WWFジャパン「第10回街づくり・持続可能性委員会」提出意見


公益財団法人東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会
企画財務局御中
 

(公財)世界自然保護基金ジャパン(WWFジャパン)
自然保護室 専門ディレクター(環境・エネルギー)
小西 雅子

2. アクション&レガシーレポートについて


p.5. 「「持続可能性」について」への意見
・持続可能な調達について、産品ごとにそれぞれの調達コードにのっとってどのような調達がなされたか、を詳細に報告すること
・そのうえで調達された物品が持続可能性に問題がなかったかを検証し、問題があった場合には、今回制定した調達コードの改善するべき点について、検討し、報告すること

3. 持続可能性大会前報告書 本文 について等


3.1.
持続可能性大会前報告書概要版について 非公開資料

p.3: できそうなところのみをPRしてあり、実態と反して、あたかも持続可能性の目標設定については課題がほとんど存在しないように受け止められるのではないか?

例えば、資源循環においては、調達物品のリユース・リサイクル率の目標を99%としているが、より優先されるべきリデュースについては、明示すらされていない。この場合、次善の策であるリユース・リサイクルがほぼ100%できることが、持続可能性の担保にとって一番望ましいとの誤解を生じさせかねない。
また、Our Progressの数値についても、実数と割合が混在しており、たとえば燃料電池車の導入数が全輸送車の何%なのか、使用済み小型家電から製作したメダルの数が全メダルの何%なのか(割合を示す場合は数でも重量でも)、保存樹木数は伐採した樹木数より多いのか少ないのか、この表記からは不明である。

p.4
本文中では初出なので、「SDGs」の日本語名をかっこ書きでも入れておいた方がよい。

p.25
「持続可能な調達は、日本ではまだ新しい取り組みですが」との記載があるが、日本でも持続可能な調達はグリーン購入法(国等による環境物品等の調達の推進等に関する法律)は2005年に制定されており、林野庁による「木材・木材製品の合法性、持続可能性の証明のためのガイドライン」も2006年にまとめられている。また日本における民間企業の取り組みに関しても、農林・水産資源の持続可能な調達に早くから取り組んできた企業が多数あり「日本ではまだ新しい取り組み」と表現するのは適当ではない。

p.25
「持続可能性に配慮した調達コード」
策定された木材と紙の調達コードは、第三者認証を取得していない木材や紙であっても事業者によるデューデリジェンスや外部監査は必須とされていなく、持続可能性を担保する上で不十分である。こうした調達コードでは、自然林破壊や人権侵害のリスクを低減することは困難である。

3.2. 持続可能性大会前報告書本文について(非公開資料)持続可能性大会前報告書本文について(非公開資料)

【4.2 資源管理資源管理について】について】
p.61:リデュース関連の目標について、数値目標がない。進捗には「準備中」とあるが、数値目標が示されるのはいつなのか。リユース・リサイクルの目標は99%とされているが、持続可能な資源管理の観点から見て、それよりも優先されるべきリデュース(p.60図中の「インプット側」の「減らす」)についてこそ、意欲的な数値目標の設置が必要である。

p.62 容器包装等削減について
調達物品の再使用(レンタル・リースの活用、使用後の再使用)・再生利用について、数ページにわたり詳細に具体策が提示されているのに対し、より優先されるべき絶対的削減について具体的な内容が皆無なのは問題である。
なお使い捨てプラスチックの使用を削減するために、紙製に切り替えるというのはベストのオプションではない。(p.60の優先順位の概念図において、優先順位4位の「再生可能資源を使う」に該当)。
最優先すべき絶対的に減らすことについては、p.62(1)大会会場等での使い捨てプラスチックに対する取り組みにおいて、全く触れられていない。再生可能な代替資源への切替を考慮する以前に、使用される容器包装の絶対量を、来場者と事業者が協力して減らしていくことこそ優先して取り組むべき。

【4.3 大気・水・緑・生物多様性等大気・水・緑・生物多様性等】
p.76 「生態系ネットワーク」について
本文中「生態系ネットワーク」という用語が6ヵ所で使用されているが、どのような概念、イメージで使用し、具体的にどのような取り組みをしているかが不明。

p.93では「エコロジカル・ネットワーク」という用語も使用されている。複数個所に植樹等により緑化を行うことを生態系ネットワークと定義しているように読み取れる。 取組前と取組後とでどのように緑化の推進、水環境の整備・回復がなされ、どのような生物にとって「ネットワーク」が形成されたのかを示すべき。もしくはただ単に、「緑化等を行って、生物も生息できる環境を創出している」としてはどうか。「水と緑のネットワーク」という表記については、生態系ネットワークとは別な意味と考える。

