G20大阪サミット前に海洋プラスチック汚染問題解決への政策提言を実施
2019/06/14
世界の海に広がるプラスチック汚染
世界のプラスチック生産量は急激に増大を続け、2016年には年間3.96億トンとなりました。
これは、1950年に比べ200倍の量に匹敵します。
さらに、今世紀に生産されたプラスチックの量は、すでにそれ以前の生産量の累計と同量に達しました(※1)。
これにともない、プラスチックによる環境への影響が加速度的に大きくなっています。
現在、一年間に廃棄されている3.1億トンのプラスチック(プラスチックごみ)の内、未回収、不適切な埋め立て、投棄などにより、1億トンが自然界に流出していると考えられています(※1)。
そして、陸域から河川などを経由し、年間800万トンが最終的に海洋に流入していると推測されています(※2)。
このプラスチックが大部分を占める海洋ごみにより、少なくとも約700種の海洋生物が、誤飲などさまざまな被害を受けています(※3)。
調査の結果、プラスチックごみを体内に摂取している個体の比率は、ウミガメで52%(※4)、海鳥で90%(※5)にのぼると推定されています。
こうした、石油でつくられたプラスチックは、半永久的に分解されず、紫外線や波の影響などを受けて、海でどんどん小さな粒子になっていきます。直径5ミリ以下のプラスチック粒子は、マイクロプラスチックと呼ばれ、世界中の海で見つかっています。このマイクロプラスチックは、自然界に存在する有害物質を吸着していることが観測されています(※6)。これらが海面や海底等に留まり、生物の体内にも取り込まれます。そして食物連鎖を通じて海洋生態系に広がることで、自然環境にも大きな脅威を及ぼすことが懸念されています(※7)。
こうしたマイクロプラスチックは、大きな廃プラスチックの劣化だけでなく、スクラブ剤に直接含まれるマイクロビーズや、さまざまなプラスチック製品の原料として使用されるペレット(レジンペレット)、合成ゴムでできたタイヤが摩耗した粉塵として、さらにフリースなど合成繊維の衣料の洗濯等によっても発生しています (※8)。
これらのマイクロプラスチックは、人が摂取する飲料水や食品のみならず、空気中にも広く含まれています。そして、飲食や呼吸を通じて年間平均250gが、人体に摂取されていると推定されます(※9)。
こうして取り込まれたマイクロプラスチックが、人体にどのような影響を及ぼすのかは、科学的にまだ明らかになってはいません。しかし、もともと自然界に存在せず、有害物質を吸着することもあるマイクロプラスチックが、環境や人体に多く取り込まれる事態は、問題が明らかになるのに先立ち、予防原則の観点から対応が求められる問題といえます。
法的拘束力のある国際協定の早期発足の必要性
この地球規模で進むプラスチック汚染問題の解決には、世界各国が団結して取り組む必要があります。
しかし、このプラスチック汚染問題の解決を目指し、国際社会が目指す方向性や、規制の在り方を明らかにした包括的な国際協定は、今のところ存在していません。
2019年5月に開かれた「バーゼル条約(有害廃棄物の国境を越える移動及びその処分の規制に関するバーゼル条約)」の第14回締約国会議(COP14)では、附属書が改訂され、「2021年の附属書の発効後は、相手国の同意なしで、汚れたプラスチックごみを輸出すること」が禁止されました。
これは、日本などの先進国を中心に、途上国に対し自国の廃プラスチックをリサイクル資源という名目で、汚れたものを含んだ可能性のある状態で輸出してきた行為を、規制するものです。
これは大きな前進ですが、このように対象を限定した枠組みや、地域を限定した分散した取り組み、また、サミットなどで採択される、法的な拘束力のない「宣言」だけでは、プラスチック汚染問題は、根本的に解決できません。
つまり今後は、プラスチック汚染問題の包括的な解決に特化した、法的拘束力のある国際協定の締結が求められるのです。
この国際協定は、自然界へのプラスチックごみの流出を根絶するというビジョンや、各国の意欲的な排出削減目標、またその目標を確実に達成するための科学的な評価手法や、実行を支援する体制の確立などを含んだものであることが求められます。
G20において日本に求められるリーダーシップ
外務大臣と環境大臣への提言
こうした状況の中、2019年6月に、G20エネルギー・環境関係閣僚会合が15、16日の両日に長野県で、そして28 、29日にはG20サミットが大阪で開催されます。
この二つの大きな国際首脳会合において、海洋プラスチック汚染問題に対し、「日本政府が問題解決への道筋を示すことへのリーダーシップを発揮できるか?」に、世界が注目しています。
これに先立つ2019年5月29日、WWFジャパンは、G20大阪サミットを所管する外務省の河野太郎外務大臣に、2つの提言書を手渡しました。
1つ目は、国内10団体と共同した「減プラスチック社会提言書」です。
2018年にWWFジャパンは、海洋プラスチック汚染問題の解決に取り組む日本のNGOや市民団体と「減プラスチック社会を実現するNGOネットワーク(以下、減プラネットワーク)」を結成し、海洋プラスチック汚染問題の解決策を話し合い、提言を行なってきました。
そしてその一環として今回、WWFジャパンが減プラネットワーク11団体を代表し、共同提言書を手渡し、大臣と会談を行ないました。
この共同提言では、減プラネットワークで行なってきた日本における課題の議論と提言をふまえ、主に以下のポイントを重視した要望を行ないました。
- 使い捨てプラスチックを中心とした生産と使用の大幅削減
- 焼却処理(熱回収(サーマルリカバリー)を含む)と埋め立て処理の段階的削減
- 大量生産、大量消費、大量廃棄からの転換のための規制導入やシステムの構築
さらに、この会談に際して、2つ目の提言として、WWFジャパンの「プラスチック汚染問題対策についての提言」を、同じく手渡しました。これは、国際的な枠組みの創設を含めた、WWFが国際規模で展開する活動をふまえた提言です。
この提言書では、以下を求めています
