【第2部:100% 自然エネルギー編】 第4章 2050年の電力供給


脱炭素社会に向けた
エネルギーシナリオ提案

第4章 2050年の電力供給

日本のエネルギーの多くを自然ネルギー源(太陽、風力、水力、バイオマス、地熱)から供給する場合に、1年間の発電量は、第3章に示すように計算することができる。

ただし、太陽光発電や風力発電からの必要な発電量(kWh)はわかっても、実際にどれだけの容量(kW)の設備を準備すればよいのかは、気象データによる分析を必要とする。

さらに、太陽光発電や風力発電は時々刻々変動する供給源であり、需要との関係から、過不足や貯蔵の必要性の問題が生じると予想される。

これらの問題を検討するには、ダイナミックな分析が必要であり、日本の国内電力を自然エネルギーで供給するときの、短い時間間隔ごとの需要と供給の変動から生じるバックアップ電力、電力貯蔵、余剰電力の関係を分析することが重要である。

ここでは、自然エネルギーの供給量がもっとも大きくなる2050年の電力供給を行う場合を例にとって、以上の問題を検討する。

日本の全国各地の気象データをベースとして、電力供給ダイナミック・シミュレータを用いて1年間のシミュレーションを行った。以下にその概要を示す。

4.1 気象データ

日本の1時間ごとの気象データとして、日本建築学会の拡張アメダス気象データの標準EA気象データ2000年版を使用した。これは1990~2000年における代表的な気象を再現したデータであり、北海道から沖縄まで、日本全国842地点の日射データと風速データが利用可能である。この842地点を、10電力会社の地域により区分して利用した。(3)

4.2 電力需要の月別・時刻別パターン

現状の一般電気事業者10電力会社の1ケ月ごとの電力需要(2008年)を表4-1と図4-1 に示す。(4)これを基礎にして、将来の電力需要を検討した。

表4-1 日本の10地域の電力需要量(2008年、GWh)
北海道東北関東中部北陸関西中国四国九州沖縄合計
1 3,362 7,945 27,491 11,794 2,788 13,830 5,715 2,871 8,292 624 84,714
2 3,094 7,101 24,598 10,262 2,413 12,131 4,924 2,486 6,951 556 74,516
3 3,129 7,384 25,632 10,843 2,475 12,655 5,079 2,518 7,305 613 77.633
4 2,786 7,161 24,322 11,206 2,491 12,099 5,257 2,460 7,054 592 75,429
5 2,735 7,064 24,470 11,270 2,408 12,339 5,242 2,465 7,196 679 75,868
6 2,698 7,096 24,924 11,697 2,454 12,837 5,397 2,542 7,476 799 77,920
7 2,914 7,919 30,070 14,039 2,961 15,957 6,599 3,170 9,585 914 94,128
8 2,889 7,730 29,421 13,266 2,834 15,314 6,386 3,088 9,120 888 90,938
9 2,860 7,314 26,840 12,357 2,623 13,564 5,793 2,707 8,143 825 83,026
10 2,918 7,259 24,848 11,545 2,256 12,534 5,338 2,503 7,388 768 77,627
11 3,027 7,360 24,794 11,205 2,575 12,404 5,364 2,519 7,341 639 77,228
12 3,377 7,800 26,753 11,738 2,699 13,426 5,721 2,782 8,066 620 82,982
合計 35,790 89,133 314,164 141,221 31,248 159,090 66,816 32,111 93,918 8,515 972,008

10電力会社のうち、沖縄電力はほかの電力網と接続されていない。残りの9電力会社は互いに電力融通可能な送電ルートを持っているが、現状ではその規模は小さい。ここでは10電力の送電網をひとつの送電網と考えて、電力の融通が可能になるものと想定した。

1日24時間の1時間ごとの電力の需要変化として図4-1に示すようなパターンを推定した。電力需要は深夜から早朝に低下し、その後、朝から午後にかけて増大し、午後2時から4時ごろに最大になり、夜間に向けて減少してゆく。図4-1には電力需要について最大値を100%とする指数で表現し、毎月の電力需要にもとづいて1時間ごとの需要を配分した。

