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開幕迫る!ワシントン条約第18回締約国会議(CoP18)

この記事のポイント
野生生物の取引を規制することで種を絶滅から守る「ワシントン条約」の第18回締約国会議(CITES-CoP18)が、2019年8月17日から28日にかけてスイスのジュネーブで開催されます。設立から45年以上を経て、持続可能な利用から野生生物犯罪まで幅広い取り組みの議論の場となったワシントン条約。CoP18では、日本も深くかかわる象牙取引に大きな注目が集まるほか、サメやウナギなどの水産種、ペット利用されるカワウソや爬虫類も議題に上ります。

ワシントン条約(CITES)と締約国会議(CoP)

35,000種を超える動植物の輸出入を規制

「ワシントン条約」は、正式名称を「絶滅の恐れのある野生動植物の種の国際取引に関する条約」といい、英語の頭文字をとってCITES(サイテス)とも呼ばれます。

条約名にあるように「国際取引」、つまり輸出入を規制することで、野生生物の過剰な利用を防ぐことを目的としています。

この条約で現在、国際取引が規制されている野生動植物の種数は、動物が5,800種、植物が30,000種以上にのぼります。

ワシントン条約は、1973年にアメリカのワシントンで採択され、1975年に発効。2019年7月時点で183の締約国(182か国とEU)が加盟する大きな国際条約です。日本は1980年から加盟しています。

アオザメ(Isurus oxyrinchus)。CoP18で附属書Ⅱ掲載が提案されている
© Brian J. Skerry / National Geographic Stock / WWF

アオザメ(Isurus oxyrinchus)。CoP18で附属書Ⅱ掲載が提案されている

「附属書」による取引規制

ワシントン条約には、「附属書」と呼ばれる規制対象種のリストがあります。
約5,800種の動物と30,000種以上の植物は、いずれもこのリストに掲載されています。

附属書は、Ⅰ、Ⅱ、Ⅲに分かれ、それぞれ異なる規制がされています。

附属書 規制の内容と代表種 掲載種数
附属書Ⅰ 商業目的の国際取引が禁止。 ジャイアントパンダやウミガメなど、絶滅の恐れが高い動植物    およそ1,000種
附属書Ⅱ 商業目的の取引は可能。ただし、その取引が種にとって有害でないことを輸出国が証明し、許可することが条件。 マホガニーやサメ類など    およそ34,600種
附属書Ⅲ その動植物が生息する国が、保全のために国際的な協力を求めている種 およそ200種

加盟国は、これら3つの附属書に応じた規制を実施するため、各国の国内法を整備し、輸出入における許可書の発行や確認、また、違反に対する処罰などの措置をとる責務を負っています。

マダガスカルのバオバブ(Adansonia grandidieri)。附属書Ⅱに掲載。
© Martin Harvey / WWF

マダガスカルのバオバブ(Adansonia grandidieri)。附属書Ⅱに掲載。

締約国会議(CoP)の開催と役割

2019年8月17日~28日にかけてジュネーブで、ワシントン条約の第18回締約国会議(CoP18)が開催されます。

ワシントン条約の場合、締約国会議(Conference of the Parties / CoP)は、2~3年に一度開催され、条約の実施に関する重要かつさまざまな意思決定が行なわれます。

実は2019年のCoP18は、スリランカがホスト国となって5月23日からの開催が予定されていたものが、4月に発生したテロの影響で延期。
場所もジュネーブに移しての開催が決まるという異例の運びとなりました。

COP18

毎回のCoPの主要なトピックのひとつが、条約の規制対象となる動植物種を定める「附属書」の改正です。

この改正は、取引や生物学的な状況の評価に基づき、新たな種の追加や削除、掲載の変更などが、締約国から提案され、審議されます。

CoP18で何が話し合われる?

