© Pekka Tuuri / WWF

2023年版レッドリスト発表 絶滅危惧種におよぶ気候変動の脅威が明確に

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2023年12月11日、IUCN(国際自然保護連合)は、アラブ首長国連邦のドバイで開催されている国連の気候変動会議COP28で、絶滅のおそれのある野生生物のリスト「レッドリスト」の最新版を発表。世界の絶滅危機種が44,016種に上ったことを明らかにしました。今回のレッドリストでは、特に淡水魚をはじめとする多くの野生生物が、気候変動の深刻な影響を被っている現状について、警鐘を鳴らすものとなりました。
目次

最新版のIUCNレッドリスト公開 4万4,000種が絶滅の危機に

2023年12月11日、IUCN(国際自然保護連合)は、アラブ首長国連邦のドバイで開催されている国連の気候変動会議COP28で、絶滅のおそれのある世界の野生生物のリスト「レッドリスト」の最新版を発表しました。

15万7,190種を評価した、この最新版のリストによれば、「絶滅の危機が高い」とされる世界の野生生物の種数は4万4,016種。これは前回約1年前の発表時と比較して、約2,000種の増加となります。

IUCNレッドリストが示す世界の絶滅危機種の内訳
危機のレベルを示すカテゴリー  掲載種数 
CR 近絶滅種(絶滅危惧ⅠA類) 
絶滅寸前の危機にある種 
9,760種 
EN 絶滅危惧種(絶滅危惧ⅠB類) 
絶滅のおそれがきわめて高い種 
17,344種
VU  危急種((絶滅危惧Ⅱ類) 
絶滅のおそれが高い種 
16,912種 
絶滅危機種 合計  44.016種 

出典:IUCNレッドリストを基に作成

今回のレッドリストの発表は、気候変動(地球温暖化)の甚大な影響が世界の野生生物に及んでいることを、明確に指摘するものとなりました。

とりわけ淡水魚や両生類、さらに熱帯の樹種など、その影響を強く受けていると指摘される生物群の危機が、確実に高まっている現状について、警鐘を鳴らしています。

絶滅危機種4万4,016種のうち、気候変動の影響を受けているとされる種の数は、実に6,754種。

これは、気候変動が今や、生息環境の破壊や外来生物、乱獲などと並ぶ、野生生物を絶滅に追い込む極めて大きな脅威となり、地球の生物多様性に深刻な影響を及ぼす要因となっている現状を示すものです。

何より、毎年行なわれている「レッドリスト」最新版の発表が、国連の気候変動会議で行なわれたのは、今回が初めてのこと。

気候変動と生物多様性の危機が、いかに深く関係し、国際的に重要な課題となっているか。COP28が発表の場に選ばれたこと自体が、その危機感を物語っているといえるでしょう。

© André Bärtschi / WWF

中南米に生育する樹種で、木材として国際的にも盛んに商業取引されているオオバマホガニー(Swietenia Macrophylla)。今回のレッドリストで、VU(危急種)からEN(絶滅危惧種)に危機レベルが一つ上がりました。木材需要による過剰な利用や違法伐採、開発による森林破壊によって、過去180年間で少なくとも60%減少したことが明らかになっています。 さらに、今後の気候変動により、現在の分布域の一部で環境が変化し、生育できなくなると予測されています。

深刻化する気候変動の影響

淡水魚の危機が深刻化

新しいレッドリストにおいて、特に絶滅危機が高っていると評価されたグループの一つに、淡水魚が挙げられます。

今回のレッドリストの更新では、世界全体での淡水魚種の初の包括的な評価が行なわれました。

その結果、評価された1万4,898種のうち3,086種が絶滅の危機にあり、そのうちの少なくとも17%が、気候変動の影響を受けていることが指摘されました。

気候変動の影響とは、具体的には、干ばつなどによる水位の低下、海面上昇による河川やその流域への海水の侵入、また、毎年季節ごとに発生してきた自然な水位変動の変化などです。

