COP21より 気候変動がもたらす「損失と損害」をめぐって


パリの国連気候変動会議「COP21」の会場より、温暖化担当の小西です。

会議もはや3日目。この日も、テーマに分かれた分科会ごとに、合意文書の草案づくりが続けられました。

その争点の一つに、「損失と損害」があります。

地球温暖化の分野では、人間社会や生物多様性が被る、取り返しのつかない「損失」(loss)と、道路や堤防など損壊といった修復可能な「損害」(damage)、2つの定義があります。

これまで、世界の温暖化対策は、気候変動を抑える「緩和」と、その影響を軽減する「適応」の2本柱で進められてきましたが、現在までのところ、どちらの取り組みも不十分で、各地で温暖化が進行。被害を防ぎ切れない状況が生じています。

産業革命以降の平均気温の上昇が、まだ1度に満たない現在でさえ、これだけの被害が起きているのですから、さらに2度、3度の上昇を許せば、危機が深刻化することは確実です。

南太平洋の島国ツバル。国土は水没の危機にあります。

ハリケーン「カトリーヌ」の惨禍(アメリカ)。先進国も気候変動の脅威からは逃れられません。

そのため、特に強く気候変動の影響を受けている太平洋の島国や、後発開発途上国、アフリカ諸国などは、「緩和」「適応」に次ぐ第3の柱として「損失と損害」を合意に含めるよう求めてきました。

一方、先進国は、補償や回復にかかる資金の拠出が増えることを警戒し、この問題に消極的な姿勢を貫いてきたため、一つの対立の構図が出来ていたのです。

しかし、COP21では、その対立を克服するきざしが見えました。

冒頭の首脳級会合で「小国も大国も、富める国も貧しい国も、気候変動の影響を逃れられる国はない」と語ったオバマ大統領の演説に代表されるように、すでに「損害と損失」が起きており、その規模がさらに拡大することへの懸念に、多くの首脳が言及したのです。

損失と損害を防ぐには、削減目標の引き上げと、適応に必要な資金の拠出も欠かせません。

この課題は、COP21の成否を決する大きな要素です。

COPを成功させるために、各国はその現実を直視し、対立を乗り越え、歩み寄ることが求められています。

気候変動に脆弱な国々への連帯を表明する若者たち。目の回りにゼロを表す丸を描いて、2050年までに二酸化炭素の排出をゼロにするよう求めています。

COP21の会議場に入れない人たちは、モニターの前に集まり会議の模様を見つめています。

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専門ディレクター(環境・エネルギー)
小西 雅子

博士(公共政策学・法政大)。米ハーバード大修士課程修了。気象予報士。昭和女子大学特命教授、京都大学院特任教授兼務。
中部日本放送アナウンサーなどを経て、2005 年に国際 NGO の WWF ジャパンへ。専門は国連における気候変動国際交渉及び国内外の環境・エネルギー政策。2002 年国際気象フェスティバル「気象キャスターグランプリ」受賞。環境省中央環境審議会委員なども務めている。著書『地球温暖化を解決したい―エネルギーをどう選ぶ?』(岩波書店 2021)など多数。

世界197か国が温暖化対策を実施する!と決意して2015年に国連で合意された「パリ協定」の成立には感動しました!今や温暖化対策の担い手は各国政府だけではなく、企業や自治体・投資家・それに市民です。「変わる世の中」を応援することが好きな小西です♪

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WWFは100カ国以上で活動している
環境保全団体です。

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