水田・水路で生きものを探そう!熊本でイベントを開催
2019/05/23
貴重な水田・水路の自然が残る玉名市
日本有数の水田地帯が広がる九州地方。
ここは現在、ニッポンバラタナゴやカワバタモロコ、ミナミメダカなどをはじめ、絶滅の危機にある日本産淡水魚が数多く分布する地域でもあります。
世界中で、この地域にしか生息していない魚も少なくありません。
これらの絶滅が心配される魚類の多くが生息するのは、水田やそれをつなぐ水路、またため池など。
しかしそうした環境が近年、水路をコンクリートで固める整備や開発などによって、九州各地でも失われ、魚たちも姿を消してきました。
その中で、まだ自然度の高い土堤の農業用水路や小川を残しつつ農業を進められている農業者の方々の努力により、魚が生き延びている地域があります。
そうした環境をとどめつつ農業が行なわれている貴重な場所の一つ、熊本県玉名市で、WWFジャパンは2019年4月13日、地元の子どもたちを対象とした、生きもの観察イベントを実施しました。
今回は、2018年11月に続く2回目の開催。いずれも、自然や農業の未来を担う玉名市の子どもたちに、地元の自然の価値と、それを保全する意味を考えてもらうことを目的に、実施したものです。
生きもの観察会in玉名
今回のイベントに参加してくれたのは、112名。その内、約半分が地元の小学生で、もう半分が地元の高校生や農業者、市役所、企業関係者、メディア、研究者の皆さんでした。
この日、講師を務めてくださったのは、淡水魚の専門家である九州大学農学研究院の鬼倉徳雄先生と、自然再生や河川工学の専門家で二枚貝に詳しい九州大学工学研究院の林博徳先生、そして研究室に所属する大学院生の皆さんです。
参加者の皆さんは、まず会場となった小学校でWWFのスタッフから水田・水路の自然の大切さと、それを守る取り組みについて説明を受けた後、水の流れがある近くの農業用水路へ。
ここは水深の深いコンクリートの水路でしたので、小学生は水路に入らず、大学院生が投網で魚を捕えるところを見学しました。
網にかかってきたのは、ドンコやドジョウ、ギンブナなどの淡水魚たち。身近な水路とはいえ、普段は間近に見る機会のない、その水の中に息づく魚たちの元気な姿に皆、目を見張りました。
その後、もう少し細く、底が泥や砂の浅い水路へみんなで移動。
林先生と一緒に農業用水路に入って網を使い、水面にせり出した植物の葉の下などにいる生きものを探す「ガサガサ体験」をしました。
そこでは泥や砂の中にすむ二枚貝を、5種も捕まえることが出来ました。
「あった、あった!」と二枚貝を捕えた子供たちから大きな声がアチコチから。
最初は「この貝とこの貝、どこが違うの?」と言っていた子供たちも、二枚貝の種類による違いを先生から真剣に聞いていました。
タナゴ類の婚姻色と二枚貝との不思議な関係
観察のあと、鬼倉先生と林先生から、それぞれ魚と貝についてお話をいただきました。
鬼倉先生がお話しくださったのは、まず、この玉名市には、世界で九州にだけ生息する固有種を含む、タナゴ類の魚が6種も生息していること。そして、その中には、絶滅のおそれのある種も含まれていることです。
先生は、「もともと九州に生息しているタナゴは6種なので、それが全て、今も生息していることは、とてもスゴイことだ」とお話しくださいました。
また、このタナゴが生きていくには、参加者の皆さんが捕まえた、水路の底にすむ二枚貝が必要であることも話していただきました。
タナゴ類は二枚貝の中に産卵管を差し込み、産卵する習性があります。これは二枚貝の栄養を横取りするような寄生ではなく、貝殻の中で安全に卵を育てるための手段。タナゴ類ならではの、面白い習性によるものです。
タナゴは、種類によって産卵する二枚貝の種類も使い分けているので、タナゴが6種いるということは、それだけ多様な二枚貝も生息しているということ。
これは、玉名市に豊かな自然が残っていることの証といえます。
二枚貝からみる玉名の自然
二枚貝に詳しい林先生のお話にも、参加者の皆さんは興味津々でした。
タナゴ類は今、日本全国で絶滅の危機に瀕していますが、その大きな原因の1つが、産卵に欠かせない、この二枚貝が減っているためだそう。
