10年後を決める生物多様性の議論進行中

この記事のポイント
生物多様性の次の国際ルール「ポスト2020目標」を採択する生物多様性条約第15回締約国会議(COP15)は、2021年10月、中国(昆明)で開催予定です。持続可能な開発目標(SDGs)の、貧困、飢餓、陸域、海洋、気候の目標達成に大きく影響するポスト2020目標。次の目標設定と実施策はこれまで以上の真剣な取り組みが求められます。とくに、持続可能な生産と消費は、政府、企業、市民などすべての人の参加が重要です。

ゼロドラフトからファーストドラフトへ(これまでの経緯)

ポスト2020生物多様性国際枠組みに関する公開作業部会(OEWG; Open-ended Working Group)は、条約事務局とともに、2020年1月、ポスト2020国際枠組みのゼロドラフトを公開しました。また、国際枠組みに関する科学的・技術的なレビューや効果的なプロセスについての検討を関係機関に要請した後、2020年8月には改訂ゼロドラフトを発信しました。

この要請を受けて、2021年5月3日~6月13日、条約の実施状況について科学技術的な見地から検討する科学技術助言補助機関会合第24回(SBSTTA(サブスタ); Subsidiary Body on Scientific, Technical and Technological Advice)と、条約の構造とプロセスを効率化するための検討を行う条約実施補助機関会合第3回(SBI3)が、オンラインで開催されています。

SBSTTA24では ポスト2020生物多様性国際枠組みのターゲットや指標などについて議論されています。また、SBI3では国際枠組みの実施報告、評価やレビューのしくみや、資源動員や資金メカニズムなどについて議論されます。この議論の結果をもとに、第3回作業部会ではファーストドラフトが発表され、10月の本会議COP15での議論に反映される予定です。

カギを握る行動ターゲット20

改訂ゼロドラフトは、2020年以降の国際的な生物多様性の枠組みとして、2050年目標、2030年マイルストーンを設定しています。また、2030年に向けた「ミッション」と「20の行動ターゲット」も含まれています。さらに、実施支援メカニズム、実現条件、責任と透明性が示されています。具体的な行動に落とし込む「20の行動ターゲット」は、以下のとおりです。

(出典:環境省和訳資料より表作成)

(出典:環境省和訳資料より表作成)

また、実施の進捗状況をモニタリングするための指標についての検討もされています。ポスト2020国際枠組みの指標案には、愛知ターゲットで使用したもの、SDGsとも連動したもの、世界的なデータが入手できるものなどが考慮しされています。ヘッドライン指標を設置し、グローバルと国別の進捗状況を把握するため、国別報告書で使用することが提案されています。

改訂ゼロドラフトの5つの弱点

WWFは、改訂ゼロドラフトは野心的ではなく、不十分と考えています。そのため、現在開催されているSBSTTA24やSBI3で、WWFの意見が反映されるよう働きかけています。
主な点は以下のとおりです。

  1. ミッションに、「2030年までに生物多様性の損失を反転させ、Nature positiveな社会」を含める。
  2. ゴールに、「生産と消費の負荷の半減」を含める。ターゲットに、「食料システムの変革」、「金融との連携」を含める。
  3. 強く効果的な実施体制
  4. 包括的な資源動員(resource mobilization)
  5. 「権利にもとづくアプローチ」(RBA; Right-based Approach)および「社会全体」のしくみを含める。

このうち、影響が大きいと思われる、以下の2点の詳細です。

ミッションに、「2030年までに生物多様性の損失を反転させ、ネイチャーポジティブな社会」を

2030年までに自然の純損失をなくし、回復の軌道に乗せること、すなわちネイチャーポジティブな社会をめざすことを2030年ミッションとする必要があります。

生物の多様性の減少を止め、回復させるには、保護区設定などの環境保護策だけでは足りず、食の生産や消費を持続可能なものにすることも必要なことが、科学的な根拠にもとづいて明らかになっています。(出典:生きている地球レポート2020,WWF)

ゴールに「生産と消費の負荷の半減」を含める。ターゲットに「食料システムの変革」、「金融との連携」を

「食料システムの変革」

改訂ゼロドラフトでは、ターゲット9に農業生態系や生産性の言葉はあるものの、「食」との関連を示した明確なめざす方向が示されていません。
WWFは、農業生態学にもとづく生産、食料廃棄とロスの半減、持続可能で健康な食習慣が重要と考えます。そして、2030年までに食料システムが生物多様性の損失の要因ではなくなり、生産基盤となる土壌や花粉媒介生物が保全され、回復していることをめざすよう、提案します。
これは、「自然と人の共生」(2050ビジョン)にとって、また、「飢餓をゼロ」(SDG2;持続可能な開発目標2) の達成にとっても必要なことです。

「金融との連携」

金融について、改訂ゼロドラフトには、D.2030マイルストーンのゴールB.2 「グリーン投資、国家勘定における生態系サービスの価値評価、及び公共・民間部門における財務状況の開示を通じて、自然が高く評価されている。」とありますが、具体的なターゲットは設定されていません。
WWFは、2030年までに、生物多様性のリスク、影響について情報開示され、金融の意思決定に生物多様性の回復が反映されることを提案します。

これまでも議論されてきましたが、生物多様性に有害な補助金を排除し、生物多様性の保全にプラスの行動に対するインセンティブを開発・拡大することが重要です。各国政府は、一方では自然を破壊する活動を支援し、他方では自然の破壊を阻止する活動に予算を使うという矛盾した方針をあらためるべきです。補助金などの公的なインセンティブが生物多様性に悪影響を与え続ける限り、自然はストレスにさらされ続け、その保護や保全のための資金調達の必要性がますます高まっていきます。

(出典:A Comprehensive Overview of Global Biodiversity Finance, OECD, 2020 からWWFが図を作成)

(出典:A Comprehensive Overview of Global Biodiversity Finance, OECD, 2020 からWWFが図を作成)

生物多様性保全のための公的資金額は、世界全体で年間約780-910億米ドル(2015〜2017年平均)と推定されています。一方、生物多様性に悪影響を及ぼす可能性のある経済活動支援には、年間約5,000億米ドルが使われています。これは、生物多様性保全のための公的資金額の6倍に相当します。

日本政府は、世界の生物多様性保全への貢献を

ポスト2020国際枠組みに沿って、世界の生物多様性の目標に日本がどう貢献していくのか、国内での具体的な施策が必要です。
国際的に活発な動きがある中、日本の取り組みはまだ十分とは言えません。
そのため、WWFジャパンは日本政府に対し、下記3点を提言します。

<提言1:環境外交の強化>

世界85ヵ国と地域の首脳たちは、2030年までに生物多様性を回復させることを約束する「自然回復への誓約:Leaders Pledge for Nature」に賛同し、決意を表明しています。2021年5月28日、菅総理大臣が参加を表明しました。今後は、具体的な施策を進めることで、積極的に世界の生物多様性保全へ貢献することが求められています。

<提言2:金融セクターへの働きかけ強化>

欧州で加速している金融の動向など世界の潮流に遅れないように、自然資本を重視した生物多様性における金融セクターへの働きかけを強化することを求めます。

<提言3:海外の生物多様性の回復に貢献する施策の実施>

日本の生活は海外の自然資源に大きく依存しているものの、それらがどこからどのように持ち込まれたものかわかりにくくなっています。モノのサプライチェーンを的確に把握するなど、持続可能な生産と消費が促進される施策づくりが重要です。

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