世界的な課題「IUU(違法・無報告・無規制)漁業」への法制度強化等を求める  ノーベル平和賞ノミネートのパティマ・タンプチャヤクル氏とともに水産庁長官に要望書を提出


森水産庁長官に要望書を手渡すIUUフォーラムジャパンメンバーとパティマ・タンプチャヤクル氏

公益財団法人世界自然保護基金ジャパン(東京都港区、会長:末吉竹二郎、以下 WWF ジャパン)もメンバー団体であるIUUフォーラムジャパン*(WWFジャパン、株式会社シーフードレガシー、セイラーズフォーザシー日本支局、他 )は2024年3月1日、森健水産庁長官に環境問題と人権侵害など多くの問題をはらみ、「ブラックな漁業」と言われる「IUU(違法・無報告・無規制)漁業」への対策強化を求める要望書を提出しました(注1)。

本要望書は、IUU漁業対策の根幹である「特定水産動植物等の国内流通の適正化等に関する法律(以下、水産流通適正化法)」の強化などを求める内容です。

提出には、東南アジアの漁業の現場で奴隷労働者として働かされる人々「海の奴隷」の救出等に取り組み、2017年のノーベル平和賞にもノミネートされたパティマ・タンプチャヤクル氏も参加しました。本要望書には、海外の11団体も賛同の署名をしています(注2)。また、WWFジャパンは同時に、水産流通適正化法の強化を求める署名12,362筆を森長官に提出しました。

IUUフォーラムジャパンは世界の他の地域で成功したIUU漁業対策などを踏まえ、日本政府に対し、水産流通適正化法等の輸入規制の強化やIUU漁業撲滅に向けた国際的なプラットフォームへの参画を求めています。こうした施策により、IUU漁業によって調達された水産物の国内市場への流入を防止する効果が見込めます。IUUフォーラムジャパンは日本政府に、世界のIUU漁業撲滅に向けたリーダーシップを期待しています。

IUU漁業対策フォーラムからの要望書の提出を受けて、森長官は「皆さんの期待を裏切らないように、日本政府としてもIUU漁業対策の強化についてしっかりと検討していきたい」と語りました。

  • (注1)海外の賛同団体 (アルファベット順) Conservation International、Environmental & Animal Society of Taiwan、Environmental Justice Foundation、FishWise、Greenpeace USA、Human Trafficking Legal Center、International Corporate Accountability Roundtable、Korea Federation for Environmental Movements、Labour Protection Network、Oceana、World Wildlife Fund
  • (注2)要望書の全文は下記の関連情報のリンクよりご覧ください。

【2024年3月11日追記】

IUUフォーラムジャパンは、2024年3月11日、外務大臣宛に同様の要望書を提出、経済局長および漁業室長と意見交換を致しました。安全保障分野にとっても重要な課題であるIUU漁業対策に対し、関係省庁や各種ステークホルダーが連携し、問題解決にあたることの重要性を再確認することができました。

WWFジャパン 海洋水産グループ IUU漁業対策マネージャー兼水産資源管理マネージャー 植松周平のコメント

「奴隷労働の温床となっているIUU漁業由来の水産物は、不当に安価である傾向があり、それらが日本市場へ流入することで、過度な価格下落を招き、国内の漁業者をも苦しめる要因になります。日本の漁業者、そしてそのサプライチェーンを含む水産業全体を守るためにも、国際連携や国内法令の強化による、さらなる対策が求められます。今年は、2022年に施行された水産流通適正化法を見直す初めての年です。世界のIUU漁業撲滅にむけて日本のリーダーシップを示すためにも、現在わずか7種の対象魚種が拡大されることを期待します。」

Labour Protection Network 共同創始者 パティマ・タンプチャヤクル氏のコメント

「私は2週間の日本滞在の中で、持続可能な水産物調達の証であるMSC認証やASC認証を取得した漁業者、そうした水産物の調達を進める飲食店、きちんとした管理システムに基づいて外国人技能実習生を受け入れている漁業者、日本の水産業の新しい形を提案する若者による団体など、日本の水産業の未来を支える皆さんに出会い、大いに刺激を受けました。また、タイにはまだ存在しないシステムである水産高校を訪れ、IUU漁業対策にもなる漁業教育の大切さを痛感しました。

今回の訪日により、IUU漁業対策を進める上では、政策や制度設計において漁船労働者を含むすべての関係者の意見が反映されることが不可欠との考えを強くしました。こうした先進事例を持つ日本は、持続可能な漁業、IUU漁業の撲滅に向けたリーダーになれると確信しています。」

(ご参考資料)

「海の奴隷」問題と、パティマ・タンプチャヤクル氏について

世界有数の水産大国であるタイでは、人身売買業者にだまされた人々が今も奴隷労働者として漁業の現場で働かされており、こうした「海の奴隷」と呼ばれる人々は、数万人存在するといわれています。タイには、一人数百ドルで奴隷労働者を確保して、遠洋漁船の船員としている漁業会社が存在します。タイでこの問題に取り組み、2017年のノーベル平和賞にノミネートされたパティマ・タンプチャヤクル氏は、仲間と共に数々の困難に立ち向かい、「海の奴隷」たちを救う活動を展開。その様子は、ドキュメンタリー映画 『ゴースト・フリート 知られざるシーフード産業の闇』でも紹介され、世界中の人々に衝撃を与えました。

IUU漁業と日本の課題

IUU漁業とは、違法(Illegal)・無報告(Unreported)・無規制(Unregulated)に行なわれている漁業のことで、どこで、どれだけ、どのような形で水産物を漁獲したかがわからない、いわば「ブラックな漁業」です。水産資源の乱獲や漁船で働く労働者の搾取など、環境破壊と人権侵害という2つの側面を持つ海の問題として、近年世界的に注目されています。IUU漁業は、世界の漁獲量のうちのおよそ3割を占めると推定され、日本が輸入する天然水産物の約3割も、IUU漁業由来の可能性があると言われます。

日本は、世界第3位の水産物輸入大国ですが、近年、巨大市場の欧米で規制が強化されているため、これらの地域への輸出が難しくなったIUU漁業由来の水産物が日本に向かい、日本の食卓にのぼるリスクが高まることが懸念されています。こうした中、日本でもEU、米国に続き、2022年12月に日本のIUU漁業対策法である「水産流通適正化法」が施行され、IUU漁業由来の水産物の流通が規制されるようになりました。しかしその対象種はわずか7種であるなど、まだ多くの課題が残されています。水産資源の乱獲や枯渇が危ぶまれ、持続可能な水産資源の管理が重要視される中、強力なIUU漁業対策が求められます。

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