「特定水産動植物等の国内流通の適正化等に関する法律」 に基づく輸入規制措置を講ずる対象魚種の選定に関する提案


水産流通適正化制度検討会議 御中

IUU 漁業対策フォーラム

 

特定水産動植物等の国内流通の適正化等に関する法律(以下「水産物流通適正化法」という。)第2条第4項に規定される特定第二種水産動植物(国際的にIUU 漁業のおそれが大きいために輸入規制措置の対象とする魚種)の選定に際して、IUU漁業対策フォーラム(以下、IUU フォーラム)としての見解をお伝えいたします。

1.最終的に全魚種を対象とすべきであること

IUU 漁業に由来する水産物の市場流通を根絶するためには、最終的には全魚種を対象とすることが望ましいと考えます。その理由としては、主に次の点が挙げられます。

① 輸入水産物のサプライチェーンには、不透明な部分が多く、あらゆる魚種は何らかの IUU 漁業にさらされるリスクがあると考えられること

② 特定の魚種のみを対象とする場合、当該対象魚種であっても、対象外の魚種であると虚偽表示することによって、規制をすり抜けるおそれがあること

③ 複数の魚種を取り扱う事業者は、魚種毎に輸入に必要な規制が異なるよりも、全て一律の規制である方が輸入手続きを円滑に進めやすいとの意見があること

④ 輸入水産物が IUU 漁業に由来するリスクの評価を正確に行い、関係者の理解を得るためには多大な労力を要するとともに、リスクは常に変動するものであることから、定期的に評価の見直しを行うことが求められる。あらかじめ全魚種を対象とすることによって、こうしたリスク評価に必要な労力をなくし、関係者にとっても規制の対象が明確になること

⑤ 水産市場における公正な競争を担保する上でも、全水産種を対象とすることが望ましいと考えること

なお米国では、すでに IUU リスクの高い 13 魚種を対象に水産物の輸入監視制度(SIMP)※1 の運用が開始されています。しかし、依然として 24 億ドルもの IUU 水産物を輸入しているとの報告(USITC, 2021 年)※2 もあり、2021 年、米国下院において SIMP の対象を全魚種に拡大するための法案が提出されています ※3。
IUU 水産物の輸入規制において先行している米国の例をみても、IUU 漁業を完全に根絶するためには、全水産種を対象とした輸入規制措置の導入が必要であるとIUU フォーラムは考えます。
しかしながら、制度導入当初から全魚種を対象とすることは困難であることを踏まえれば、対象魚種の選定に当たっては、公平かつ明確な指標を用いて、IUU 漁業のリスクが高い魚種を確実に対象に含めることが必要と考えます。

2.対象魚種の選定に関する米国の例

EU にならって全水産種を対象とする議論が起きている米国では、当初、対象をリスクの高い魚種に限って導入を開始しました。したがって日本においても、その魚種の選定に当たっては、米国の水産物輸入監視制度(SIMP)において対象魚種を選定する際に用いた手順と原則※ 4 を一つの参考にすることが有効と考えます。
(ただし、SIMP では偽装による食品安全に関するリスクも評価しているのに対して、我が国の水産物流通適正化法では、IUU 漁業のリスクのみを対象とすることを考慮する必要があります。)

SIMP では、まず次の基準に基づき、予備選定(当初の水産種選定)を実施し、52 の評価対象魚種が特定しました。

① 輸入額または国内陸揚げ額が1億米ドルを超える魚種

② 1ポンド当たりの製品コストが高いことにより作業部会により特定された魚種

③ 作業部会メンバー機関の代表者の専門性に基づいて提案された魚種

その上で、これらの魚種に対して、次の原則に基づいてリスク評価を行い、最終的に、13 の魚種が選定されました。

① 法執行能力(Enforcement Capability):米国及びその他の国の法執行能力の存在及び有効性

② 漁獲証明制度(Catch Documentation Scheme):当該魚種の全漁業域における漁獲証明制度の存在、並びにもし存在する場合、その有効性

③ 流通・加工行程管理の複雑さ(Complexity of the Chain of Custody and Processing): 当該魚種の流通・加工行程管理の透明性への考慮

④ 魚種の誤伝達(Species Misrepresentation): 別魚種による代用に関係する誤伝達として知られる事例

⑤ 誤表示またはその他の誤伝達(Mislabeling or Other Misrepresentation): 魚種同定に関係する誤表示以外の情報誤伝達として知られている事例

⑥ 違反歴(History of Violations): 米国およびその他の国におけるある魚種を対象とした、特に IUU 漁業に関係する漁業法令違反歴。

⑦ 人間の健康へのリスク(Human Health Risks):誤表示、その他の形態の誤伝達、又は魚種の代用が消費者に健康懸念をもたらした事例

なお、これらの詳細は、別紙 1「米国 SIMP の検討過程における、対象魚種(IUU 漁業と水産物偽装のリスクがある魚種)を選定する原則と選定した魚種リスト」、別紙 2「米国 NOAA『IUU 漁業及び水産物偽装のリスクがある魚種を定める原則と、リスクがある魚種のリスト』(2015 年 10 月 30 日)の和訳」および別紙 3「米国水産物輸入監視制度の実施に関する報告書(和訳)」をご覧ください。