図4-1 1日の電力需要パターンgraf4-1.jpg

4.3 太陽光発電と風力発電の規模

太陽光発電と風力発電の規模を設定するには以下の方法をとった。ここで2050年の年間電力需要は、第3章で求めたように、627TWhとなるものとしている。

太陽光発電については、ユニットとして定格出力1kWの太陽電池パネルを各サイトで年間最大発電量になるように設置した。すなわち、南向き、傾斜角を「緯度-5」度に設定し、1時間ごとの水平面日射データを直達光と散乱光に分離し、設定した傾斜面に対する日射量をもとめ、1年間の発電量を計算して保存した。

太陽光については、842地点について10地域のそれぞれの年間電力需要に比例した電力を供給するように地域ごとにユニット数を計算した。

風力発電については、各サイトにユニットとして出力2000kW、直径80m、プロペラ中心高さ(ハブ高さ)65mの風車を設置した。カットイン風速(利用開始風速)3m/s、カットアウト風速25m/s(運転停止風速)として、842地点の風速データを用いて、1/4乗法則によりハブ高さの風速を計算し、効率40%で1時間ごとの発電量を計算して保存した。風力発電の年間設備利用率が18%以下の地点は除外して、90サイトを有効とした。風力のサイトには離島が含まれているが、洋上風力の開発が進展しているので、そのまま使用している。

風力発電については、第1章に示した風力発電のポテンシャル調査により、表1-1に示すように10地域の潜在的な建設可能規模が調査されている。この表の陸上のポテンシャル値の相対値を各地域の建設可能規模の配分比とみなして、必要な風力発電のユニット数を地域ごとに計算した。この結果をみると、表4-2のようになり、北海道や東北地方における風力発電の規模が大きくなっている。

本シナリオでは、日本全国がひとつの送電網に統一されて、各地域で生産された電力が自由に国内の他の地域に供給されるものと想定した。このため、送電網についての見直しが必要になる。

以下では、太陽光と風力の比を2:1として規模の設定を行っている。表4-2には、電力需要に対して太陽光の導入率40%、風力の導入率20%の場合の供給容量の計算結果を示している。
太陽光発電の設備利用率は、全国平均で12.6%、風力発電の設備利用率は全国平均で27.55%になっている。

 

太陽光と風力の発電容量と設備利用率(太陽40%、風力20%のとき)
地域   太陽光発電風力発電電力需要
(GWh)
太陽光+
風力の
割合
(%)
発電量
(GWh)
容量
(MW)
設備利
用率(%)
発電量
(GWh)
容量
(MW)
設備利
用率(%)
1 北海道 9,584 9,235 11.00 23,310 61,971 30.35 23,088 308.41
2 東北 23,811 23,000 11.03 14,611 32,159 25.13 57,500 95.93
3 関東 70,453 81,067 13.14 709 1,820 29.31 202,667 40.90
4 中部 31,388 36,441 13.25 889 2,130 27.35 91,103 42.34
5 北陸 8,294 8,063 11.10 2,127 3,520 18.89 20,158 57.46
6 関西 37,854 41,052 12.38 2,872 5,712 22.70 102,629 45.57
7 中国 15,855 17,241 12.41 2,147 4,091 21.76 43,103 49.49
8 四国 6,964 8,286 13.58 569 2,174 43.64 20,715 50.50
9 九州 21,037 24,235 13.15 3,798 9,290 27.92 60,586 55.33
10 沖縄 1,928 2,197 13.01 930 2,542 31.21 5,493 86.27
11電力計 227,169 250,817 12.60 51,962 125,408 27.55 627,042 60.00

表の右端には、各地域の電力需要に対する太陽光と風力の発電量の割合を示している。北海道は300%以上であり、東北は95%、沖縄は86%になっているが、他の地域は40~60%付近にある。

太陽光発電と風力発電の変動をみるために、1日の24時間についての時刻別と月別の発電量を検討した。図4-2には時刻発電量を示す。図4-3には月別発電量を示す。

太陽光の発電量は、春から夏にかけて増大してゆき、冬には小さくなる。時刻別にみると、当然であるが、朝から正午にかけて増大し、午後には減少してゆく。

風力の発電量は1日24時間の時間別にはほとんど違いがないが、図4-3に示すように、月別をみると夏季に小さく、冬季には大きくなっている。太陽光と風力は互いに相補的な関係にあることが理解できる。

