GBO5から読み解く、世界の生物多様性保全の今とこれから
2020/12/16
生物多様性保全の10年を振り返る
2020年もあとわずかとなりました。
2020年は環境分野において、スーパーイヤーといわれていました。
その主な所以としては、国連生物多様性条約第15回締約国会議(CBD-COP15)において、2011年から2020年までの生物多様性保全の目標であった「愛知目標」の成果を問い、それに続く新たな目標を議論するとなっていたことが挙げられます。
残念ながら、新型コロナウィルス(COVID 19)の蔓延により、多く国際会議が延期となり、CBD-COP15の開催もまた2021年以降の開催が決まりました。
しかし、それでもこの1年の間に、過去10年間におよぶ世界の生物多様性の保全活動の成果について、レビューが行なわれてきました。
その一つが生物多様性条約事務局によりとりまとめられ、2020年9月に発表された、地球規模生物多様性概況第5版(Global Biodiversity Outlook 5:GBO5)です。
生物多様性保全は志半ば
GBO5は、生物多様性戦略計画2011-2020及び「愛知目標」の達成状況について取りまとめた報告書です。
世界中の生物多様性に関する研究成果やデータを分析し、現状を把握することで、「愛知目標」の達成度を測りつつ、その後に続く「ポスト2020目標」の設定に寄与する重要な知見を提供する。
それが、このGBO5の重要な役割でした。
しかし、20の目標で構成され、2020年までの達成が課されていた「愛知目標」の達成度は、非常に残念な結果となりました。
20目標のうち、いくつかについては進展があったものの、いずれの目標においても「達成されたものはなかった」という現状を、GBO5は示していたのです。
GBO5が示す現状は、世界の生物多様性の保全が、十分に実現できておらず、自然環境の破壊がより深刻化していることを物語っています。
未来の地球への処方箋が必要!
このまま生物多様性の損失が進むと、どうなるのでしょうか。
その一つの明確な答えに、世界中が今、深刻な影響を受けています。
すなわち、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックです。
新型コロナウイルス感染症は、動物由来感染症の一つと考えられていますが、過去約半世紀の間に、こうした感染症は急増し続けてきました。
開発などによって森林をはじめとする自然が世界各地で破壊され、そこに生息する野生動物が持っていたさまざまな病原体が世界中に拡散したことが、その大きな理由です。
生物多様性保全のスーパーイヤーとされていたはずの2020年は、皮肉にも、環境破壊によって人間社会がどのような被害を受けるのか、その脅威が現実のものとなった一年となったのです。
これは、今後の世界の生物多様性保全の取り組み次第で、回復への見込みが残されていることを示しています。
最大限の取り組みを徹底した、最善のシナリオが実現できれば、何とか生物多様性の損失は回復に向かうとことになりますが、そのためには、これまでの社会、経済活動の抜本的な見直しが必要。相当の努力が求められることになります。
GBO5では「地球の処方箋」ともいうべき取り組みの内容を、次のように提案しています。
すなわち、「持続可能な道への移行(Transitions to Sustainable Pathway)」として掲げた、以下の8つの項目の取り組みです。
「地球一個分の暮らし」を目指して
GBO5では、「愛知目標」に続く、世界の生物多様性保全の新たな目標「ポスト2020年目標」の検討にあたり、これら8つの項目の検討と実施を求めています。
また、WWFも、生物多様性の損失の大きな原因である、人間活動による環境への負荷「エコロジカル・フットプリント」の削減と、その結果として目指すべき「地球一個分」の暮らしを実現する活動を呼びかけています。
2020年にWWFが発表した最新版の「生きている地球レポート(Living Planet Report)」が示す通り、人間の生活や経済活動による「エコロジカル・フットプリント」は、地球が1年間に生産できる範囲を約60%もオーバーしています。
つまり、今の生活を維持するには地球1.6個分の自然資源が必要とされており、この状況が続く限り、地球環境を搾取し続けることになる、ということです。
これは、生物多様性の劣化、損失をさらに深刻化させ、後戻りできない事態を引き起こすものといえるでしょう。
その結果、生じるのは、今や3万2,000種を超えた絶滅の危機にある野生生物の絶滅や、木材や水産物などの自然資源の枯渇だけではありません。
新型コロナウイルス感染症に続く、新たな感染症の発生と拡散のリスクも、こうした危機の中に確実に潜んでいるのです。 このような未来を回避するためには、計画的に経済のしくみやライフスタイルを転換して、健全な形で「地球1個分の暮らし」をめざすことが欠かせません。
それはまた、世界の生物多様性の保全にも貢献する大きな力でもあるのです。