- G20大阪サミット首脳宣言において、海洋プラスチック汚染問題の解決に向け、2030年までの期限付き目標を持つ法的拘束力ある新たな国際的な枠組みの発足を約束すること
- プラスチック生産量・国際取引量・使用量の削減につき2030年までの期限付きの意欲的な目標を日本が率先して策定し、他国にも働きかけること
会談で河野外務大臣からは「(日本政府がすでに方針として示した)プラスチック資源循環戦略が世界から評価されるようなものになるよう、日本政府としてしっかり取り組みたい」とのコメントがありました。
そして、WWFジャパンからは、日本のリーダーシップに期待をする旨を、あらためてお伝えしました。
さらに、2019年6月3日にも、WWFジャパンは減プラネットワークのメンバーと共同で、原田義昭環境大臣宛てに、賛同団体13団体を併せた24団体連名での「減プラスチック社会提言書」を提出。環境省の山本昌宏環境再生・資源循環局長に手渡し、同様の要望を伝える会談を行ないました。
議員会館で、院内集会を開催
この他にも、G20に向けた取り組みの一環として、2019年6月3日、「減プラネットワーク」メンバーと共同で、衆議院第二議員会館にて「海洋プラスチック汚染問題 緊急会合」を開催。
与野党国会議員やメディア関係者、研究者、市民団体関係者ら80名の参加を得て、今後の日本としてのプラスチック問題に対する取り組みのあり方を提言しました。
この会合ではまず、東京農工大学の高田秀重教授が、「海洋プラスチック問題の危機的な状況」につき基調講演を行ない、減プラネットワーク11団体より9団体が、それぞれの立場から発表しました。
当日の発表資料は以下の通りです。(無断転載を禁止します)
- 1.東京農工大学 高田秀重教授
- 2.特定非営利活動法人パートナーシップオフィス
- 3.全国川ごみネットワーク
- 4.特定非営活動法人プラスチックフリージャパン
- 5.公益財団法人日本自然保護協会
- 6.公益財団法人WWFジャパン
また、この院内集会の開催にご協力いただいた自由民主党の八木哲也衆議院議員から「プラスチック汚染の問題においても、かつてのレーチェル・カーソンの著書、『沈黙の春』での教訓(予防原則に基づき、人類の活動で発生する生態系への影響を管理する必要性)が活かされなければならない」とのコメントをはじめ、参加いただいた国会議員から「プラスチック汚染問題の解決に向けて政府から提示されている方針では不十分であり、もっと本格的に取り組むべきである」との声が、次々に寄せられました。
日本政府の3つの方針の評価と、WWFジャパンの今後の取り組み
院内集会での指摘にもあった通り、実際、現時点で日本政府が提示している廃プラスチックに関する方針には、不十分な点が多数見受けられます。
2019年5月31日に日本政府が示した、海洋プラスチック汚染問題に関する方針は、次の3つ。
WWFジャパンは、この3つの方針について、一定の評価をするものの、内容的にはこれが、過去に出された方針の寄せ集めであり、危機的な海洋プラスチック汚染問題を解決するには、明らかに不十分であると考えています。
以下の図をご覧ください
上記2)プラスチック資源循環戦略において政府は、日本で排出されるプラスチックごみ年間903万トンの有効利用率を86%(2017年)としています。しかし、この86%には海外への輸出129万トン(14%)、そして、熱回収524万トン(58%)が含まれています。熱回収というのは、プラスチックごみを焼却して、その際に出る熱の一部を再利用する処理です。石油由来のプラスチックを焼却すれば、地球温暖化要因であるCO2が発生するため、望ましい処理方法とは言えません。そして、輸出と熱回収を除いた国内でのリサイクルは、実は122万トン(14%弱) に過ぎないのです。プラスチックごみの年間排出量903万トンと、国内リサイクル122万トンとの乖離はあまりに大きく、リサイクルを推進するだけでは、決して国内のプラスチックごみの処理の問題は解決しません。
そこで最も重要なのは、適正に処理できる量を大きく上回り過剰に生産・使用されている新品のプラスチック(バージン・プラスチック)を大幅に削減すること。
ですが、「プラスチック資源循環戦略」では、削減目標を定める上で重要な「基準年」を示すことなく、「ワンウェイ(使い捨て)プラスチックを2030年までに、累積25%排出抑制する」としているだけです。
実際にどれくらいの削減をしようとしているのか、さらに、そもそも25%の排出抑制で本当にプラスチックの自然界への流出や地球温暖化の促進を防げるのかが、ここからは見えてきません。
WWFジャパンは、今後もG20をはじめとした国際的な首脳会合を注視していきます。
そして同時に、減プラネットワークのメンバーとも協力しながら、日本政府が今後に向け、プラスチック汚染問題への対応をより積極的に推進するよう、方針の改善を要望しつつ、海外のWWFオフィスと連携して、法的拘束力のある国際的な協定の早期設立に向けた働きかけを続けていきます。
関連資料
(※1) WWF, “Solving Plastic Pollution Through Accountability.” (2019).
(※2) Jambeck, Jenna R., et al. (2015)
(※3) Gall and Thompson (2015)
(※4) Schuyler, Qamar A., et al.(2016)
(※5) Wilcox, Chris, Erik Van Sebille, and Britta Denise Hardesty. (2015)
(※6) GESAMP(2015)
(※7) do Sul, Juliana A. Ivar, and Monica F. Costa. (2014)
(※8) Hann, Simon, et al. (2018)
(※9) WWF, “No Plastic in Nature: Assessing Plastic Ingestion from Nature to People.” (2019)