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動物愛護法の問題と改正要望を呼びかける集会を開催

この記事のポイント
ウシやウマ、イヌやネコ、さらには鳥やトカゲなど、日本ではさまざまな生きものが、ペットとして、また畜産業を支える家畜として飼育されています。これらの生きものの取り扱いやその規制を定める法律が、「動物の愛護及び管理に関する法律(通称:動愛法)」です。現在、国会(第198回国会)では、この法律の改正に向けた検討が進められています。 動愛法の規制は、国内のみならず海外の野生動物やその生息地の保全に深くかかわるものです。このことからWWFジャパンでは、現在の動愛法で改善や追加すべき点をまとめた要望を、政府に対し提出。さらに、2019年3月14日には、国会の議員会館で議員向けの勉強会を開催しました。

ペットが引き起こす問題

日本でペットとして飼育されている、さまざまな動物たち。
その中には、日本人にもなじみのあるウサギやオウムなどの生きもののほか最近では、熱帯原産のトカゲやヘビそして昆虫に至るまで、世界各地を原産とした多くの生きものが含まれています。

ペットショップやインターネットの通販では現在、こうした生きものたちが大量に取引されています。日本の市場規模は2016年度の一年間で、約1兆5,000億円。さらに、毎年1%ずつ成長するとみられており、世界的にも非常に大規模な市場です。

しかし、売買の対象となる生きものは、人工的に繁殖させたものだけでなく、海外から持ち込まれた、野生動物も少なくありません。

このような、野生の個体の乱獲や取引が無秩序に続いた場合、その種が絶滅してしまう可能性もあります。

さらに、飼育や管理が十分にできず、ペットにしていた動物が野外に逃げ出したり、故意に放してしまう問題も各地でおこっています。

こうしたことは、日本で野生化した北米産の動物のアライグマやブラックバスのように、もともとあった自然や生きものを捕食したり、すみかを奪う、といった悪影響を及ぼす「外来生物」を、新たに生み出すことにつながります。

実際、都市部近郊では、逃げ出したペットや外来生物が、人や農作物、そして自然環境に影響を及ぼしています。

さらには、沖縄や西表島といった南西諸島や小笠原諸島など、国内の離島では、こうしたペットや外来生物が、世界でこれらの島々にしか生息していない、在来の貴重な固有種を脅かしています。

「飼育」と「取引」にかかわる動物愛護法の不備

こうしたペットをめぐる問題にかかわる法律の一つに、「動物の愛護及び管理に関する法律(通称:動愛法)」があります。

しかし、その内容は野生生物の保全という観点から見ると、十分なものになっていません。特に、大きな課題は、動物の「飼育」と「取引」についての取り決めの不備です。

【ポイント1】「動物の飼育」の在り方について

動物の飼育は、個人のペット愛好家や飼育者だけでなく、販売や流通に関わる事業者、また動物園などの施設業者など、さまざまな人々が手掛けています。

こうした関係者がおしなべて、自身のペットの飼育や管理の不十分さが、さまざまな問題につながること、そして自分が自然や野生生物に対する加害者となりうることを正しく理解しなくてはなりません。

しかし、飼育を行なう際の責任や、適正な在り方については、今のところ動愛法では十分に規定されていません。

【ポイント2】「動物の取引」の規制について

日本は世界でも有数のペット輸入大国。
取引され、日本に持ち込まれる動物の中には、カワウソ類やカメ、そしてヘビなど、ワシントン条約(CITES)で国際取引が規制されている、絶滅の危機にある種もたくさん含まれています。

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密輸事件が相次ぐコツメカワウソ

© David Lawson WWF UK

ペット人気の高いインドホシガメ 

しかし、そのような動物が高値で、しかも違法に取引される例は、日本でも後を絶ちません。中には、ある希少な動物が、生息国の300倍もの値段で日本において売られていた例もあります。

この背景には、ペット取引の制限や、取引業者の規制が、動愛法ではまだ不十分である現状があります。

たとえば、動物を輸入・販売する事業者には、今のところ行なった輸入が合法であるかどうかを証明する法的な義務がありません。その動物が、合法的に輸入されたものなのか、密輸されたものなのかを確認する手立てがないのです。

つまり、密輸された個体でも、こうした動物は、ひとたび日本国内に入ってしまえば「合法的な個体」として販売することが可能になってしまうのです。

動愛法の改正とWWFの要望

そうした中、動物愛護法の改正に向けた動きが始まっています。
国会で審議される法律の改正案づくりには、およそ60名の超党派の国会議員が関与。
2019年の通常国会で、改正が予定されています。

これを機に、WWFジャパンでは2019年2月21日、改正案の中で特に検討すべき10項目の課題と、その改善を求める意見書を提出しました。

さらに、2019年3月14日には、動愛法の改正案づくりを担当している国会議員のほか、多くの国会関係者にこれらの問題と改善要点を伝えるため、国会の衆議院議員会館で勉強会を開催。

専門家や研究者のほか、地域で対策活動を続けている市民団体の方も参加いただき、動愛法の不備が引き起こす問題について、それぞれの立場から説明していただきました。

またWWFジャパンはこの勉強会の場で、国会議員に対し、要請書を手渡しました。
その主な内容は次の通りです。

  • 動愛法の改正案には、人間の生活環境の保全に加えて、自然環境の保全も法律の目標として明記すること
  • 飼育する生き物の行動圏を抑制しない放し飼いなど、自由に行動できる状態を厳しく規制し、その遵守を義務化すること
  • 飼育する生き物について、マイクロチップの装着が可能なものに対しては、装着を義務づけること。またその所有者情報を、全国ペット戸籍制度として、公的な機関がデータベース化するとともに、それを全国から参照できるシステムを構築すること、
  • 飼育管理や取引について、行政のみで指導・監視するのではなく、動物愛護推進員などの役割やその資金的支援を、法律で定めること。また警察などとの連携を強化するなど、公的な役割を通した、法律の実効性を担保すること
  • 絶滅のおそれのある種(ワシントン条約の附属書掲載種、国や地方自治体の保護対象種)を取扱う事業者を厳格に管理し、その輸入元や販売ルートなどを確認できる、トレーサビリティを確保する仕組みを導入すること
©WWFJapan

法律改正を担当する議員へ改善をもとめ要望書を提出

当日は、国会議員のほか、多くの議員秘書や報道関係者、一般市民の方が来場されました。
そして、この勉強会の開催を通じて、これまでの国会議員の間での審議で議論が薄かった、自然への影響などの問題や、ペットなどの問題で課題を抱える地元からの切実な要望を、国会の場に届けることができました。

動物愛護法の改正法案が国会で審議されるのは、2019年5月ごろになる見込みです。

WWFジャパンでは、改正法案が出された後も引き続き、改善に至っていない内容について、審議を担当する議員に働きかけ、法律に附帯する決議を求めていきます。

また今回の法律の改正の行方を追いつつ、日本で取り組むべき自然環境や野生動物保護の取り組みとして、環境行政と法律の改善を目指した提言や働きかけを続けていきます。

©WWFJapan

法律改正を担当する議員へ改善をもとめ要望書を提出

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