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農業と生きものを守る!海城中学高等学校とつくったSTEAM教材

この記事のポイント
WWFジャパンが地域の農業者や専門家の方々らと共に保全に取り組んでいる、九州・有明海沿岸の水田地帯を舞台にした、新しい環境教育教材「農業と生物多様性の保全を両立するには?」が、経済産業省のSTEAMライブラリーから公開されました。対象は中学生と高校生。制作には学校の先生方にも多大なご協力をいただきました。日本の水田の自然を守り、生きものの保全と農業を両立する上で役に立つ、新しい知恵と工夫を共有するツールとして活用を目指します。

STEAM教育教材「農業と生物多様性の保全を両立するには?」

2021年3月1日に、STEAM教育教材「農業と生物多様性の保全を両立するには?」が経済産業省から公開されました。

STEAMとは、Science(科学)、Technology(技術)、Engineering(工学)、Arts(人文社会・芸術・デザイン)、Mathematics(数学)の頭文字を取った言葉。

経済産業省では2018年に発表した「未来の教室」ビジョンのもと、2020年にこのSTEAMをテーマにした教材のライブラリーを、インターネット上に開設。「知る」と「創る」の循環的な学びを実現するとしてきました。

また、このSTEAMライブラリーは、生徒が一方的に学習をするだけでなく、教師や研究者、企業関係者などもかかわる形で、双方向的な学習を目指すものでもあります。

今回開発され、発表された、STEAM教育教材「農業と生物多様性の保全を両立するには?」も、経済産業省の事業の一環としてとりまとめられました。

WWFのプロジェクトから生まれた「教材」

この教材は、WWFジャパンが取り組んできた、「水田・水路の生物多様性と農業の共生プロジェクト」のつながりから誕生しました。

昔ながらの土の土手で作られた水田や水路は、メダカやタナゴ、ドジョウといった身近な魚たちの生息環境。

ですが、最近はコンクリートを使った改修が全国で進み、こうした魚たちも、絶滅が心配されるほどになっています。

しかし、農業を手掛ける側としては、整備や改修は、安全かつ効率的に農業を進める上で大切な工事。疎かにはできません。

「農業と生物多様性の保全」をどう両立するかは、現在の日本の自然保護の大きな課題なのです。

そこでWWFでは、この問題をさまざまな立場から捉え、それぞれの視点を共有して、一緒に考えてもらえる教材をつくろうと考えました。

絶滅危惧種のアリアケスジシマドジョウ。九州の水田地帯を代表する日本の固有種で、有明海に注ぐ河川にだけ生息します。©Nature works

絶滅危惧種のアリアケスジシマドジョウ。九州の水田地帯を代表する日本の固有種で、有明海に注ぐ河川にだけ生息します。©Nature works

WWFのプロジェクト・フィールドが「教材」に

一言で農業といっても、実際にそれを手掛ける農業者や、自然保護に取り組む市民団体、学生の皆さんなど、立場によって受け止め方や大事に考える点が異なります。

また、市役所や科学者も農業に深く関係されますが、担当部署や専門分野によって、やはり考え方が違う場合が多くあります。

つまり、こうした多様な考え方と、置かれたそれぞれの立場を相互に理解しながら、「農業と生物多様性の保全」をどう両立するか、を考えることが重要なのです。

そこで、今回の教材では、WWFジャパンが保全のフィールドとしている、九州有明海沿岸の豊かな水田地帯を舞台に、多くの方々にお話を伺い、そのさまざまな視点を盛り込んで制作することにしました。

制作をご一緒に手掛けて下さったのは、東京の私立海城中学高等学校の関口伸一先生です。

以前からWWFの水田保全プロジェクトにもご協力をいただいてきた関口先生は、今回WWFがいつもご協力をいただいている研究者や実際に農業をされている方、生きものを保全しながら米づくりを進めている佐賀市役所の関係者の方々などに、お話を聞いていただき、教材の作成をリードしてくださいました。

地元の農業者の方へのヒアリング。さまざまなお話を伺うことができました。
©WWFジャパン

地元の農業者の方へのヒアリング。さまざまなお話を伺うことができました。

新しい知恵と工夫を共有するツールとして

完成したこの教材では、農業と水田の生物多様性について、各分野の専門家による解説に加え、農業をめぐるさまざまな立場や難しさが、動画やワークシートで学べるようになっています。

その中で、どのような工夫をすれば、魚や貝、昆虫たちが生き延びられるかを考え、具体的なアイデアを出して、一緒に悩んでいただくことを、学びのかたちとして狙いました。

また、この教材は、九州北部の水田地帯を舞台していますが、収録したアイデアの中には、全国でも利用できるものもあります。

WWFジャパンとしても、これからの日本の水田の自然を守り、生きものの保全と農業を両立する上で役に立つ、新しい知恵と工夫を共有するツールとして、活用していきたいと考えています。

身近な日本の自然、水田の農業と生物多様性の現状を知りたい方。それをどうすれば守れるのか考えてみたい、という方は、ぜひ教材をダウンロードし、挑戦してみてください。

「正解」があるわけではない、農業と生物多様性保全の両立を目指す取り組みに、参加者がどう、自分なりの答えを見つけ出すのか。楽しみながら考えていただければ幸いです。

©WWFジャパン

教材「農業と生物多様性の保全を両立するには?」

教材の紹介ページはこちら(STEAMライブラリーのサイト)
https://www.steam-library.go.jp/content/46

*ダウンロードするにはSTEAMライブラリーへの会員登録が必要です

【制作】海城中学高等学校×WWFジャパン
【発表】2021年3月1日
【対象】中学生・高校生・大学生などの学生 など
【動画出演者】(敬称略・五十音順)
・秋沢淳雄(株式会社山田屋本店)
・宇根豊(農と自然の研究所代表 百姓)
・鬼倉徳雄(九州大学大学院生物資源環境科学府附属水産実験所(動物・海洋生物資源学講座アクアフィールド科学研究室))
・中島淳(福岡県保健環境研究所)
・中原正登(佐賀県立高志館高等学校)
・中村涼夏(大学生)
・並木崇(WWFジャパン)
・西慶喜(山都町教育委員会生涯学習課)
・西山穏(NNラントシャフト研究室)
・林博徳(九州大学大学院工学研究院環境社会部門(流域システム工学研究室))
・原口謙一郎(佐賀市役所東与賀支所総務・地域振興グループ)
・松浦麻子(WWFジャパン)
・溝口貴宏(佐賀市役所環境部環境政策課自然環境係)
・望月未希(東京都王子総合高等学校 芸術科教諭)

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