© Wild Wonders of Europe / Stefano Untherthiner / WWF

「持続可能な金融規制と中央銀行の活動(SUSREG2023年版)」の評価結果

この記事のポイント
WWF は「SUSREGアセスメント(2023年版)」の調査報告書を公表しました。これは各国の持続可能な金融規制と中央銀行の活動を評価するものです。今回のレポートの内容では、生物多様性に関する指標を中央銀行自身のポートフォリオや年金基金の情報開示に組み込む動きなど前進した点が認められたものの、気候変動、生物多様性に関する活動、規制はまだ十分といえるものではない実情が明らかになりました。
目次

広範な環境・社会リスクに対する、中央銀行や金融規制は依然、不十分

2023年12月、WWF は47 の国と地域における持続可能な金融規制と中央銀行の活動を評価する「SUSREGアセスメント(2023年版)」の調査結果に基づく新しい報告書を公表しました。

今回の調査対象となった国と地域のGDPは、合計すると世界全体の88%以上。温室効果ガスの排出量についても世界全体の72%以上を占めています。

また、世界で最も生物多様性が豊かな17カ国のうちの11カ国がふくまれています。

調査結果では、いくつかの前向きな進捗もある一方で、不十分な点も見られました。

前進した点と不十分な点

前進した点

  • 生物多様性に関する指標を中央銀行自身のポートフォリオや年金基金の情報開示に組み込む動き。
  • 生物多様性の損失に取り組むための監督手法の開発。
  • 金融機関や企業に対する気候変動における移行計画の開示要求の高まり。
  • 金融機関が顧客の環境・社会リスクを評価するための、リスクの高いセクターに対するセクター別融資ガイドラインの設定。

不十分な点

  • 中央銀行の取り組みと保険業界に対する監督の焦点は、依然として気候変動分野に留まっている。
  • 金融政策や中央銀行としての業務に気候変動リスクを組み入れることで、模範的な進展を示している中央銀行は18%に過ぎない。
  • 高所得国の68%が、銀行に対して気候・環境に関する監督政策をまだ採用していない。
  • 高排出国の中には、気候変動に関連した銀行・保険監督政策を導入していない国もある。
  • 本評価の対象となるネット・ゼロ目標を掲げている 国の半数以上(37カ国中20カ国)は、気候変動に関する銀行監督政策は大いに不十分。
  • 持続可能な銀行・保険監督政策は、アジア太平洋およびラテンアメリカの最も生物多様性の高い国々では不十分であり、自然関連リスクに大きくさらされている。
© naturepl.com / Steven Kazlowski / WWF

中央銀行と金融監督機関(金融庁)に対する期待

今回の報告書を通じ、WWF は、中央銀行、保険業に対する監督を含む金融監督当局に次のことを求めています。

  • 透明性が高く、測定可能で、中央銀行、金融規制、監督活動のすべてを包含する、脱炭素でネイチャー・ポジティブ経済のための独自の移行計画の公表。
  • 利用可能なすべてのミクロおよびマクロのプルーデンス監督手段を用いて、予防的アプローチを適用すること。環境災害の脅威に直面している今日、金融監督機関は、完璧なデータやモデルを待つのではなく、予防的でインパクトのある対策を優先する必要がある。
  • 金融政策等を活用し、環境・社会リスクに対処するとともに、持続可能経済への転換に寄与しないような事業等、をポートフォリオから段階的に除外する。
  • 金融機関が、石炭火力、石油・ガス等の拡大等、常に環境に有害な活動を行う企業に対して融資、投資、保険を行う際の自己資本規制を強化する。

SUSREG年次報告書2023の主執筆者であるシティ・コリファトゥル・リスキアは次のようにコメントしています。
「環境・社会リスクに起因する金融リスクを適切に管理することは、中央銀行や金融監督機関の責務の本質的な部分だ。それは、経済を守るために金融セクターの力を活用し、強靭な金融システムの基盤を支えるためにも重要である。」

本レポートの概要については以下のビデオもご覧ください(英語のみ)。

WWFは今後も、脱炭素社会の実現と生物多様性の保全における中央銀行と金融監督機関の果たせる大きな役割に注視し、提言を行なっていきます。

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