国境を越えてやってくる動物たち


街中や駅で、時々「ここは日本?」と思うことがあります。英語に留まらず飛び交うさまざまな言葉。ここ数年、海外から観光で訪れる人たちが急増してきました。

私も恩恵を受けていますが、LCCの発展などのおかげで気軽に海外旅行ができるようになったのは嬉しいこと。

ですが、こうした国境を越える人の行き来の増加は、野生生物にとって少々困った事態になっています。

国際的な交通網の発達が、ペット販売などを目的とした野生動物植物の密輸にも利便性を与えてしまっているのです。

実際、行き交う人や物に紛れ込ませる密輸の手口は多様化し、摘発件数も増加。検査やセキュリティの目も十分に行き届いていません。

利用される飛行機や船などの輸送関連企業にとっても、これは頭の痛い問題。

そこで、この問題に取り組むため、税関やNGOなどとタッグを組み、対策強化に力を入れる企業が最近は増えてきました。

セキュリティ強化はもちろん、業界全体で連携を図るべく、取引ルートや密輸の手口について情報を共有。さらに通報する仕組みや、そのためのシステム開発などを、協力して進めているのです。

象牙、サイの角、爬虫類、鳥類における押収件数の推移-空港での発覚件数(報告書より)

国別の執行能力を数値化したもの。空港での摘発件数などから計算したもので、数字が大きいほど執行能力が高いことを示す。日本は25%と低め。ただし、国ごとに報告体制の差があることや、中継地点での検査は頻繁には行われないため、最終仕向地での摘発(違法取引発覚)率が上がる可能性が高くなる。

違法取引のルート-各国が報告する空港での押収データからマッピング(報告書より)
※丸の大きさはボリューム

2015年には、政府や税関、陸・海・空の輸送業界と、私たちのようなNGO(民間団体)が共同して密輸を取り締まるパートナーシップも誕生しました。

これに参加しているWWFとトラフィックも、税関へのトレーニングや違法取引に関するデータや分析といった長年培ってきた知見を提供しています。

そんな中、今回パートナーシップでは、過去に収集したデータの分析結果などをまとめた初めての報告書を発表しました。

それぞれの参加主体が、それぞれの強みを活かして取り組むこの活動。
私たちも引き続きサポートしていきます!(トラフィック:西野)

関連情報

5月17日、イヴァト国際空港(マダガスカル)でスーツケース2つに詰め込まれた230頭のホウシャガメが押収された。ナイロビを経由してマレーシアまで運ばれる飛行機に乗る直前、税関職員によって発見された。カメたちは無事に保護されたが、犯人は消え去ってしまった。(ケニア航空が利用された)

世界で最も密猟されている哺乳類と言われるセンザンコウ。特にウロコが伝統薬利用のために大量に密輸されている。5月には、クアラルンプール国際空港(マレーシア)で700kg(1400頭分)が押収された。ガーナとコンゴ民主共和国からドバイ経由でマレーシアに到着した。(エミレイツ航空が利用された)

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自然保護室(野生生物 グループ長)、TRAFFIC
西野 亮子

学士(芸術文化)
2009年よりTRAFFICにて広報分野を中心に従事し、イベント運営、出版物作成などワシントン条約に関する普及啓発に努める。2016年からは重点種(特に注力すべき種)プログラム推進に携わり、取引を中心とした現状調査を担当。2018年以降は、関係する行政機関や企業へ働きかけ、取り組み促進を促す活動に従事し、野生生物の違法取引(IWT)の撲滅、持続可能ではない野生生物取引削減を目指す。ワシントン条約第70回常設委員会参加。東京都象牙取引規制に関する有識者会議委員(2022年3月終了)

「野生生物を守る」ことを起点に、そこに暮らす人、その場所の環境、そして利用する側の意識、すべての段階で取り組みが必要です。生息地から市場まで、それらを繋ぐことが私の役割です。

人と自然が調和して
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WWFは100カ国以上で活動している
環境保全団体です。

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