p.95 「生物多様性等に配慮した資源の消費」について
・東京GAPの対象範囲は農産物に限定されるので、畜水産物について言及するべきではない。

【持続可能性に配慮した持続可能性に配慮した木材および紙木材および紙の調達の調達について】
p.95およびp.145
「持続可能性に配慮した調達コード」
東京大会で策定された木材と紙の調達コードは、第三者認証を取得していない木材や紙であっても事業者によるデューデリジェンスや外部監査は必須とされていなく、持続可能性を担保する上で不十分である。こうした調達コードでは、自然林破壊や人権侵害のリスクを低減することは困難である。

p.146, 219
コンクリート型枠合板についての現地モニタリングについて、現地調査の設計(対象地域、対象企業、聞き取り調査を行う相手、視察場所などの選定方法)が不透明であり、この調査をもって、「持続可能な森林管理に取り組んでいることが確認」できたとする客観的根拠とすることは適切ではない。

【持続可能性に配慮した水産物の調達持続可能性に配慮した水産物の調達について】
p.143
持続可能性に配慮した水産物の調達につき水産エコラベル認証品など、水産物の調達基準に合致した食材を使用することを前提に、選手村のメニューを作成とある。しかし別途示されている「持続可能性に配慮した水産物の調達基準」では、水産エコラベル認証品ではなくても、広く認められており、実態を反映していない。

p.146 「(3)持続可能性に配慮した農産物・畜産物・水産物の調達」について
「水産エコラベル認証品を始めとする、農・畜・水産物の調達基準に合致した食材を使用することを前提に検討されています。」とあるが、水産物については水産エコラベル認証品以外の調達も容認しており、「水産エコラベル認証品を始めとする」とすることで曖昧となっている。「GAP認証品をはじめとする農畜産物、および水産物についてはエコラベル認証品に加え、資源管理計画等を策定するなど一定の条件を満たした非認証品を」とすべきではないか。

p.147 「都庁職員食堂等での持続可能性に配慮した食材の提供」について
民間企業の自主的取り組みであれば、少数回でも調達方針に従ったメニュー提供は評価できるが、社員食堂での取り組みについては明らかに民間企業の取り組みの方が進んでいる。MSCやASCなどの水産エコラベルのメニューへの表示は提供会社がCoC認証を取得して初めて公表できるもので、グリーンウォッシュを防ぐために厳しいルールが課せられている。民間企業(一部例外あり)はそのような課題を克服し、かつ定期的に実施しており、持続可能な水産物の普及のための活動を積極的に行っている。行政としてそのような活動を支援することは重要である。いっぽう都庁の取り組みは農産物を含めわずか3回の実施にとどまっており、少なくとも民間企業並み、行政機関であるならそれ以上の客観的な評価、記述をすべきではないか。

p.151 「(1)持続可能な農畜水産物の普及」において、「日本発の水産エコラベルであるMEL*1 は、MSC*2 やASC*3 と同様、GSSI*4 の承認を受け」たことを根拠に、MELが、国際的に通用する水産エコラベルに基づいて認証された水産物であるとしている。そうであれば、GSSIの承認を受けていないMELの漁業認証Ver.1.0は、国際的に通用する水産エコラベルに基づいて認証された水産物とは言えないのではないか。

【気候変動対策について】
全体として、省エネ量がきめ細かく数値で明記されているのを高く評価したい。
そのうえで以下の点について改善を求める。

p.44,45 「(4)カーボンフットプリントにおける回避・削減対策と削減量」
g.再生砕石の活用による削減量に続く項目として「h.「電炉鋼材などのリサイクル鋼材」を追加し、その利用量を記し(付録中p.226に数値が記載されている)、高炉由来の鋼材と比較した削減量を記すべきである。これは削減手法としては効果のある手法であり、これを削減量としてカウントしないのはもったいない。レガシーとして残すことを考えるのであるから、必ず入れるべきである。なお排出係数について異なる考え方があるならば、その旨の注を付ければよい。

p.45~47「再生可能エネルギー」特にp.47「vi.大会を契機に再エネ比率の高い電力を導入する会場」
東京大会では、電力の会場既存契約にも、再エネ比率の高い電力会社と契約し直すことを推奨していることが明記されていない。これは重要なレガシーであるため、きちんと明記するべきである。
そのうえで、p.46-47「vi.大会を契機に再エネ比率の高い電力を導入する会場」に東京都の会場が取り組んでいることをもっとわかりやすく説明するべきである。この文章では、大会を契機に既存電力契約を見直して再エネ比率の高い電力に切り替えることが伝わりにくい。レガシーとして重要な部分であるために、もっとわかりやすく、かつストーリーとして取り上げるべきである。

p.225 電炉鋼材などのリサイクル鋼材電炉鋼材などのリサイクル鋼材
使用量を明記されたことは高く評価したい。使われた鋼材の全体量も参考値として明記されたい。リサイクル鋼材使用率がどの程度であったのかを明記することは重要なレガシーとなるためである。

