地球温暖化による世界各国や日本の社会への影響
2015/08/24
地球温暖化の影響は地域ごとに異なります。しかし、たくさんの生きものや人々の暮らしが、深刻な被害を受ける可能性があることは世界共通です。地球上の各地では、それぞれの地域で、さまざまな影響が現れています。その影響は水資源や農業、衛生への影響、また大雨や洪水などのリスク増加といったさまざまな形で、自然環境と社会を脅かしています。
被害は共通、抵抗力には格差
「適応」が困難な国々の悲鳴
地球温暖化がもたらす異常気象などの災害に対応する、抵抗力をつけることを、「適応」といいます。
今、世界の各地では、さまざまな場所で、温暖化による被害が多発していますが、これに「適応」していけるかどうかは、その国や地域の事情により、状況が異なります。
たとえば、経済的に豊かな国の場合、洪水に対応して堤防を造ったり、強化したり、また日照りや日照不足などの異常気象に強い作物を、品種改良して作ったりすることができます。
しかし、世界の貧しい国々の多くは、そうは行きません。
これらの国々では、「適応」に必要な資金や技術、人材がありません。そのため、温暖化による被害がより深刻なものになっているのです。
また、こうした開発途上国の国々には、開発などの脅威にいまださらされていない、豊かな自然環境が、比較的多く残されているケースが少なくありません。
温暖化が進行すれば、これらの自然も、さまざまな被害や影響を受けることになるでしょう。
さらに、こうした国々や地域で、気候変動により貧困問題が助長されれば、目先の経済的利益を求め、豊かな森や海などが無計画に開発されるおそれもあります。
もちろん、先進国の国々にも、温暖化によって苦しんでいる人たちは数多くいます。
しかし、貧しい途上国の場合は、このような事情があることに加え、そもそも温暖化の原因となる二酸化炭素などをほとんど出してこなかった、ということを、忘れるべきではないでしょう。
世界の各地域で懸念されている影響
温暖化に関する科学の知見として、世界で最も信頼と権威のあるIPCC(気候変動に関する政府間パネル)は、2014年に最新の報告となる第5次評価報告書を発表しました。
この報告書が明らかにしたことは、このままの成り行きで気温上昇が4度前後も上昇すれば、取り返しのつかない深刻な影響が予測される、ということです。
また、何とか平均気温の上昇を産業革命前に比べて「1.5度」に抑えることができたとしても、実はかなりの温暖化の悪影響が予測されています。
そのため、温暖化の悪影響に備える「適応」は、いずれにしても準備しなければならないのです。
適応策を準備しておくことで、悪影響はかなりの程度で軽減できることがわかっています。
すでにある程度の温暖化の被害は避けられないのですから、今後の温暖化対策は、その原因である「温室効果ガスの削減」とともに、予測される「悪影響への適応」を同時に行なっていくことが大切です。
ここでは地域ごとに、今後のさらなる温暖化の影響と、求められる適応策について簡単に見ていきましょう。(出典:IPCC 第5次評価報告書)
アフリカ
予測される悪影響
気候変動により、特に半乾燥地域で、現状の水不足がより深刻化し、農業生産への影響が拡大する可能性が高いとされています。
- 水の過剰利用と水質の劣化に加え、将来のより大きな需要から、水不足が危機的に深刻化するでしょう。
- 干ばつの発生しやすい地域でより干ばつが発生しやすくなるでしょう。
- 熱や干ばつにより、農作物の生産性が低下するとともに、病虫害が増加する恐れがあります。さらに気温上昇と天候の変化により、穀物の生産性が落ち、食糧の安全保障を脅かす可能性が高いでしょう。
- 気温と雨の降り方の変化により、生物や水が媒介するマラリアなどの伝染病の発生率や発生する地域が変化し、今までマラリアがなかった地域で新たに発生するようになるでしょう。
必要とされる適応策の例
- 総合的な上水道管理計画などの持続可能な都市開発。
- 熱に強い農作物の開発や灌漑システムの強化。
- 衛生の向上など。
アジア
予測される悪影響
米などの代表的な穀物の生産性が、多くの地域で減少するおそれがあります。
- 河川・沿岸の都市における洪水が増加し、インフラや住居に広範な被害がおよぶでしょう。
- 熱による死亡リスクが増加する可能性が高いでしょう。
- 栄養失調の原因となる干ばつによる水不足や食糧不足が増大する可能性が高いでしょう。
- 異常気象がもたらす、健康や安全保障、住環境、貧困への影響はアジア全域にさまざまな形で現れる可能性が高いでしょう。