図4-2) 太陽光(40%)と風力(20%)の時刻別発電量(TWh)
graf4-2.jpg

 

graftitle4_3.jpg

 graf4-3.jpg

4.4 電力貯蔵システム

すでに国内には電力貯蔵装置として、揚水発電が2513万kWあり、原子力発電の出力一定運転に対応するために、夜間に電力を貯蔵して昼間に放出することが行われている。これを自然エネルギーによる電力の変動を吸収する手段として利用する。

揚水発電の損失は貯蔵電力の30%になっている。揚水発電の貯蔵能力を、2513万kW × 4.5時間=113GWhと推定した。

発電量が需要を上回るとき、揚水発電への充電だけでは不足ならバッテリーへの貯蔵を 行う。バッテリーの充放電効率は90%と想定し、10kWhの貯蔵量に対して2kWのインバータを装備する。バッテリーの容量はシミュレータによって変化させて検討した。

電力貯蔵システムの容量が小さいと、自然エネルギーによる発電が不足のときにはバッ クアップ電力が必要になる。また、貯蔵容量が小さいと、余剰電力が増大する。しかし、 貯蔵容量をどこまで増やすのが適切かは、現実的な検討が必要である。

4.5 電力のダイナミック・シミュレーション

拡張アメダス標準EA気象データ2000年版より1時間ごとの日射データと風速データを 得て、1時間ごとの発電と電力供給のシミュレーションを行った。(15)

図4-4に示すのは、例として、5月23日~5月25日という3日間の1時間ごとのシミュレーションの詳細である。

図4-4 3日間の供給エネルギー構成の例(MWh) graf4-4.jpg

地熱とバイオマス発電が一定の電力を供給し、水力は太陽光が減少する夕方にピークが生じるように供給する。太陽光と風力はできる限り需要に対応し、過剰の時には揚水発電またはバッテリーに充電し、不足のときはそこから放電する。供給が不足するときにはバックアップ電力を使用している。ただし図中にはバッテリーへの充電量は示していない。

シミュレーションとしては、①純粋な電力需要に対して供給するケースと、②水素など 燃料分にも電力を供給するケースについて示す。

本シナリオを実現する発電システムとしては、ケース②が必要である。ケース①はその場合の純粋電力需要のみの供給を行う場合の発電システムを理解するために示すものである。その結果は、表4-3のようになった。

いずれも年間電力需要(純粋電力分のみ)は、第3章の表3-3に算出したように627TWhであり、以下では、他の変数の大きさをこれに対する割合(%)で表現している。

  • ケース①:純粋電力需要のみを対象とするケース

627TWhの純粋電力需要に対して太陽光40%、風力20%とすれば、ほぼ適当な発電量にすることができる。

結果をみると、年間電力需要627TWh、平均電力7158万kW、太陽光発電2億2717万kW、 風力発電5196万kW、揚水発電に加えてバッテリー300GWhを使用している。

発電量合計は661TWh、電力需要の105%あり、バックアップ電力が5.99%、余剰電力が3.61%発生している(%は年間電力需要に対する割合を示す)。最大バックアップ電力は4078万kWになっている。バッテリー容量を300GWhに増やしたときも、バックアップ電力が必要になることを示している。

バックアップの稼働率は低いが、その容量はかなり大きい。バックアップ電力を小さくする制御方法が重要であることがわかる。そのひとつの方法は、以下のケース②のように水素など燃料生産用に余剰電力を増大する方法である。