【持続可能性に配慮した持続可能性に配慮したパーム油パーム油の調達の調達について】
p.148
「持続可能性に配慮した調達コード」
3つの認証スキームの動向をフォローアップしている、としてそれぞれの認証農園面積等が記載されているものの、問題は基準が強化されているか、認証農園が拡大しているか、ではない。それぞれの基準が現場(特に農園)において機能しているか、東京大会の調達基準を満たす実践が現場でなされているかを見なければ何の意味も無い。フォローアップというのであれば、それらに対する評価をすべきである。

【フロンについて】
p.55 「c. 温室効果の低い冷媒を使用した機器の導入」について
「i.冷媒の種類」について
・冷媒の種類は推奨するものが自然冷媒なら、自然冷媒とフロンを分けた表にするべきである。
一例を書いておく。
<自然冷媒>【推奨】
R290(プロパン)・・・小型冷凍機器、製氷機、内臓型エアコン
R600a(イソブタン)・・・冷蔵庫、自動販売機
R744(CO2)・・・冷凍冷蔵ショーケースなど
R717(アンモニア)・・大型空調機、倉庫などの大型冷凍機
R718(水)・・・大型空調機
<フロン>【推奨しない】
R404A、R410A、R32、R134aなど

「ii.冷媒の漏洩リスク」について
・法制度の下でもフロン回収率は全くあがっていない現状から、きちんと回収費をあらかじめ担保して回収することを徹底しないと回収は進まない。
・断熱材については「フロン類を用いた製品の仕様を抑制」ではなく「禁止」にすべき。代替はすでにある。
・大会の会場に設置されているのが、家庭用エアコンであっても、事業者が所有している場合は「家電リサイクル法」ではなく「フロン排出抑制法」に基づいて回収されるしくみである。
(※これは法律に関する基本的な間違いである)
・設備の撤去などにあたっては、フロン回収を確実に行うとともに、フロン回収機も気相回収ができる機械を使うことを義務付けるべき。

p.208 「冷媒を使用した機器(4.1 気候変動関連)」の表について
・何を伝えたい表なのかがわからない。推奨する機器か、それとも現在入っている冷媒の種類だけを記載して
いるのか?台数の数字は、何を表しているのか?
・いずれにしても推進すべきフロンと禁止すべきフロンが全部一覧の中に一緒に入っているのが大きな問題である。
・これがp.55(i)のところで書かれている付録208ページの表だとしたら、 今後導入を推奨する機器とも読める。もしそうであるならば大きな問題である。R404AやR410aなどは、温室効果が非常に高い冷媒であり、これを東京大会が推奨したのか?もしこれも温室効果の高い冷媒も導入してしまったことを公開する意図であるならば、必ず冷媒量を把握公開し、確実に回収するべきである。そのための回収費用もとっておくべきである。
・機器の種類がきわめて限定的。関連設備全体でいえばこんなものではないはずである。どこか特定の設備だけで使っている機器を指しているか?たとえば、エアコンだけ見てもルームエアコンしか書かれていないが、通常の施設であれば、大型・中型の空調機があるはずである。台数は何を指しているのか?

3.3. 資料3 持続可能性大会前報告書について(委員説明用資料)

p.6 「気候変動 概要 具体的施策」に対する意見
・CO2排出回避と省エネは気候変動対策の最も重要な根幹であるのに、具体的施策が書かれていないのはいかにも不備である。まずは「最大限の」と入れるべきである。さらに最も排出の多い建築時のCO2回避・省エネの具体例も入れるべきである。
・「具体的施策」に、たとえば下記を追加する。
建築時の回避・省エネを徹底
- 再生材の活用推進(電炉鋼材などのリサイクル鋼材等)
- CASBEE Sランク
p.8 「東京2020大会のカーボンオフセットへの協力」に対する意見
・「東京大会のカーボンオフセットに、レガシーとなる厳格な環境基準をもうけた」を追加する。

4.その他


全体に対する意見
・延期になったのであるから、食料や消費財関連の調達基準の改善はもう少し進められるはずである。とくに水産やパーム油・紙などの調達基準は見直しを前提に議論を進めるべきである。
・上記に関連し、例えば、木材の調達コードに関しては、当初の基準に対して大きな批判があり、多数のNGOからIOCに公開レターが送られ、改定されたという経緯があった。どのような課題があり、それらをどのように解決していくのか、という方向性を報告書の中で示すべき。
・実際に調達された木材の原産地と認証の有無・種類を、調達実績として公開すべきである。

この記事をシェアする

人と自然が調和して
生きられる未来を目指して

WWFは100カ国以上で活動している
環境保全団体です。

PAGE TOP