ウナギの持続可能な利用にむけて 報告書『ウナギの市場の動態:東アジアにおける生産・取引・消費の分析』発表
2015/07/13
野生生物の国際取引をモニタリングしているトラフィック(TRAFFIC)は、東アジアにおけるウナギの生産・取引・消費の動態の変化を探るための調査を実施し、このたび報告書を発表した。トラフィックと、資源の持続可能な利用の促進に取り組む国際環境保全団体WWF(世界自然保護基金)は、ウナギの合法で持続可能な利用の実現のためには、日本を含む東アジア各国・地域のすべてのウナギの利害関係者が保全・管理の取り組みに協同・協力していくことが不可欠であると考える。
本報告書の作成にあたって、トラフィックは、漁獲・養殖生産量、東アジアの国・地域の税関の取引データ、利害関係者への聞き取り、オンライン・実地の市場調査の結果などを用いて分析をおこなった。その結果、過去数十年の間に、東アジアでのウナギ属Anguilla spp.のウナギの生産動態が変化しており、結果として取引、消費パターンにも影響を与えていることが明らかになった。
日本のウナギ消費は2000年に約16万トンでピークとなったが、その後、年間消費量は減少し続けており、2013年の消費量は3万5千トン弱と、2000年の約8割減となっている。一方、FAOのデータによると、世界のウナギ生産量は増加・安定しているため、世界のウナギ生産量に対する日本の消費割合は大きく低下し、代わりに中国が一大消費国になったように見受けられる。しかし、2014年に、日本、中国、韓国、台湾が「ニホンウナギその他の関連するうなぎ類の保存及び管理に関する共同声明」を発出した際に公表された生産量(特に中国と韓国)の数値は、FAOの値と大幅に異なっているうえ、データに不備があるため、正確な世界生産量・消費量も、新たな消費市場の有無についても、結論付けるのが困難となっている。
中国語、韓国語によるオンライン市場調査と北京での市場調査では、ウナギが中国・韓国で販売、消費されていることが確認されたが、現時点では、日本ほど消費量が多いとは考えにくいことが示唆された。その一方で、今回の調査により、主な養殖地域である東アジア以外の国でもウナギの消費が広がっている可能性が示された。中国税関のデータによると、ウナギ調製品の中国からの輸出量は、2004年には日本向けが87%を占めていたが、2014年には50%まで減少し、逆に輸出相手国数は18から41に増加した。主な輸出先はロシアなどが挙げられる(これらにはアナゴも含まれる可能性がある)。日本食料理店の海外展開とともに、ウナギ消費も世界各地に広がりつつあると推測される。
中国のウナギ調製品の輸出量の推移 (2004年-2014年,単位:トン)
中国のウナギ生産量のデータには不確実な部分が多くあり、依然として、ヨーロッパウナギ(2009年からワシントン条約で国際取引が規制され、2010年12月以降EUからの輸出は禁止されている)の稚魚の違法取引の可能性も指摘されている。一方、日本の養殖場に池入れされるウナギの稚魚の5割以上が違法漁獲によるもの、あるいは、闇市場を通じて取引されたものであると言われており、日本で養殖され、国産として販売されるウナギの合法性についても疑問が残る。日本は、ウナギの一大消費国として、他国から輸入されるウナギだけでなく、日本で養殖されるウナギの合法性やトレーサビリティの確保に取り組んでいくことが必要となる。
今回の調査では、生産量や取引量データの数々の相違・不明点が明らかとなった。トラフィック・WWFは、ウナギの保全・管理を進めていくためには、違法漁業、違法取引への対処に加え、稚魚の採捕、ウナギの生産、取引、消費に関する事実関係の把握が必須であると考える。
【提言内容】
データ収集、モニタリング、報告、分析について
- 東アジアでのデータ収集・生産量の推定方法の標準化・共有、養殖場の定期的なモニタリング・視察の実施、ウナギに関する税関HSコードの調整、さらなる調査の実施 など
法整備と法執行について
- リスク・情報分析の実施、種の識別などに関するトレーニングの実施、東アジア以外のウナギの生息国との知見・情報の共有、取引データやワシントン条約の許可データの不一致の定期的な調査・分析、輸入業者の意識向上にむけた取り組み など
利害関係者とのさらなる協議、協同、研究について
- データの共同分析、協同した意思決定、トレーサビリティ制度の開発、ロシアのような新興市場との対話・調査の実施、国際機関への働きかけ、小売業者・外食産業・消費者の意識向上にむけた取り組み など