CoP18提案されている附属書改正案は、全部で57(うち1つは提案国により撤回)。アフリカゾウやキリンにはじまり、ヤモリ、サメ、タランチュラ、ローズウッドまで幅広い動植物が含まれます。

特に注目を集めるのは、「種の保全」と「持続可能な利用」の観点から意見の対立が予想されるアフリカゾウ、そして、アオザメなどの水産種に関する提案です。日本も主要関係国として重要な立ち位置にあります。

このほか、日本への密輸が後を絶たないコツメカワウソをはじめ、ペット利用される爬虫類・両生類の規制強化が多く提案されています。

コツメカワウソ (Aonyx cinereus)。現在附属書Ⅱに掲載されるが、附属書Ⅰへのアップリスティングが提案されている。
© David Lawson / WWF-UK

コツメカワウソ (Aonyx cinereus)。現在附属書Ⅱに掲載されるが、附属書Ⅰへのアップリスティングが提案されている。

附属書改正以外の議題

CoPの議題はこうした「附属書」の改正だけではありません。
条約の施行を改善するための議題も数多く審議されます。

こうした議論の結果は、CoPの合意事項として、新たな「決議」や、既存の決議の改正という形で採択されます。このほかに、次のCoPに向けた具体的な取り組みの指示が、CoP18の「決定」という形で採択されます。


幅広い内容を含むこれらの附属書改正以外の議題は、各締約国のみならず、常設委員会や科学委員会(動物委員会、植物委員会)と呼ばれる条約の下部委員会からも提案されます。

Ghost glass frog (Centrolenella ilex)。グラスフロッグと呼ばれる多数のカエルが附属書Ⅱへ掲載提案されている。
© naturepl.com / Edwin Giesbers / WWF

Ghost glass frog (Centrolenella ilex)。グラスフロッグと呼ばれる多数のカエルが附属書Ⅱへ掲載提案されている。

実はワシントン条約では、こうした附属書改正以外の議題が年々増えており、CoP18の総議題数は過去最大となります。

この理由のひとつが、条約で議論される動植物種が多様化していること。

附属書掲載こそ提案されていませんが、違法取引や資源の枯渇が危惧される二ホンウナギにも話題が及びます。

さらに他にも、取引規制を効果的に実施するためのしくみやガイドラインの構築、また、それらの運用と見直しに関するありとあらゆる議論が同時進行していることが理由に挙げられます。

日本も渦中にある象牙の「市場閉鎖」に関する議題もこのうちのひとつ。

象牙の違法取引に象徴されるような、国際取引の規制を骨抜きにする「野生生物犯罪」の問題に対しては、腐敗の撲滅や需要削減といった取り組みも議論されます。

アフリカゾウ(Loxodonta africana)。3つの附属書改正提案や象牙の違法取引の問題が議論される。
© Martin Harvey / WWF

アフリカゾウ(Loxodonta africana)。3つの附属書改正提案や象牙の違法取引の問題が議論される。

ワシントン条約会議の議論がもたらすもの

CoPで採択される取り決めは、野生の生き物の未来はもちろんのこと、国の産業や地域住民の生活に関わる極めて重要なものです。
このため、会議の場では、熱い意見のぶつかり合いや、政治的駆け引きなど、さまざまなドラマが繰り広げられます。

WWFと国際取引を監視するTRAFFICも、毎回オブザーバーとして代表団が会議に参加。

各国政府代表団への情報提供や働きかけを通じて、CoPでの意思決定に貢献しています。今回は、日本からもスタッフが直接現地に赴き、議論の行方を追っていきます。

WWFジャパンが特に注目しているのは、日本が深くかかわっている象牙取引に関する議論。また、密猟されペット取引されていると考えられる沖縄など南西諸島に固有の両生類・爬虫類に関する日本政府の対応にも注目しています。

すでに日本の国内では、CoP18に向け政府への提言を行なっているほか、会議の場でも、日本政府の取り組みを注視していきます。

現地からの報告も予定しておりますので、ご関心をお持ちの方は、ぜひご覧になってみてください。

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