社が協力し、空港で働く職員を対象にしたトレーニングを実施しました。WWFジャパンの野生生物取引監視部門TRAFFICは、2018年に続き実施を支援。意識の向上と関係者同士の連携を通じた、運輸業界全体での取り組み強化を目指しています。

象牙や皮革、骨や角、またペットにされる生きた個体まで、さまざまな形で行なわれる野生生物の取引。

その背景には人の利用、すなわち需要があります。

こうした需要を満たすための取引は、基本的に法律を守り、合法的に行なわれています。

しかし、世界では違法に取引される密輸も数多く行なわれており、その規模は、把握されているだけで年間2兆9,000億円にのぼると試算されています。

現在では、その規模と深刻さから、麻薬や人身売買などと並ぶ世界4大犯罪のひとつに数えられています。

ペット利用のために密猟・密輸が続くカワウソ。中でもコツメカワウソについては日本人が関与する密輸が続いている。
©David Lawson / WWF-UK

ペット利用のために密猟・密輸が続くカワウソ。中でもコツメカワウソについては日本人が関与する密輸が続いている。

違法取引は、例えば、野生生物の国際取引を規制する「ワシントン条約(絶滅のおそれのある野生動植物の種の国際取引に関する条約)」のルールなどを破って行なわれる行為ですが、実際に発覚する事例はごくわずか。氷山の一角に過ぎないとみられています。

背後にあるのは、同じく違法に野生動物を殺す密猟。
たとえば、高値で取引され、需要も高い象牙を狙った密猟では、多くのゾウが密猟の犠牲になり、毎日55頭が殺されているとも言われています。

アフリカゾウと象牙のアクセサリー。<br>アジア諸国の富裕層を中心とした需要から、密猟・密輸が後を絶たない。<br>
©Greg Armifield / WWF-UK

アフリカゾウと象牙のアクセサリー。アジア諸国の富裕層を中心とした需要から、密猟・密輸が後を絶たない。

©TRAFFIC

そしてそうした違法行為を取り締まるはずの職員や、その国の政治家による不正行為や汚職も、問題を深刻化させています。

またさらにその他にも、取引を規制するルールが整っていない地域などでは、合法とも違法とも言えない取引が数多く存在します。

そうした取引が今、野生の動物・植物を絶滅の危機の追いやる大きな要因の一つになっているのです。

運輸業界が背負うリスクと責任

こうした事態を解決するため、各国政府は保護区の監視官(レンジャー)によるパトロールや違法行為の取り締まり、さらに空港や港の税関における水際での摘発などの対策に取り組んできました。

しかし、乗客の手荷物、積荷、国際郵便、クーリエ便など、あらゆる輸送手段を使って行なわれる野生生物の密輸は、行政の努力だけでは防ぎきれません。

そこで飛行機や、船、トラックといった運輸に関わる人々に、この問題への理解と、解決に向けた協力、参加が、社会的な責任として期待されているのです。

また、こうした運輸にかかわる企業の職員は、密輸され、押収された生きものに接触することで、怪我をしたり、病原菌に触れるリスクにもさらされています。

近年、特に水際である空港や、そこに行き来する航空会社の職員が、税関など実際の取り締まりにあたる機関と連携する重要性が広く認識され始めています。

航空業界ができること

航空を含めた運輸業界では、近年この野生生物の違法取引に関する取り組みが、国際的にも強化されてきました。
その大きなきっかけになったのが、2014年に、イギリスのケンブリッジ公ウィリアム王子が発起人となって立ち上げた、野生生物連合・違法な野生生物製品の輸送に関する国際的タスクフォースです。

これを受け、2016年3月には、野生生物の違法取引撲滅に向けた11の誓約が盛り込まれた「バッキンガム宮殿宣言」が策定され、輸送に関わるおよそ40の企業・団体がこれに署名。企業自らが行動し、違法な輸送を削減することを目指す意思を明らかにしました。

現在では60近くの組織がこの内容に合意し宣言に署名をしています。

こうした企業による自主的な取り組みや意思表示は、違法取引の撲滅にあたり、大きな意味を持っています。

特に、航空業界を中心に海外との水際にあたる空港を起点として働く職員は、乗客と接触する時間も長く、不審物や不審者を目撃する機会が多くあります。

また、取り締まりの権限を持たない航空会社や空港で働く職員であっても、税関など、適切に対処ができる人に迅速な報告・通報をすることを通じ、違法行為の摘発に貢献することができます。

押収記録から明らかになった航空路線を利用した野生生物の違法取引のルート:2009年~2019年<br>※点の大きさは押収量に比例する(空港)<br>
©C4ADS

押収記録から明らかになった航空路線を利用した野生生物の違法取引のルート:2009年~2019年※点の大きさは押収量に比例する(空港)

2018年の世界の旅客数は44億人、運航された航空便は4,610万便。
政府の方針で、2020年までに観光客数を4,000万人に増やすことを目指す日本でも、今後さらに野生生物の違法取引が深刻になるおそれがあります。

そうした中、バッキンガム宮殿宣言にも署名している全日本空輸株式会社(ANA)が2018年12月6日、日本の航空会社では初めて、野生生物の違法取引対策をテーマとした、社員向けのトレーニングワークショップを開催。

WWFジャパンの野生生物取引調査部門であるTRAFFICは、その実施を全面的にサポートしました。

2018年3月、ANAはバッキンガム宮殿宣言に署名したことを機に、野生生物の違法取引撲滅に向けた取り組みを独自に進めています。(ANAのウェブサイトより)

