京都府舞鶴港におけるパーム油を燃料としたバイオマス発電所事業計画の見直しと燃料の持続可能性基準策定を求める要望書
2019/07/17
経済産業大臣 世耕弘成 殿
京都府知事 西脇隆俊 殿
舞鶴市長 多々見良三 殿
日立造船株式会社取締役会長兼社長 谷所敬 殿
京都府舞鶴港喜多地区における「舞鶴グリーン・イニシアティブス合同会社」によるパーム油を燃料としたバイオマス発電所事業計画(以下、本計画)を受け、WWFジャパンは、持続可能性に大きな問題を抱える本計画の大幅な見直しと、燃料の持続可能性基準策定を強く要望する。
2012年7月、太陽光や風力など、再生可能な自然エネルギーの普及を後押しするため固定価格買取制度(FIT)が開始された。またWWFジャパンも 2017年2月、2050年までに日本のエネルギーがすべて再生可能な自然エネルギーによって供給されることを目指し「脱炭素社会に向けた長期シナリオ2017」を発表し活動を進めている。
『脱炭素社会に向けた長期シナリオ2017 ~パリ協定時代の2050年日本社会像~』を発表
しかし100%自然エネルギーを目指す中で、その1つでもあるバイオマス発電において、近年、燃料の持続可能性が考慮されない状況に強い懸念があることから、WWFジャパンは2019年5月「バイオマス燃料の持続可能性に関するポジション・ペーパー(以下、本ペーパー)」を発表した。本ペーパーでは、パーム油の国際的な認証制度であるRSPO(持続可能なパーム油のための円卓会議)認証油では、燃料としての持続可能性が完全には担保できない点を主張している。
バイオマス燃料の持続可能性に関するポジション・ペーパー
WWFジャパンは、本計画に対して、燃料の持続可能性面において十分な検討がないまま、計画が進められようとしていることに対し、強く見直しを求める。
再生可能エネルギーを主力電源化する大前提として温室効果ガス削減があるべき
・第5次エネルギー基本計画において、2030年に向けて再生可能エネルギーを主力電源化していく方向性が示されている。そのため再生可能エネルギーには、コスト低減および電源としての長期安定性(維持・運用ができること)が求められている。
・一方で、現在世界は「パリ協定」の実施に向けて温室効果ガス(以下、GHG)削減を進めている。したがってバイオマス発電は少なくとも、対化石燃料比でのGHG削減率の基準を設けることが世界的に必須である。
・日本における再生可能エネルギーの普及においても、同様にGHG削減を大前提として燃料を選択するべきである。
アブラヤシ農園開発は温室効果ガスの大量排出源となる
・パーム油の原産国であるインドネシアおよびマレーシアでは、これまで広大な面積の熱帯林、泥炭地が開発されアブラヤシ農園に転換されてきた(土地転換/土地利用変化)。そして現在もパーム油を原因とした森林減少が続いている。
・特に泥炭地の開発が伴う場合、非常に大量のGHGが排出されることが指摘されている。経済産業省が2019年5月に公開した「バイオマス燃料の安定調達・持続可能性等に係る調査報告書」においても、土地利用変化が生じた場合のパーム油のライフサイクルGHG排出量は、土地利用変化がない場合に比べ139倍と試算している(120ページ図表99)。
バイオマス燃料の安定調達・持続可能性等に係る調査報告書
RSPO認証パーム油では、「燃料としての」持続可能性は完全には担保できない
・パーム油生産に伴う環境面、社会面のさまざまな課題解決のため、2004年にRSPO認証が設立され、現在日本をはじめ世界中の食品および非食品企業とそのサプライチェーンに関わる企業が取組を進めており、WWFジャパンもステークホルダーと連携しながらRSPOを推進している。
・しかし、RSPOは燃料利用を想定して策定された制度ではないこともあり、GHGの算定手法自体が未だ不完全である 。したがって、RSPO認証油であることだけで「燃料としての」持続可能性が担保されているとは言えない。
PalmGHG Calculator | RSPO - Roundtable on Sustainable Palm Oil
以上の内容を踏まえ、WWFジャパンは京都府および舞鶴市、日立造船株式会社、経済産業省に対し、それぞれ下記を要望する。
記
京都府および舞鶴市への要望
1.「京都舞鶴港スマート・エコ・エネルギーマスタープラン」におけるバイオマス発電の事業主体に対し、燃料の持続可能性担保を目的として、GHGの削減効果評価と自主的な削減基準の策定および公開を求めること
京都舞鶴港スマート・エコ・エネルギーマスタープラン
2.本計画に関わる、保有するすべての情報を住民やメディアに公開・共有すること
日立造船株式会社への要望
1.燃料として予定しているパーム油は、化石燃料を超えるGHG発生源となり得るため、日立造船株式会社が「Hitz SDGs推進方針」に掲げる「再生可能エネルギーの提供(CO2の削減)」を必ずしも達成しない可能性があることを理解すること
SDGsへの取り組み|Hitz 日立造船株式会社
2.したがって、燃料の持続可能性基準策定と共に、その担保を目的として、GHGの削減効果評価と自主的なGHG削減基準の策定および公開をすること
経済産業省への要望
1.「総合資源エネルギー調査会 省エネルギー・新エネルギー分科会 新エネルギー小委員会 バイオマス持続可能性ワーキンググループ」において、燃料の持続可能性の確認方法を検討するだけではなく、そもそも必要とされる持続可能性基準を速やかに検討・設定すること
バイオマス持続可能性ワーキンググループ (METI/経済産業省)
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