二枚貝は種によって、泥っぽいところ、砂っぽいところ、流速の早いところなど、それぞれ生息地の好みが異なります。
河川や水路に残るこうした環境のどれか一つでも、開発や整備で失われれば、そこだけで生きられる二枚貝がいなくなり、その貝に産卵するタナゴも姿を消してしまうのです。
今回のイベントでは、そんな二枚貝がちょっと網を使ってみただけで5種も捕れました。
林先生は「九州で500地点以上も二枚貝の調査をしたが、こんなところはありません」と、この玉名市の水田環境の貴重さを強調。「九州全体でみると国宝級ですね」との言葉に、参加者の皆さんからは驚きの声も聞かれました。
玉名の豊かな自然で大きくなってほしい
今、この九州の水田地帯はもちろんのこと、日本の各地で、水田や水路の生態系が危機にさらされ、淡水魚や二枚貝が減少し続けています。
里地や里山の一部でもある、こうした水田や水路の自然は、コメ作りのために人の手で形成される「二次的自然」。
つまり、これを守ってゆくためには、コメ作りという農業が欠かせないばかりでなく、同時に昔ながらの土でできた農業用水路や、水の管理が必要になる、ということです。
一方で、近年は農業者の高齢化などに伴い、機械化、集約化が進んで、水路も泥などがたまりにくく管理がしやすいコンクリートで作り直される例が増えてきました。
崩れやすく、管理の手間がかかる土のままの水路を維持していくのは、農家にとっても大きな負担。その中で、自然な環境を守りながら農業を継続していくことは、容易なことではありません。
農業が継続できなければ、水田や水路の自然を未来にのこすことはできず、管理しやすい整備を進め過ぎれば、生きものは姿を消してしまう、二次的自然の保全は常に、こうした難しさを抱えています。
生物多様性保全と農業、どちらかだけを優先するのではない、共に未来を目指していく新しい取り組みが今、必要とされています。
「是非この自然を愛して欲しいし、この自然で遊んで大人になってください」
「二枚貝などの生きものが100年後もすみ続けられるように、みんなで大事にしていけたらいいなと思っています」
鬼倉先生と林先生は最後に、子どもたちや地元の方々に向かい、そうお話しくださいました。
地元の自然を深く知り、世界的なその価値と、それを守ることの意味を伝えたこのイベント。
実施後には、「これは何とかしなければならん」という力強いメッセージが農業者や地元子ども会役員の皆さんの間からも聞かれました。
またイベントの際に実施したアンケート結果からも、地元の子ども、大人を問わず、「玉名の自然を大切にしたい」という強い意志がうかがわれました。
子供たちのアンケートの中からは、
「しぜんをだいじにしようとおもった」(原文ママ)
「自分の住んでいるこの玉名は特別なんだなと思った」(原文ママ)
「しらない生きものをみてびっくりした」(原文ママ)
「たいせつにしないとと思った」(原文ママ)
「ぜつめつきぐしゅを大人になってからもいるようにしぜんをのこしたいです。」(原文ママ)
「いろんなところの人に「玉名はこんなにしぜんがあるんだ」と言うほど今のしぜんのままにして守っていきたいです。」(原文ママ)
「みんなでのこっているものをすこしでもおおくのこしたいです!」(原文ママ)
といった意見がありました。
国内外を問わず、その地域の自然を守る時の主役となるのは、その地域に根差して暮らす地元の皆さんです。
今回のイベントはそうした方々と共に、WWFが目指そうとしている「農業と一緒に進める生きもの豊かな水田・水路」の保全に向けた、大事な一歩となる期待を感じさせる機会となりました。
WWFジャパンは引き続き、地域の行政や農業者、企業、そして学校関係者の方々と協力しながら、水田に生きる日本固有の希少な生きものの保全を進めていきます。
日時 | 2019/4/13 (土) |
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場所 | 熊本県 |
参加者数 | 112名 |
主催 | WWFジャパン |
後援 | 玉名市役所 |
協力 | 九州大学農学研究院鬼倉徳雄先生 九州大学工学研究院林博徳先生 |