表4-3 シミュレーションのまとめ
項目単位ケース1ケース2
太陽光発電容量 MW 227,169 477,054
風力発電容量 MW 51,962 109,119
揚水発電/バッテリー容量 GWh 113/300 113/300
年間電力需要 GWh/年 627,042 627,042
年間平均電力 MW 71,580 71,580
ピーク電力需要 MW 109,982 109,982
・ 発電量合計 GWh/年 661,039 1,037,357
 太陽光発電量 GWh/年 250,817 526,715
 風力発電量 GWh/年 125,408 263,358
 水力発電量 GWh/年 111,214 111,214
  地熱発電量 GWh/年 87,014 87,014
  バイオマス発電量 GWh/年 49,056 49,056
 バックアップ発電量 GWh/年 37,530 0
・ 発電シェア合計 105.42 165.44
 太陽光発電シェア 40 84
 風力発電シェア 20 42
  水力発電シェア 17.74 17.74
  地熱発電シェア 13.88 13.88
 バイオマス発電シェア 7.82 7.82
  バックアップ発電シェア 5.99 0
 バックアップ発電最大出力 MW 40,783 0
・ BAT充電量 GWh/年 28,942 13,907
 BAT放電量 GWh/年 27,421 13,102
 BAT損失 GWh/年 2,894 1,387
  BAT損失/電力需要 0.46 0.22
 最大BAT充電レベル 100 100
 平均BAT充電レベル 42.79 96.1
・ 揚水発電充電量 GWh/年 36,183 23,136
 揚水発電放電量 GWh/年 27,834 17,753
 揚水発電損失 GWh/年 8,350 5,326
 揚水発電損失/電力需要 1.33 0.85
 最大揚水充電レベル 100 100
  平均揚水充電レベル 32.35 77.91
・ 余剰電力量 GWh/年 22,605 403,398
 余剰電力量/電力需要 3.61 64.33
  • ケース②:燃料生産を含む電力を供給するケース

燃料生産を含む電力需要は、第3章の表3-3に示したように1037TWhの発電量が必要になる。これは、純粋電力需要に対して太陽光84%、風力42%とした場合に相当する。
結果をみると、年間電力需要627TWh、平均電力7158万kW、太陽光発電4億7705万kW、風力発電1億912万kW、揚水発電に加えてバッテリー300GWhを使用している。

発電量合計は1037TWh、純粋電力需要の165%あり、バックアップ電力はゼロであるが、余剰電力が64%発生している。(%は年間電力需要に対する割合を示す) 純粋電力のみのケースと比較すると、燃料用電力需要は406TWhだけ大きくなっている。

 この余剰電力が、サプライ・ドリブン電力として、燃料用電力を供給する。このケースでは、余剰電力が大きくなっており、バッテリー容量を300GWhとするとき、バックアップ電力をゼロにすることができる。(参考資料7)

ケース②の条件で、2050年のエネルギー供給を行うことにより、電力と燃料の双方を自然エネルギーから供給することができる。もちろん、すでに述べたように、燃料に対しては、このほかに太陽熱、バイオマスからの供給を行う。

 

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目次

脱炭素社会に向けたエネルギーシナリオ提案 <第二部 100% 自然エネルギー>
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第1章 自然エネルギー
1.1 太陽光発電
1.2 風力発電
1.3 水力発電
1.4 地熱発電
1.5 太陽熱
1.6 バイオマス
1.7 水素/電力
1.8 自然エネルギーによる発電の最大規模
第2章 WWFシナリオのエネルギーの需要と供給
2.1 産業部門
2.2 家庭部門
2.3 業務部門
2.4 運輸部門
第3章 WWFシナリオのエネルギー供給構成
第4章 2050年の電力供給
4.1 気象データ
4.2 電力需要の月別・時刻別パターン
4.3 太陽光発電と風力発電の規模
4.4 電力貯蔵システム
4.5 電力のダイナミック・シミュレーション
第5章 CO2排出量
参考文献 参考文献 一覧(PDF)
参考資料 1)鉄鋼産業のエネルギー需要
2)地熱発電のポテンシャルに対する考え方
3)原子力発電の想定
4)太陽光発電と学習曲線
5)バイオマスの扱いについて
6)ダイナミック・シミュレーションの方法
7)電力貯蔵システムとバックアップ電力
8)自動車技術
9)燃料需要の詳細と供給構成
  • ※単位について
    1000TOE=1000トン石油換算、MTOE=百万トン石油換算、1TOE=11,630kWh
    本報告では最終用途エネルギーに注目して1次エネルギーは扱っていない。
    ただし、自然エネルギーからの電力を燃料に転換するときに生じる損失は供給構成に含めている。

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