【第1部:省エネルギー編】 第1章 2050年のマクロ経済と社会
2011/08/11
すでに公式に発表された、2030年以降の日本のエネルギー需給とCO2排出量に関する報告としては、以下の3つがある。
これらの報告を概観し、2020、2030、2050年の将来の日本の社会の概要を示す主要な指標である、人口、GDP、産業生産などを検討する。
(1)「総合資源エネルギー調査会のエネルギー基本計画」
日本政府の「エネルギー基本計画」(2010年6月)には、2030年までについての予測値があるが、2050年の値に関しては示していない。1)
(2)「アジア/世界エネルギーアウトルック2010」
2010年に、財団法人日本エネルギー経済研究所が発表した「アジア/世界エネルギーアウトルック2010」は、世界だけでなく、日本の将来像についても示しており、2020年、2035年、2050年の数値を示している。報告では2020年と2050年の中間年として2035年を取り上げており、レファレンスケースと技術進展ケースを検討している。2)
(3)「脱温暖化2050」
国立環境研究所の「脱温暖化2050」(2008年発表)は、2050年に温室効果ガス70%削減を目標にした社会像を2つのシナリオで描き出す試みを行っている。その後、2010年12月、このシナリオは80%削減に改定されている。3)シナリオAは、「活力社会」とし、集中型エネルギーによる供給で、便利で快適な生活を追及する社会であり、一人あたりGDPは年率1.7%で成長する。シナリオBは「ゆとり社会」とし、分散型エネルギーによる供給で、社会・文化的な価値を尊ぶ自然志向の分散型コミュニテイ社会であり、一人あたりGDPは年率1%で成長するとしている。
「脱温暖化2050」と「アジア/世界エネルギーアウトルック2010」には、2050年の予測値が明示されており、以下にはこの2つのシナリオの概要を示した。
脱温暖化2050シナリオ | アジア/世界エネルギーアウトルック | ||||||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
単位 | 2000 | 2050A | 2050B | 2008 | 2020 | 2035 | 2050 | ||||
人口 | 百万人 | 127 | 94 | 100 | 127 | 122 | 110 | 95 | |||
世帯数 | 百万世帯 | 47 | 43 | 42 | 52 | 54 | 51 | 45 | |||
実質GDP (2000年価格) | 兆円 | 519 | 770 | 596 | 544 | 657 | 767 | 851 | |||
製造業生産 | 2000年=100 | 100 | 100 | 117 | 95 | 124 | 142 | 156 | |||
- 粗鋼 - エチレン - セメント - 紙・板 | 百万トン | 107 8 82 32 |
107 4 51 17 |
78 3 45 28 |
105 6 66 28 |
114 7 55 30 |
101 6 51 30 |
88 5 41 28 |
以下には、上記の2つのシナリオについて、
基本的な想定事項を検討する。
1.1 人口
人口問題研究所の「中位推計」によると、日本の人口は、2030年には1億1529万人となる。その後は、2050年には9515万人となり、2000年の75%に低下する。「アジア/世界エネルギーアウトルック」では、この数値が使われている。しかし、「脱温暖化2050Aシナリオ」の2050年の人口は9400万人とやや少なくなり、「脱温暖化2050Bシナリオ」では、人々にゆとりが生まれることから、人口1億人として減少の程度が小さくなることを想定している。
1.2 GDP
実質GDPは2008年の544兆円から、2050年には596~776兆円(脱温暖化2050シナリオ)、851兆円(アジア/世界エネルギーアウトルック・レファレンスケース)に増大する。
2008年から、1.09~1.56倍になると想定されているわけである。「アジア/世界エネルギーアウトルック」が想定した2050年のGDPは、「脱温暖化2050」のAとBのシナリオの値よりも大きくなっている。
日本経済が成長し続けていた80年代末までは、将来のエネルギー需要をGDP成長率との比で示すエネルギー需要弾性値を用いて計算することが行われたが、現在では、エネルギー需要とGDPの「鉄の鎖」のような強い関係はなくなっている。この2つのシナリオに見られるように、GDPは成長するが、エネルギー消費は減少するというシナリオが公式に発表されるようになっている。先進国ではGDPは、情報産業やサービス産業などの産業の発展などに支えられて成長すると考えられている。
1.3 産業生産
2つのシナリオのいずれでも、製造業の生産指数は2050年には2008年の1.23~1.64倍に増大している。しかし、鉄鋼、エチレン、セメント、紙・板紙など基礎資材の生産をみると、2050年には2008年に比較して、いずれも減少している。鉄鋼は60~84%に減少し、セメントは62~66%に低下している。先進国ではこうした基礎資材の生産が飽和して、重厚長大産業から知識集約型のサービス産業への移行が進展していることは、よく知られている。したがって、産業のエネルギー消費についてみると、鉄鋼、セメントなどのエネルギー集約型産業については減少し、情報産業や電子機械などの産業の活動が、増大するGDPを生み出すと想定されている。
1.4 BAUシナリオ
「アジア/世界エネルギーアウトルック」と、「脱温暖化2050」の2050年の数値をみると、 人口、GDP、産業生産などの基本的な数値はどちらも大きな違いはない。以下には、その計算結果であるエネルギー需要とCO2排出量について見てみよう。
1.4.1 アジア/世界エネルギーアウトルック」のエネルギー消費とCO2削減
「アジア/世界エネルギーアウトルック2010」レファレンスケースのエネルギー消費構造を見てみよう。2050年をみると、レファレンスケースでは2008年に比較して20%減少している。
そして、技術進展ケースでは、2008年に比較して35%減少している。レファレンスケースに対して技術進展ケースを比較すると、2050年の最終用途エネルギー消費量が19%小さい。
表中のエネルギーの単位は、1010kcal=1,000TOE(1,000トン石油換算)であり、以下ではこれを用いている。
レファレンスケースと技術進展ケースのCO2排出量は表1-4、図1-2のようになっている。
2050年のCO2排出量は、2008年比で、レファレンスケースでマイナス40%、技術進展ケースでマイナス61.5%になっている。最終用途エネルギー消費の減少割合よりも、CO2排出量の削減が大きいのは、供給面での低炭素化が理由であり、原子力が寄与している。
表中のエネルギーの単位は、1010kcal=1,000TOE(1,000トン石油換算)であり、以下ではこれを用いている。
レファレンスケースと技術進展ケースのCO2排出量は表1-4、図1-2のようになって いる。
2050年のCO2排出量は、2008年比で、レファレンスケースでマイナス40%、技術進展ケースでマイナス61.5%になっている。最終用途エネルギー消費の減少割合よりも、CO2排出量の削減が大きいのは、供給面での低炭素化が理由であり、原子力が寄与している。
1.4.2 「脱温暖化2050」のエネルギー消費とCO2削減
脱温暖化2050では、2つのシナリオともに2000年比でエネルギー消費がおおよそ半減しており、CO2排出量は1990年比で80%削減する結果になっている(図1-3)。
脱炭素社会に向けたエネルギーシナリオ(以下、「WWFシナリオ」と略す)では、既存の研究を参照して、2020年、2030年、2050年のエネルギー消費とCO2削減を検討することを目的としている。そこで、上記の「アジア/世界エネルギーアウトルック2010レファレンスケース」をWWFシナリオのBAUシナリオとする。その場合、直線補間により2035年の数値を2030年の数値に換算する作業を行うことにする。
出典:参考文献2より転載:脱温暖化2050プロジェクトスナップショットモデルの試算結果より作成
脱炭素社会に向けたエネルギーシナリオ提案 <第一部・省エネルギー>
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