こうした生息環境への大規模な影響に加え、汚染(57%)、ダム開発や水資源の利用(45%)、外来生物や感染症(33%)、そして過剰な漁獲(25%)などが、複合的に加わることで、淡水魚の危機が世界的に高まっていることが明らかになりました。

© Martin Harvey / WWF

アフリカ東部ケニアのトゥルカナ湖。今回のレッドリストでは、 VU(危急種)に選定され、この湖に固有の淡水魚(Brycinus ferox)をはじめ、多くの淡水魚類の危機が明らかになりました。これらの魚種は、地域の漁業資源として、経済的にも重要な魚ですが、過剰な漁業や気候変動による生息環境の悪化、ダム開発による湖への淡水の供給量の減少により、絶滅の危機が高まっています。

淡水魚は、世界で確認されている魚類の半分以上を占めていますが、その生息環境である川や湖といった水域は、地表の1%を占めるにすぎません。

また、その生息環境である淡水の生態系は、健全な水をはぐくむ重要な母体であり、淡水魚の漁業で生計を立てている数百万人の人々はもちろん、その流域で暮らす数十億人の生活を支える上で、欠かすことのできないものです。

これが脅かされている実情は、世界の生物多様性と、食料安全保障や人の暮らし、経済活動を維持し、回復させていく上で、気候変動をはじめとする「水」をめぐる問題が、いかに深刻であるかを物語っています。

© Wild Wonders of Europe / Magnus Lundgren / WWF

アトランティック・サーモンとして利用され、養殖もされているタイセイヨウサケ(Salmo salar)。今回のリストで低危険種(LC)から準絶滅危惧種(NT)に選定されました。絶滅の危機がまだ高いわけではありませんが、2006年から2020年までに世界の個体数が23%減少したこと、遡上する河川流域の分断などにより生息環境が広く失われたこと、幼魚の発育から食物の減少、外来生物の侵入や寄生虫の増加を招く気候変動の影響を受けていることなど、水をめぐるさまざまな脅威が指摘されています。

気候変動をくいとめ、生物多様性を回復させていくために

今回のレッドリストの発表にあたり、IUCNの種の保存委員会の委員長を務める、ジョン・ポール・ロドリゲス博士は「気候変動と生物多様性の危機は、同じコインの裏表のようなものです」と述べています。

気候変動が、世界の野生動植物を絶滅の危機に追いやる明らかな原因の1つである一方、こうした森林などの生態系や、それが持つ回復と再生の力は、大気中の温室効果ガスを蓄積し、気候変動の深刻化を食い止める、大きな要素でもあるためです。

その意味で、「パリ協定」が掲げる1.5度目標の達成は、生物多様性保全においても重要な課題であり、同時に世界の野生生物の保全は、気候変動対策としても重要な手段である、といえます。

気候変動の影響によって、乱獲などが原因で一度減少し、保護活動によって回復した野生生物が再度、減少の途をたどったり、これまで身近で当たり前に存在していた生きものたちが、新たに絶滅危機種のリストに加わっていく事態は、気温の上昇が止まっていない現状、今後も間違いなく続くことになります。

気候変動を食い止め、生物多様性の回復「ネイチャー・ポジティブ」を実現するために、世界は協力し、この2つの大きな課題に同時に取り組んでいくことが必要とされています。

© Martin Harvey / WWF

今回のレッドリストで危機レベルの低下が認められ、野生絶滅(EW)から絶滅危惧種(EN)にランクが下がったシロオリックス。北アフリカのサハラ砂漠周辺に生息するアンテロープ(ウシ科)の一種で、1990年代に一度、野生の個体群が絶滅しました。原因は自動車を使った密猟と、10年ごとに生息地を襲った干ばつ。チャドで行なわれてきた、飼育個体を野生に復帰させる再導入計画などの保護施策が奏功し、現在は140頭の成獣が野生に定着しています。しかし、地域の貧困に起因した密猟の危機はまだ続いているほか、今後、生息地域をさらなる気候変動が襲った場合、再び深刻な打撃を受けるおそれがあります。

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