2018年3月、ANAはバッキンガム宮殿宣言に署名したことを機に、野生生物の違法取引撲滅に向けた取り組みを独自に進めています。(ANAのウェブサイトより)

そして、2019年12月12日、ANAは成田国際空港株式会社(NAA)と協力し、今度は自社の社員に留まらず、成田空港で働く全職員を対象にした、同様のワークショップを開催しました。

ワークショップの概要

プログラム(同様の内容で2日間全3回実施)

プログラム(同様の内容で2日間全3回実施)

  ワークショップの様子 12月12日

ワークショップの様子 12月12日

ワークショップの様子 12月13日

ワークショップの様子 12月13日

実際に水際で差し止められた野生生物由来製品の展示(啓発用に経済産業省よりお借りしているもの)

実際に水際で差し止められた野生生物由来製品の展示(啓発用に経済産業省よりお借りしているもの)

当日は、前回と同様、TRAFFICがROUTESパートナーシップ(*)のプログラムを利用し、野生生物の違法取引についての概要と、そうした不正行為を発見した際の対処についてトレーニングセッションを提供。
さらに、法律を執行する国の機関である税関の職員も情報を提供。空港のような施設と執行機関が連携することの重要性も強調されました。

2019年は、行なった3回のセッションに合計117名が参加。
参加者からは、「自身の業務に関わりがある事をはじめて認識した」、「何かできることがあるかもしれない」と、実際の業務との繋がりを理解した前向きな意見を聞くことができました。

さらに、今回取り組みの重要性を認識し新たに連携に加わったNAAの執行役員からは「航空のスピードや利便性が、野生生物等の違法取引に悪用されている。これを阻止できるのはやはり空港だと思う」との力強いコメントがありました。

*ROUTESパートナーシップ

https://routespartnership.org/
「ROUTES: Reducing Opportunities for Unlawful Transport of Endangered Species(絶滅のおそれのある種の違法な輸送削減に関する取り組み)」として2015年に立ち上がった、輸送セクターを支援するパートナーシップ。 ROUTESは、野生生物の違法取引を阻止するため、政府機関、輸送セクターである企業と執行機関が連携して取り組むことを目指した協力関係(パートナーシップ)です。 具体的には、違法取引のルートやパターン、密輸者の言動の分析から、現場の職員がいち早く違法取引を発見し、執行機関と連携して摘発率を上げること。また、より多くの監視の目を増やすこと、社員や乗客の意識向上を目指すことを目的としたものです。 輸送セクター職員を対象としたワークショップは、そのトレーニングの一環として実施されます。TRAFFICも、トレーニングツールの作成や実際の実施にあたり協力を行なっています。

【動画】野生生物の違法取引において空港職員が貢献できること

トレーニングのポイント

野生生物がどのようなものに利用・取引されているか:<br>様々なものに利用されている野生の動物・植物。養殖や繁殖、栽培なども多く行われているが、野生から採取し利用しているものもまだまだたくさん存在する。<br>

野生生物がどのようなものに利用・取引されているか: 様々なものに利用されている野生の動物・植物。養殖や繁殖、栽培なども多く行われているが、野生から採取し利用しているものもまだまだたくさん存在する。

航空業界における野生生物の違法取引によるリスクについて:<br>違法取引が横行することで、企業が滞在的に受けるリスクが多数存在する。特に生きた動物の取引では、現場で働く職員に直接的な被害(感染症や怪我)が及ぶことが想定される。<br>

航空業界における野生生物の違法取引によるリスクについて: 違法取引が横行することで、企業が滞在的に受けるリスクが多数存在する。特に生きた動物の取引では、現場で働く職員に直接的な被害(感染症や怪我)が及ぶことが想定される。

野生生物の違法取引がもたらす社会に対するリスクについて:<br>違法取引が横行することで、国の産業にも影響が及ぶことや、時に組織犯罪が関与しているケースもあり、国の安全保障にも関わる社会的リスクも高い。<br>

野生生物の違法取引がもたらす社会に対するリスクについて: 違法取引が横行することで、国の産業にも影響が及ぶことや、時に組織犯罪が関与しているケースもあり、国の安全保障にも関わる社会的リスクも高い。

リスクを回避する上でも重要となる4つのアクション:<br>空港で働く職員が違法取引撲滅において貢献できることでもあり、税関など適切に対処できる人へ報告・通報することが重要なカギとなる。<br>

リスクを回避する上でも重要となる4つのアクション: 空港で働く職員が違法取引撲滅において貢献できることでもあり、税関など適切に対処できる人へ報告・通報することが重要なカギとなる。

国境を越えて行なわれる野生生物の違法取引をなくしていくためには、多くの人が問題を認識し、協力することが何よりも重要です。

さらに、空港のような場所での監視を強化し、「野生生物の違法取引は絶対に許さない」という企業の姿勢や、社会の風潮を醸成してゆかねばなりません。

WWFではこの取り組みを継続し、日本の運輸業界全体で連携が拡がるよう、日本国内での違法な野生生物取引問題への対策を支援していきます。

イベント詳細

『航空業界みんなで違法取引から野生生物を守ろう』

日時:2019年12月12日(木)15時~17時
場所:成田国際空港 NAA本社ビル
主催:全日本空輸株式会社(ANA)
共催:成田国際空港株式会社(NAA)
参加者数:成田空港職員 66名

『グループみんなで違法取引から野生生物を守ろう』

日時:2019年12月13日(金)
   ①12時~14時
   ②15時~17時
場所:成田国際空港 ANAスカイセンター
主催:全日本空輸株式会社(ANA)
参加者数:ANAグループ社員 51名

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