【第1部:省エネルギー編】 第3章 WWFシナリオの内容
2011/08/23
3.1 WWFシナリオのエネルギー需要の算出
2020、2030、2050年におけるWWFシナリオのエネルギー需要は以下のように算出した。
各最終用途のエネルギー需要
=2008年の各最終用途エネルギー需要 × 各部門の活動度の変化×省エネルギーの効率向上
各最終用途のエネルギー需要は、2008年の各部門のエネルギー需要を出発点にして、これに各年における各最終用途の活動度の変化をかけ、さらに前章で検討した省エネルギーによる効率向上をかけて求めた。
各エネルギー最終用途の活動度は、人口、世帯数、実質GDP、材料資源指数を、2008年を起点とする比で表わし、これを利用して計算している。材料資源指数は、粗鋼、エチレン、セメント、紙・板紙の生産量を合計した数値を、2008年を1として指数化したものである。それぞれのエネルギー最終用途に最も関係が深いと考えられる指数を利用して将来の活動度を表現するようにした。
主要数値 | 2008 | 2020 | 2030 | 2050 |
---|---|---|---|---|
人口(万人) | 12,769 | 12,282 | 11,477 | 9,520 |
人口比(2008年比) | 0.96 | 0.90 | 0.75 | |
実質GDP(2000年価格) | 544.1 | 656.8 | 730.4 | 850.6 |
- 実質GDP比(2008年比) | 1.21 | 1.34 | 1.56 | |
世帯数(万世帯) | 5,233 | 5,446 | 5,269 | 4,519 |
- 世帯数比(2008年比) | 1.04 | 1.01 | 0.86 | |
鉱工業生産指数(2005年=100) | 94.9 | 123.6 | 135.9 | 155.6 |
- 粗鋼生産(万トン) | 10,550 | 11,458 | 10,595 | 8,870 |
- エチレン生産(万トン) | 652 | 705 | 687 | 571 |
- セメント生産(万トン) | 6,590 | 5,564 | 5,315 | 4,169 |
- 紙・板紙生産(万トン) | 2,879 | 3,085 | 3,058 | 2,827 |
材料資源指数(2008年比) | 1.000 | 1.007 | 0.951 | 0.795 |
エネルギー最終用途 | 活動量 | 2050年の省エネルギーの内容 |
---|---|---|
産業部門 | ||
- 非製造業 | 人口に比例 | 効率20%向上 |
- 製造業 | ||
素材系 ・鉄鋼 ・化学 ・窯業・土石 ・紙パルプ |
生産量に比例 生産量に比例 生産量に比例 生産量に比例 |
リサイクル率70% 効率30%向上 効率30%向上 効率30%向上 |
非素材系 ・食品・タバコ ・繊維 ・非鉄金属 ・金属機械 ・その他 |
人口に比例 人口に比例 材料資源指数に比例 GDPに比例 材料資源指数に比例 |
効率30%向上 効率30%向上 効率20%向上 効率30%向上 効率30%向上 |
民生部門 | ||
- 家庭部門 ・冷房 ・暖房 ・給湯 ・厨房用 ・動力ほか |
世帯数に比例 世帯数に比例 世帯数に比例 世帯数に比例 GDPに比例 |
断熱化、ヒートポンプのCOPが2倍 断熱化、ヒートポンプのCOPが2倍 ヒートポンプ給湯器のCOPが2倍 効率30%向上 22%は照明用で4分の1に低下、残りは効率50%向上 |
- 業務部門 ・冷房 ・暖房 ・給湯 ・厨房用 ・動力ほか |
GDPに比例 GDPに比例 人口に比例 人口に比例 GDPに比例 |
都市緑化で5%削減、クールビズで8%低減、断熱化、 ヒートポンプのCOPが2倍になる ウォームビズで8%低減、断熱化、ヒートポンプのCOPが2倍 ヒートポンプ給湯器のCOPが2倍 効率30%向上 BEMSで10%削減、50%が照明用で1/4に低下、 残りは効率50%向上、TV会議用負荷増加 |
運輸部門 | ||
- 旅客輸送 ・自家用乗用車 ・営業用乗用車 ・バス ・鉄道 ・海運 ・航空 |
人口に比例 人口に比例 人口に比例 人口に比例 人口に比例 人口に比例 |
効率70%向上、エコドライブ、カーシェアリング 効率70%向上、エコドライブ、カーシェアリング 効率30%向上 効率20%向上 効率30%向上 10%がTV会議へ。効率30%向上 |
- 貨物輸送 ・貨物自動車 ・鉄道 ・海運 ・航空 |
材料資源指数に比例 材料資源指数に比例 材料資源指数に比例 GDPに比例 |
効率向上60%、エコドライブ、モーダルシフト15% 効率20%向上+モーダルシフト増加 効率30%向上 効率30%向上 |
たとえば、素材系の産業の活動度は、鉄鋼、化学、セメント、窯業・土石、紙パルプのそれぞれの年間生産量に比例するとした。非製造業は農林・水産業であり、その活動度は人口に比例するとした。素材系の産業のうち食品・タバコ、繊維も同様にその活動度は人口に比例するとした。金属機械は情報産業に関する成長分野であり、その活動度はGDPに比例するとした。