- 多くの地域で、21世紀中に、永久凍土層の減少や、植物種の植生の分布、生息速度、季節ごとの活動の変化が進行するでしょう。
必要とされる適応策の例
- 洪水などの災害に対する早期警戒システムの構築。
- 暑熱に関する健康警戒システムの構築。
- 水インフラや調整池の開発など。
オーストラリア、ニュージーランド
予測される悪影響
適応策を取らなければ、さらなる気候変動や海洋酸性化などにより、水資源、沿岸部の生態系、インフラ、健康、農業、生物多様性に深刻な影響がもたらされる可能性が高いでしょう。
- オーストラリアにおいて、水温や海洋酸性化によって、サンゴ礁の群集構成と構造に重大な変化がもたらされる可能性が高いでしょう。
- オーストラリアやニュージーランドにおいて、洪水が増大してインフラや住居への被害を及ぼす頻度や強度が増大する可能性が高いでしょう。
- オーストラリアやニュージーランドにおいて、海面水位の上昇により、沿岸インフラや低平地の生態系に対するリスクが増大し、被害も広範に及ぶ可能性が高いでしょう。
- 熱波の増加により健康被害が増え、雨の変化や気温上昇で農業生産地域が移動するでしょう。また、多くの在来種の野生生物の生息域が縮小するでしょう。
必要とされる適応策の例
- 水温の上昇や酸性化などにサンゴ礁が適応する能力には限界があります。適応策は、他の要因(観光や漁業など)によるストレスの軽減をはかるなど、ほぼ限られています。
- 地域によっては、洪水のリスクに対し、適応策が深刻な規模で欠如しています。具体的には、土地利用の在り方のコントロールなどが考えられますが、最終的には、住居の移転や保護、調節などが必要となります。
ヨーロッパ
予測される悪影響
ほぼすべての地域で、あらゆる分野において、気候変動の悪影響が増えると予測されています。
- 海面水位の上昇、海岸浸食、河川のピーク流量が増加しやすくなることに加え、都市化が進むことで、河川や沿岸での洪水被害が増加し、水不足や経済的損失を受ける人々が増えるでしょう。
- 極端な猛暑によって、健康や福祉、労働生産性、穀物生産などへの影響が増え、暑熱による死亡リスクが高まり、経済的損失を受ける人々が増えるでしょう。
- 北部では穀物の生産量が増えますが、南部では減る可能性が高いでしょう。
- 温暖化によって生物の生息域や種が変化し、地域的には絶滅する可能性が高くなります。大陸規模で種の分布域が変動し、特にアルプスの植生は大きく影響を受け、在来の野生生物種の中には、個体数が減少するものも多くなるでしょう。
必要とされる適応策の例
- 洪水に関して予測されるほとんどの被害は、洪水の防護技術といった適応策によって避けることができます。
- 水不足は、水利用の効率化や節水により適応できる可能性が高いと考えられます。
- 暑熱に対する警報システムの構築などが必要です。
中央・南アメリカ
予測される悪影響
開発が進み、改善されてきましたが、いまだほとんどの国は貧困に苦しんでおり、温暖化の影響に対しても、対応する力が弱いままです。
- 水不足と洪水のリスクの両方が高まります。特に半乾燥地域と氷河からの雪解け水に頼っている地域、および中央アメリカにおいては、利用可能な淡水資源が減る確率が高いでしょう。一方で、都市域と農山漁村域では、深刻な洪水や土砂災害のリスクが高まるでしょう。
- 食料生産量と食料の質が低下するでしょう。気候変動による農業生産性への影響は広範に及ぶでしょう。
- 蚊などの生物が媒介する伝染病が、より広い地域で蔓延する可能性が高まるでしょう。
必要とされる適応策の例
- 都市および農村漁村の洪水管理、早期警戒システムなど。
- 高温や干ばつに適応可能な新たな作物の開発。
- 基本的な公衆衛生サービスを拡大するプログラムの確立。
北アメリカ
予測される悪影響
多くの温暖化の影響が予測されていますが、中でも猛暑、豪雨の頻度が、今後10年で増え、損失が大きくなる可能性が高くなってきます。
- 乾燥や気温の上昇により、山火事の発生が増え、生態系への影響、財産の損失、疾病と死亡確率が高まるでしょう。
- 暑熱による死亡リスクが高まります。
- 海面水位の上昇や、豪雨、サイクロンによる河川や沿岸域の洪水が、都市インフラの被害をもたらすでしょう。生態系や社会システムが分断されるおそれが高く、公衆衛生が劣化したり、水が汚染されたりする可能性が高いと考えられます。
- 21世紀末には、適応策を取らなければ、気温上昇や降雨の減少、異常気象の頻発により、北部では穀物増産が見込まれるものの、多くの地域で生産量が減るでしょう。
必要とされる適応策の例
