責任投資慣行に関する報告書『RESPOND』を発表

この記事のポイント
WWFシンガポールは、アセットマネージャー40社(欧州22、アジア18)の責任投資の現状をまとめた、調査報告書『RESPOND』の2022年版を発表。日本のアセットマネージャーが責任投資慣行に関してヨーロッパとのギャップを大幅に狭めつつも、ヨーロッパが依然として先導していることが明らかになりました。また、アジア全体で、より多くのアセットマネージャーが、資産運用に持続可能性を組み込むための積極的な措置を講じていることが分かりました。
目次

グローバルな責任投資の取り組みを評価する最新の報告書

『RESPOND(Resilient and Sustainable Portfolios :レジリエントで持続可能なポートフォリオ)』は、WWFがグローバルでのアセットマネージャーの責任投資の取り組みを評価し、まとめている年次報告書です。

この『RESPOND』では、1)目的 2)方針 3)プロセス 4)人 5)商品 6)ポートフォリオ、以上6つの指標について独自のフレームワークと基準を設定。

各アセットマネージャーが、その基準をどれくらい(%)満たしているかを評価し、公開しています。

WWFシンガポールは2022年2月9日、この報告書の最新版を発表。

世界のアセットマネージャーが、上記6つの分野について、ESG要素をどのように統合し、責任投資慣行に取り組んでいるかを評価しました。

今回、評価の対象となったのは、責任投資原則(PRI)に署名し、資産運用の総額が、ヨーロッパでは2,000億米ドル、アジアでは200億米ドル以上のアセットマネージャーで、40社(ヨーロッパ22、アジア18)となります。

加速するアジアの責任投資

2022年の評価は、平均スコアは2021年の評価(64%)よりも低い58%となりました。

これは、新規の評価対象にESGへの取り組みについてまだ日の浅いアジア金融機関が多数加わったこと、そして、より厳格な評価基準が導入されたことに起因します。

地域ごとの、前年比の調査結果は次のとおりです。

  • ヨーロッパの平均スコアは74%で、2021年のRESPONDからほとんど変わっていません。
  • 日本のスコアは59%で、2021年の52%から7%増加しており、改善を示しています。
  • 中国のスコアは29%で、アジアの他地域の平均31%にわずかに遅れています。

今回の調査では、日本のアセットマネージャーの絶対的および相対的なスコアの改善が目立ちました。

また、RESPONDに基づく評価の対象となるアジアのアセットマネージャーの数が増加していることは、責任ある投資慣行についてアジアで認識とコミットメントの度合いが高まっていることを示唆しています。

強まる責任投資の動きと課題

2021年にイギリスのグラスゴーで開催された、国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP26)では、世界の気候変動対策の基準が、事実上「1.5度」にシフトしました。

この点に関し、今回評価対象となったアセットマネージャーのうちの36社が、「気候変動が投資の意思決定に組み込まれている」という方針または声明を公開している、という結果になりました。

一方で、資産運用会社の大多数が「気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)」の推奨事項を公に支持しているにもかかわらず、全ての投資先企業に対し同様の推奨事項および、科学に基づく目標を設定するよう求めているのは、9のアセットマネージャーにとどまっている現状も明らかになりました。

また、アセットマネージャーの半数以上が「ポートフォリオ」のESGリスクを定期的に評価していますが、投資による環境への影響を公表しているのは13社のみです。

こうしたことからもうかがえる通り、アセットマネージャーがESG要素を、より強く投資やエンゲージメントに組み込んでいくためには、まだ解決しなくてはいけない課題が残されています。

そのため、WWFは報告書の発表にあたり、以下の取り組みを推奨しています。

気候変動について

  • 温暖化を「1.5度」に制限する世界的な取り組みに沿って、2050年までにネットゼロに到達することを目標とし、信頼でき、最新の気候科学と一致するコミットメントを設定すること。
  • 取締役会がこれらのコミットメントを監視することにより、ネットゼロ目標に対する説明責任と、全社的な連携を強化すること。
  • 長期的なネットゼロの目標を達成する可能性を高めるため、暫定的および短期的な目標を含む、詳細な戦略を立てること。
  • 投資先企業の持続可能性への影響と、リスクへのエクスポージャーを評価する際には、科学に基づくツールと方法論を採用し、同様に科学ベースの目標とリスク管理の方法論を採用するよう投資先企業へ伝えること。
  • 運用資産すべてのESGパフォーマンスと環境への影響を開示すること。

報告書ではまた、気候変動以外の観点で求められる、環境リスクに対するアセットマネージャーの取り組みについても評価を行なっています。

例えば、洪水や水資源の枯渇といった「水リスク」については、25のアセットマネージャーが、森林破壊と生物多様性の喪失については、26のアセットマネージャーが、方針または声明を持っています。

これらのうち、過半数はヨーロッパのアセットマネージャーで、今後はアジアでも同様の取り組みの広がりが期待されます。

WWFはこれらの環境リスクを管理するため、以下を推奨します。

  • 気候変動を超え、セクターポリシーなどで固有の問題ごとに方針を設定すること。
  • アセットマネージャーは、一般的な声明としてではなく、実際の投資およびポートフォリオの監視プロセスにおいて、どのように固有の問題が組み込まれるか明確に説明すること。
  • 投資先企業に対し、業界における必要な認証を取得し、事業に関連する場合は国際的に認められた持続可能性に関する基準を適用すること。
  • 投資による環境影響の評価および報告について、炭素以外の指標を含めること。

RESPONDはWWFによって開発され、責任投資慣行を強化することに役立つことを目指し、今後も年次で調査結果を公表する予定です。

アセットマネージャー各社に活用いただくだけでなく、アセットオーナー、事業会社にも責任投資のベンチマークとして参照頂くことを期待しています。


報告書『RESPOND(Resilient and Sustainable Portfolios :レジリエントで持続可能なポートフォリオ)』(英語)

日本語版(仮訳):PDF(4.9MB)

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