3.我が国における対象魚種の選定に関する提案

上記の米国の例及び 2017 年 8 月に WWF ジャパンが公表した報告書「日本の水産物市場における、IUU 漁業リスク」※5 におけるリスク評価の基準に加え、日本独自の現状を踏まえた上で、当フォーラムは、我が国における対象魚種の選定に当たり、以下の基準と指標を用いることを提案いたします。なお、すべての輸入魚種についてリスク評価を実施するのは困難であるため、米国 SIMP と同様、まずはリスク分析を行う種を一定の基準に基づいて事前に選定し(予備選定)、その後、詳細なリスク分析を実施することを提案いたします。

(1) 予備選定(詳細リスク分析の対象魚種の選定)の実施とその基準

① 輸入額が大きい魚種(上位 20 魚種など)

② 重量当たりの価格が高い魚種

③ これまで専門家のレポート、報道等によって IUU のリスクが高いことが指摘されている魚種

④ 資源量低下が懸念されている魚種

⑤ 特定第一種水産動植物の指定されている魚種

なお③については、米国国際貿易委員会(USITC)による報告書 2 において、

IUU 漁業に関する情報が多く掲載されています。詳細については別紙 4「2021 年USITC 報告書エグゼクティブサマリー和訳」および別紙 5「2021 年 USITC 報告書要点まとめ」をご覧ください。

(2) 予備選定された魚種についてリスク分析を行う上での指標

なお、国際的な IUU 事例が多く顕在しているマグロ類など、現行は外為法で管理されている魚種についても、水産物流通適正化法と同等の IUU リスク管理が実施されることが重要と考えます。

4.対象魚種拡大を見据えたロードマップ作成と体制構築の必要性

ルールを守って正しく操業している日本の漁業者を守るためには、可能な限り早急に、全魚種に対し水産物流通適正化法を適用し、IUU 漁業に由来する水産物の市場流通を根絶することが必要です。もちろん、流通現場での混乱防止や実行可能性を考慮すると、制度導入当初から全魚種を対象とすることは困難であると思われますが、苦境にあえぐ日本の漁業者をいち早く守るためには、対象魚種を拡大のためのロードマップを作成し、そのための議論を関係各所において開始することが重要です。

例えば、「法律施行開始から X 年後にそれまでの措置の状況をレビューし対象魚種拡大の議論を行う」等、具体的なネクストステップを公式に定めるとともに、漁獲証明制度を運用する関係部署の体制強化や、取引の電子化(DX)の推進など、いつまでに、なにをすれば対象魚種を早期に拡大できるかについて議論を開始すべきです。それにより、関係各所の理解をより一層深め、混乱を生じることなく、対象魚種を拡大することができると思われます。
水産物流通適正化法の効果を最大限高め、より多くの IUU 漁業を廃絶できるよう、対象魚種拡大のためのロードマップを作成することを提案します。

参考文献

※1. 米国の水産物輸入監視制度について: https://www.fisheries.noaa.gov/international/seafood- import-monitoring-program
※2. 米国国際貿易委員会(USITC), 2021, “Seafood Obtained via Illegal, Unreported, and Unregulated Fishing: U.S. Imports and Economic Impact on U.S. Commercial Fisheries”: https://www.usitc.gov/publications/332/pub5168.pdf
※3. Stimson, 2021, “New Illegal Fishing and Forced Labor Prevention Act Incorporates Stimson Recommendations”: https://www.stimson.org/2021/new-illegal-fishing-and-forced-labor- prevention-act-incorporates-stimson-recommendations/
※4. NOAA, 2015, “Presidential Task Force on Combating Illegal Unreported and Unregulated (IUU) Fishing and Seafood Fraud Action Plan”: https://www.federalregister.gov/documents/2015/10/30/2015-27780/presidential-task- force-on-combating-illegal-unreported-and-unregulated-iuu-fishing-and-seafood
※5. WWF ジャパン, 2017,”日本の水産物市場における、IUU 漁業リスク”:

参考資料

別紙1:米国SIMPの検討過程における、対象魚種(IUU漁業と水産物偽装のリスクがある魚種)を選定する原則と選定した魚種リスト

別紙2:米国NOAA「IUU漁業及び水産物偽装のリスクがある魚種を定める原則と、リスクがある魚種のリスト」(2015年10月30日)の和訳

別紙3:米国水産物輸入監視制度の実施に関する報告書(和訳)

別紙4:米国国際貿易委員会(USITC)「違法・無報告・無規制(IUU)漁業由来の水産物:米国の輸入と米国商業漁業への経済的影響」の「エグゼクティブサマリー」(2021年2月)の和訳

別紙5:米国国際貿易委員会(USITC)「違法・無報告・無規制(IUU)漁業由来の水産物:米国の輸入と米国商業漁業への経済的影響」(2021年2月)の要点

消費者の視点で海の資源を考える「おさかなハンドブック」

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