- 他の地域よりも気候変動に対する適応力がありますが、それを支える制度にも限界があります。
- 家庭への支援、早期暑熱警戒システムなどが必要とされるでしょう。
- 海面水位の上昇に対しては、古い降雨設計基準が使用されています。現在の気候条件を反映するために、それらを更新する必要があります。
極地域 (北極、南極)
予測される悪影響
極地域では、気候変動と人口、文化、経済の発展などがあいまって、社会システムが適応できるよりも速いスピードで環境変化が起こる可能性が高いでしょう。
- 氷河や海氷の厚さと面積が縮小しています。21世紀の間、海氷は薄くなり続け、春季の積雪域も減少する可能性が非常に高いでしょう。
- これは、ホッキョクグマなど、海氷に依存して生きる野生生物を絶滅の危機に追い込む、致命的な要因となります。
- 永久凍土が溶けたり、降雪パターンが変化したりします。そのためインフラやそれに関するサービスに影響が出ます。都市部や小さな田舎の建築物などの住居への危険が特に心配されます。適応策が限られている共同体は、特に影響を受けやすいでしょう。
- 海氷の変化により、海棲哺乳類の捕獲が難しくなるでしょう。大陸棚の万年氷が失なわれ、氷に覆われる期間も短く、氷も薄くなります。すでに永久凍土の融解、沿岸の海氷の損失、海面上昇、異常気象の増加によって、アラスカの先住民は移住を強いられています。
必要とされる適応策の例
- 科学的、および先住民の知恵をふまえた理解の向上がより効果的な解決や技術的革新。
- 観測、モニタリング、および警報システムの強化。
- 居住地の移動。
小島嶼国 (南太平洋などの小さな島国)
予測される悪影響
小さな島国は、気候の変化をはじめとするさまざまな要因がもたらす被害を、最も強く受けるでしょう。その対応は国の存続にかかわる重大な問題です。
- 21世紀における世界の平均的な海面水位の上昇と、台風などによる高潮が重なって、沿岸の低地は深刻な浸水と浸食にさらされます。それは地下水源の汚染にもつながります。
- 海水温が上昇するとともに、海洋の酸性化が進んでサンゴ礁の生態系が失われるおそれがあります。これにより、サンゴ礁の護岸作用に頼っている共同体や、漁業や観光業が悪影響を受けます。
必要とされる適応策の例
- 沿岸域の面積が大きい島嶼国の場合は、適応は財政面、資源面で重大な課題となります。
- 外部からの追加的な資源と技術の対応が必要です。
日本の温暖化
最近、日本でも猛暑の日が増えてきました。気象庁によると、日本の平均気温は1980年代からずっと高くなっており、特に1990年に入ってからは、観測史上の最高記録をぬりかえる年が続いています。
日本でも懸念される気候と環境の変化
日本の平均気温は、過去100年間で、約1度上昇しました。この気温上昇に起因すると考えられる異常気象の増加や、農作物の生育の変化や悪化が、近年多く報告されるようになっています。
さくらの開花時期も、春先の気温の変化にともなって早まっていることが長年の観測結果からわかっています。
年々進む平均気温の上昇は、日本の自然や私たちの生活にも、次のような影響を及ぼす可能性が指摘されています。(出典:環境省、気象庁)
考えられる変化と影響
- 夏が長く、冬が短くなる
- 植物の生育地域の変化に伴い、生きものの生息地域が変わる
- 米を育てられる地域が北へ移り、今までは米を生産できていた地域で生産できなくなる
- マラリアや黄熱病など熱帯地域の病気が上陸する
- 標高の低いスキー場では雪が不足し観光客が減る
- 日本に上陸する台風が強大化する など
さらにこの他にも、すでに影響が指摘されている例として、猛暑による熱中症の増加や、家畜や農作物への被害、また相次ぐ強い台風の襲来や地域的な大雨、洪水などが多発しています。
このまま温暖化が進むと、100年後には最高気温が30度以上になる真夏日が、現在の倍以上に相当する年間100日を越え、1年の3分の1が、夏になってしまう可能性もあるとも予測されています。
地球温暖化が進むと、日本の四季もまた大きく変化します。温暖化は、私たちが住む日本にも深刻な影響を与える現象なのです。
地球温暖化の目撃者
地球温暖化による影響は、すでに世界各地で現れ始めています。その被害の多くは、温暖化問題にはほとんど責任の無い、貧しい発展途上国の人々を襲っています。WWFはこれまで、温暖化に苦しむ人たちの声を、世界の現場からあつめ、世界に向けて発信するプロジェクト「地球温暖化の目撃者」を展開し、その影響の事例を収集する取り組みを行ないました。農業、漁業、観光業、また、日々の暮らしに至るまで、さまざまな面に気候変動が及ぼす影響を記録しています。