次なるステップへ進む象牙対策、旅行者アプローチ
2020/12/02
中国人旅行者の意識調査を実施
WWF中国は、2019年8月から2020年1月の間にかけて、アジアの7つの主要な目的地(カンボジア、香港、日本、ラオス、ミャンマー、タイ、ベトナム)に渡航した3,000人以上の中国人旅行者を対象に意識調査を実施しました。
2017年末をもって国内の象牙取引を終了させた中国では、少なからず残る象牙需要の削減を目指す試みが続けられています。
そうした中、消費者の意識や動機を把握するため、WWF中国が2017年から実施してきたこの意識調査では、渡航先で象牙を購入した経験がある中国人旅行者が増加している実態が示されていました。
これを受け、2019年から2020年にかけての調査では、その傾向をより詳しく把握するため、対象を旅行者、特に、中国本土以外へ渡航した中国人に絞る形で行なわれました。
旅先での象牙購入を検討した旅行者が11%
調査の結果、過去3年間で対象の7カ国・地域へ渡航した旅行者3,011人のうち、渡航前に旅先での象牙購入を検討していたことを明かした旅行者が約10人に1人(11%)いることがわかりました。
象牙購入を検討した渡航先第2位は日本
特に、注目すべき結果のひとつは、渡航先別に検証した、象牙購入を検討していた旅行者の割合の高さです。
その中で日本は、タイに次いで、2番目に高い割合で、象牙の購入希望者が多かったことが分かりました。
日本国内で行なわれる象牙取引は、現状では合法とされていますが、買った象牙を国外に持ち出す行為は、野生生物の国際取引を規制するワシントン条約によって原則禁止されており、違法行為、すなわち密輸となります。
実際に日本への渡航経験のある422人に対して行なった、更なる調査結果からは、旅行中に象牙を販売しているお店に訪問した人が36%に上り、実際に象牙を購入したことを示唆する人の割合は12%と推定されています。
これは、近年日本からの象牙の違法輸出の懸念が高まる中で憂慮すべき結果であったと言えます。
日本からの象牙の違法輸出については、2011年から2016年の6年間で、約2.42トンに上ることが公式な記録(象牙の違法取引データを集積しているデータベース:ETIS)からも示されています。
また、TRAFFICが行なった2019年の中国向け象牙の違法取引の分析*でも、380件の押収事例のうち36件が日本から密輸されたものであったことがわかっています。
輸出元の国・地域が多様であった中で、日本由来の密輸実績の件数(36件)は顕著な数値であったことも言及されています。
* TRAFFIC(2020).Counter wildlife trafficking digest: Southeast Asia and China, 2019
https://www.traffic.org/site/assets/files/13112/uwa-traffic-cwt-2019-digest.pdf
中国人旅行者の特徴
調査では、旅先で象牙購入を示唆する旅行者または、実際に購入経験のある旅行者の特徴も特定しました。
こうした調査の結果は、どのような層を対象にどういったメッセージを発信することが効果的かなど、象牙の需要削減に向けた取り組みを行なう上で、重要な情報となります。
WWFも、消費者向けのキャンペーンとして、象牙の中国への持ち込みが違法であることを伝える啓発活動も実施していますが、今回の調査結果の中でも、渡航前に象牙購入を検討していた人の中で、注意を促す国やNGOのメッセージを見て、実際の購入を思い留まった人がいたこともわかりました。
ポスト・コロナに向けた対策の拡充を
2020年1月までの調査は、新型コロナウイルスのパンデミックが発生する前に実施されたものであるため、渡航制限により旅行機会が限定的となった現在とは、状況が異なります。
ですが、パンデミックの脅威が沈静化した後、観光や物流が再び回復した時には、日本からも再び象牙の違法な持ち出しが発生する可能性は十分にあり、注意が必要です。
訪日観光客の増加が見込まれる東京オリンピック・パラリンピックを迎えるにあたって、こうした視点も取り入れて関係者と共に対策強化を図ることが求められています。
日本語サマリー:
『Beyond the ivory Ban: Research on Chinese Travelers While Abroad』より抜粋(日本語訳)