家庭部門の活動度は世帯数に比例するとしたが、動力他(電力)についてはGDPに比例するとしている。業務部門の活動度は、給湯と厨房については人口に比例するとしたが、そのほかはサービス産業の増大が生じるのでGDPに比例するとした。運輸部門については旅客輸送の活動度は、人口に比例し、貨物輸送の活動度は、材料資源指数に比例するものとした。各最終用途における活動度の変化を示す指標と2050年の省エネルギーの効率向上を、表3-2に示す。
省エネルギーについての取り扱いの例を挙げると以下のようになる。
3.2 乗用車の省エネルギー
自家用乗用車と営業用乗用車の省エネルギーについては、既存自動車の燃費の改善、軽量化を進めたエコカーPHV/EV/FCVの普及、エコドライブ、カーシェアリングを含めた扱いが必要である。そのため、表3-3に示すように、各年度における、それぞれの普及状況とその省エネルギー効果を見積もって合計のエネルギー消費を指数化して求めている。ここでは、既存自動車に対して普及してゆくエコカーの割合を考慮し、さらにすべての乗用車に対してエコドライブの普及とカーシェアリングの普及を当てはめている。2050年にはすべての乗用車が70%効率向上したエコカーになり、エコドライブが20%、カーシェアリングが5%普及して、2008年比で27.9%のエネルギー消費になる。
乗用車の省エネルギー | 2008 | 2020 | 2030 | 2050 |
---|---|---|---|---|
既存乗用車割合(%) | 100 | 65 | 30 | 0 |
- その効率向上割合 | 1 | 0.8 | 0.8 | 0.8 |
- A:そのエネルギー消費 | 100 | 52.0 | 24.0 | 0.0 |
軽量化+PHV/EV/FCV普及率(%) | 0 | 35 | 70 | 100 |
- その効率向上割合 | 0.5 | 0.4 | 0.35 | 0.3 |
- B:エネルギー消費 | 0 | 14 | 24.5 | 30 |
- A+B:エネルギー消費 | 100 | 66 | 48.5 | 30 |
エコドライブ普及率(%) |
0 |
5 |
10 |
20 |
- そのエネルギー減少(15%) | 0 | 0.75 | 1.5 | 3 |
カーシェアリング普及率(%) | 0 | 1 | 2 | 5 |
- そのエネルギー減少(80%) | 0 | 0.8 | 1.6 | 4 |
エコドライブ+カーシェアリングによるエネ削減 | 0 | 1.55 | 3.1 | 7 |
C:エコドライブ+カーシェアによる省エネ割合 | 1 | 0.98 | 0.97 | 0.93 |
合計エネルギー消費(A+B)×C |
100.0 |
65.0 |
47.0 |
27.9 |
2008年比 | 100 | 65.0 | 47.0 | 27.9 |
3.3 貨物自動車の省エネルギー
貨物自動車の場合には、2050年には、15%が鉄道へのモーダルシフト、既存自動車から効率が60%向上するエコカーへの移行、そして40%のエコドライブの普及が組み合わさっている。
表3-4に示すように、エコカーへの移行によってエネルギー消費は、2050年には、40%に低下してゆく。そして、エコドライブの普及により、6%のエネルギー消費の削減が生じ、2008年比では33.5%のエネルギー消費になる。
貨物自動車の省エネルギー | 2008 | 2020 | 2030 | 2050 |
---|---|---|---|---|
モーダルシフトによる削減(%) | 1 | 5 | 10 | 15 |
A:モーダルシフト後のエネルギー消費 | 0.99 | 0.95 | 0.9 | 0.85 |
既存貨物自動車割合(%) |
100 |
65 |
45 |
0 |
- その効率向上割合 | 1 | 0.9 | 0.8 | |
- B:そのエネルギー消費 | 100 | 59 | 38 | 0 |
軽量化+PHV/EV/FCV普及率(%) | 0 | 35 | 55 | 100 |
- その効率向上割合 | 1 | 0.6 | 0.5 | 0.4 |
C:エネルギー消費 | 0 | 21 | 27.5 | 40 |
B+C:エネルギー消費 | 100 | 79.5 | 65.75 | 40 |
エコドライブ普及率(%) |
0 |
10 |
20 |
40 |
- そのエネルギー減少(6%) | 0 | 0.6 | 1.2 | 2.4 |
D:エコドライブによる省エネ割合 | 1 | 0.994 | 0.988 | 0.976 |
合計エネルギー消費 A×(B+C)×D |
99.0 |
75.1 |
58.5 |
33.2 |
2008年比 | 100 | 75.8 | 59.1 | 33.5 |
3.4 WWFシナリオのエネルギー需要
以上のような計算によって、2020、2030、2050年におけるWWFシナリオのエネルギー消費量をもとめた。
表3-5には、その結果を取りまとめた概要を示している。表中には、各エネルギー部門のWWFシナリオのエネルギー需要について示したが、部門合計にはBAUシナリオの数値も参考に示している。
エネルギー(1000TOE) | 2008 | 2020 | 2030 | 2050 |
