【第2部:100% 自然エネルギー編】 第3章 WWFシナリオのエネルギー供給構成
2011/11/29
以上に示したエネルギー需給の内容を、2008年から2050年についてとりまとめると、以下のようになる。
まず、エネルギー供給構成は燃料と電力とするが、電力には元来のデマンドドリブン(需要対応型)の電力需要があり、ここではこれを純粋電力需要とよぶことにする。
つぎに、もともとの燃料需要のうちの一部が、電力からの変換により供給されるものがある。そのプロセスは、水素への転換(燃料水素とFCV用)、電力ヒートポンプを利用する熱供給、EVの駆動用動力、車上太陽光であり、これらを燃料用の電力と呼ぶ。そして残りの燃料需要がもとからある燃料需要(正味の燃料)であり、バイオマスと太陽熱によって供給されることになる。
1000TOE | 2008 | 2020 | 2030 | 2040 | 2050 |
---|---|---|---|---|---|
燃料 | 247,989 | 188,218 | 134,711 | 95,922 | 70,063 |
電力(燃料用) | 0 | 2,555 | 16,576 | 27,563 | 34,887 |
電力(純粋電力) | 86,494 | 70,853 | 63,991 | 57,959 | 53,938 |
合計 | 247,989 | 190,773 | 151,287 | 123,485 | 104,950 |
表3-1には、燃料(正味の燃料)、電力(燃料用)、電力(純粋電力用)の3種類の最終用途別の数値をとりまとめている。
2020年以降は、燃料の一部が電力(燃料用)から供給されるので、正味の燃料需要を代替してゆき、2050年には、電力(燃料用+純粋電力用)が最終的にやや増加する結果になっている。しかし、全体として燃料の減少は大きく、燃料と電力の合計は減少している。
このうち燃料と燃料用電力の供給構成は以下のようになる。
燃料構成 (1000TOE) | 2008 | 2020 | 2030 | 2040 | 2050 |
---|---|---|---|---|---|
石炭 | 36,536 | 27,558 | 14,858 | 5,943 | 0 |
石油 | 166,939 | 104,159 | 48,874 | 19,550 | 0 |
ガス | 42,120 | 28,398 | 16,902 | 6,761 | 0 |
太陽熱 | 0 | 7,788 | 14,807 | 17,004 | 18,468 |
バイオマス | 2,395 | 20,315 | 39,270 | 46,665 | 51,594 |
燃料代替電力 (ヒートポンプ) |
0 | 106 | 321 | 1,407 | 2,131 |
燃料用水素 | 0 | 79 | 3,595 | 8,598 | 11,934 |
運輸用電力 | 1,472 | 3,900 | 5,217 | 6,095 | |
運輸用水素 | 0 | 528 | 4,515 | 6,148 | 7,237 |
車上太陽光 | 0 | 1,345 | 3,132 | 3,481 | 3,714 |
合計 | 247,989 | 191,748 | 150,173 | 120,773 | 101,173 |
次に「燃料用電力」を含む電力の供給構成を示す。純粋電力だけであれば、2050年にむけて減少してゆくが、「燃料用電力」を含めると、燃料の一部を太陽光と風力で発電した電力でまかなうために、電力が増加する。
電力構成(TWh) | 2008 | 2020 | 2030 | 2040 | 2050 |
---|---|---|---|---|---|
石炭 | 322 | 220 | 140 | 56 | 0 |
石油 | 107 | 85 | 70 | 28 | 0 |
ガス | 233 | 190 | 110 | 44 | 0 |
水力 | 83 | 90 | 97 | 105 | 111 |
原子力 | 258 | 89 | 23 | 0 | 0 |
地熱 | 3 | 24 | 45 | 70 | 87 |
バイオマス | 15 | 23 | 32 | 42 | 49 |
太陽光 | 2 | 68 | 151 | 219 | 253 |
風力 | 3 | 34 | 76 | 109 | 127 |
純粋電力への供給計 | 1,006 | 824 | 744 | 674 | 627 |
- 太陽光(燃料むけ) | 0 | 20 | 128 | 214 | 270 |
- 風力(燃料むけ) | 0 | 10 | 64 | 107 | 135 |
燃料用を含む電力合計 | 1,006 | 854 | 937 | 994 | 1,033 |
図3-3に示すように、2020年までは、効率向上により電力需要は低下するが、それ以降には、化石燃料代替のための燃料用の水素生産が始まるので、追加的に太陽光と風力の発電量が必要になり、結果として、電力供給全体は2050年に、2008年の水準と同程度になることがわかる。
太陽光発電と風力発電の導入率について多くの条件でのシミュレーションを試みた。その結果、太陽光発電量と風力発電量の相対的な割合は、おおよそ太陽光:風力=2:1程度にするのが望ましいという結果を得ている。これは日本における太陽光+風力発電の発電量に対する電力需要の1年間の変動の特性から来ている。(15)