---|---|---|---|---|
産業部門計(BAU) | 155,988 | 166,309 | 158,732 | 136,499 |
産業部門計(WWF) | 155,988 | 138,384 | 122,114 | 91,543 |
- 非製造業 | 9,123 | 8,336 | 7,380 | 5,441 |
- 製造業 | 146,865 | 130,048 | 114,734 | 86,101 |
素材系 | 103,928 | 92,936 | 80,590 | 56,478 |
・鉄鋼 | 37,801 | 36,238 | 29,115 | 16,945 |
・化学 | 48,056 | 42,609 | 38,483 | 29,460 |
・窯業・土石 | 9,604 | 6,649 | 5,886 | 4,253 |
・紙パルプ | 8,467 | 7,440 | 7,106 | 5,820 |
非素材系 | 42,937 | 37,112 | 34,144 | 29,623 |
・食品・タバコ | 5,827 | 4,596 | 3,980 | 3,041 |
・繊維 | 2,073 | 1,635 | 1,416 | 1,082 |
・非鉄金属 | 3,377 | 2,992 | 2,697 | 2,148 |
・金属機械 | 10,656 | 10,548 | 10,872 | 11,661 |
・その他 | 21,004 | 17,341 | 15,179 | 11,691 |
民生部門計(BAU) | 92,117 | 101,780 | 99,025 | 87,093 |
民生部門計(WWF) | 92,117 | 68,759 | 58,307 | 46,854 |
- 家庭計(BAU) | 51,902 | 54,957 | 51,906 | 43,228 |
- 家庭計(WWF) | 51,902 | 37,211 | 30,940 | 24,262 |
・ 冷房 | 1,132 | 615 | 376 | 176 |
・ 暖房 | 12,739 | 6,920 | 4,233 | 1,980 |
・ 給湯 | 15,014 | 10,938 | 9,071 | 6,483 |
・ 厨房用 | 4,267 | 3,641 | 3,265 | 2,579 |
・ 動力他 | 18,750 | 15,097 | 13,995 | 13,044 |
- 業務計(BAU) | 42,338 | 46,823 | 47,120 | 43,805 |
- 業務計(WWF) | 42,338 | 31,548 | 27,367 | 22,592 |
・ 冷房 | 5,068 | 3,650 | 3,144 | 2,597 |
・ 暖房 | 6,765 | 4,957 | 4,323 | 3,649 |
・ 給湯 | 6,451 | 5,274 | 4,343 | 3,102 |
・ 厨房用 | 3,761 | 2,966 | 2,749 | 2,532 |
・動力他 | 20,294 | 14,700 | 12,807 | 10,712 |
運輸部門計(BAU) | 84,255 | 73,707 | 64,206 | 46,916 |
運輸部門計(WWF) | 84,255 | 58,271 | 43,824 | 25,820 |
- 旅客計(BAU) | 54,771 | 45,784 | 38,187 | 25,262 |
- 旅客計(WWF) | 54,771 | 35,474 | 26,511 | 16,624 |
・自家用乗用車 | 45,447 | 28,414 | 20,545 | 12,196 |
・営業用乗用車 | 1,376 | 860 | 622 | 369 |
・バス | 1,447 | 1,141 | 988 | 755 |
・鉄道 | 1,905 | 1,612 | 1,438 | 1,136 |
・海運 | 166 | 131 | 113 | 87 |
・航空 | 4,430 | 3,315 | 2,803 | 2,081 |
- 貨物計(BAU) | 29,485 | 27,923 | 26,019 | 21,654 |
- 貨物計(WWF) | 29,485 | 22,798 | 17,313 | 9,196 |
・貨物自動車 | 25,040 | 19,110 | 14,072 | 6,670 |
・鉄道 | 128 | 124 | 122 | 122 |
・海運 | 3,771 | 3,113 | 2,725 | 2,099 |
・航空 | 546 | 451 | 395 | 304 |
非エネ | 4,465 | 4,175 | 3,834 | 3,074 |
合計(BAU) | 338,948 | 345,971 | 325,798 | 273,522 |
合計(WWF) | 338,948 | 269,590 | 228,078 | 167,291 |
脱炭素社会に向けたエネルギーシナリオ提案 <第一部・省エネルギー>
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