原子力発電は、安全性、廃棄物の処理、核拡散に関して根源的な問題があり、長期的には核燃料の枯渇の問題もあるため持続可能なエネルギー供給源ではない。WWFシナリオでは、2020年に1561万kW、2030年に404万kW、2040年以後はゼロにするものとした。設備利用率は65%として発電量を求めている。詳細は、参考資料3を参照。
表3-3には、各電力供給源の2008年から2050年までの設備容量と設備利用率から、発電量をもとめて示している。太陽光発電と風力発電の発電量は、2:1に設定して計算を行っている。図3-3には、そのグラフを示している。
参考までに純粋電力のみの場合には、図3-4のようになる。この場合には、図3-3の上部にある、風力(燃料むけ)と太陽光(燃料むけ)の2者を除いたものを示している。
両者の違いは、発電した電力の余剰分を燃料製造用に使用することであり、図3-3の場合には、そのために太陽光発電と風力発電の変動余剰分を利用している。
供給源 | 2008 | 2020 | 2030 | 2040 | 2050 |
---|---|---|---|---|---|
石炭 | 64,228 | 46,478 | 26,898 | 10,759 | 0 |
石油 | 176,141 | 111,469 | 54,894 | 21,958 | 0 |
ガス | 62,158 | 44,738 | 26,362 | 10,545 | 0 |
水力 | 7,138 | 7,740 | 8,342 | 9,064 | 9,546 |
原子力 | 22,188 | 7,654 | 1,978 | 0 | 0 |
地熱 | 284 | 2,076 | 3,878 | 6,040 | 7,482 |
太陽光 | 189 | 7,584 | 24,076 | 37,189 | 45,052 |
風力 | 275 | 3,792 | 12,038 | 18,595 | 22,526 |
バイオマス | 3,645 | 22,307 | 42,004 | 50,290 | 55,813 |
太陽熱 | 0 | 7,788 | 14,807 | 17,004 | 18,468 |
車上太陽熱 | 0 | 1,345 | 3,132 | 3,481 | 3,714 |
合計 | 336,245 | 262,971 | 218,409 | 184,925 | 162,602 |
全体のエネルギー供給構成は、表3-4、図3-5のように変化してゆく。
全供給量は、2008年の3億3624万TOEから、2050年の1億6260万TOEまで、おおよそ48.4%に低下してゆく。
原子力が2040年までにゼロになり、石炭、石油、ガスの化石燃料が2050年までにゼロに減少してゆくのに代わって、水力がすこし増加し、地熱、太陽光発電、風力発電、バイオマス、太陽熱、車上太陽光が急速に増加してゆく様子がわかる。
2050年には、バイオマスが5581万TOE、太陽熱が1847万TOE利用される。
脱炭素社会に向けたエネルギーシナリオ提案 <第二部 100% 自然エネルギー>
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第1章 | 自然エネルギー |
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1.1 太陽光発電 1.2 風力発電 1.3 水力発電 1.4 地熱発電 1.5 太陽熱 1.6 バイオマス 1.7 水素/電力 1.8 自然エネルギーによる発電の最大規模 |
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第2章 | WWFシナリオのエネルギーの需要と供給 |
2.1 産業部門 2.2 家庭部門 2.3 業務部門 2.4 運輸部門 |
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第3章 | WWFシナリオのエネルギー供給構成 |
第4章 | 2050年の電力供給 |
4.1 気象データ 4.2 電力需要の月別・時刻別パターン 4.3 太陽光発電と風力発電の規模 4.4 電力貯蔵システム 4.5 電力のダイナミック・シミュレーション |
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第5章 | CO2排出量 |
参考文献 | 参考文献 一覧(PDF) |
参考資料 | 1)鉄鋼産業のエネルギー需要 2)地熱発電のポテンシャルに対する考え方 3)原子力発電の想定 4)太陽光発電と学習曲線 5)バイオマスの扱いについて 6)ダイナミック・シミュレーションの方法 7)電力貯蔵システムとバックアップ電力 8)自動車技術 9)燃料需要の詳細と供給構成 |
- ※単位について
1000TOE=1000トン石油換算、MTOE=百万トン石油換算、1TOE=11,630kWh
本報告では最終用途エネルギーに注目して1次エネルギーは扱っていない。
ただし、自然エネルギーからの電力を燃料に転換するときに生じる損失は供給構成に含めている。