スマトラサイについて
2013/10/23
スマトラサイは、東南アジアのスマトラ島とボルネオ島、マレー半島に分布するサイの一種です。熱帯の森に生息しており、地球上に現存する5種のサイの中では最も小さな種といわれ、身体全体がまばらな毛で覆われているのが特徴です。アジアに生息する3種のサイの中で唯一、2本の角を持っています。現在、その総個体数は80頭以下と推定されていますが、減少傾向は続いており、絶滅の危機がきわめて高いとされています。
分布域と個体数
スマトラサイが現在、主に生息しているのは、スマトラ島とボルネオ島です。
かつてはブータンからインド北部、中国の一部、そしてインドシナ半島に至るまで広く分布していましたが、密猟や生息環境である熱帯林の減少により、大陸部にはごく少数の個体が残るだけと考えられており、スマトラ島、ボルネオ島でも同様の危機にさらされています。
スマトラサイは、1900年代の初めから絶滅の恐れが指摘されていましたが、その後も減りつづけ、1993年の調査で確認された約500頭から、現在は世界中で80を下回る個体数しか生息していないと推定されています(IUCN(国際自然保護連合)によると220~275頭)。
分類
スマトラサイは、生息している地域によって、3つの亜種に分類されています。
特に、ボルネオ島に生息する亜種個体群については、ボルネオサイ(学名Dicerorhinus sumatrensis harrisoni)と呼ばれることもあります。このボルネオサイは、20世紀初頭には島全域で見られたものの、すでに生息数が50頭を下回っていると考えられており、絶滅の危険性が非常に高く、その未来が危ぶまれています。
ほか、スマトラ島およびマレー半島に生息するもの(Dicerorhinus sumatrensis sumatrensis)、ミャンマー、インドなどに生息するもの(Dicerorhinus sumatrensis lasiotis)に分類されますが、後者はほぼ絶滅したと考えられています。
和名(学名) | スマトラサイ(Dicerorhinus sumatrensis) |
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分類 | 奇蹄目サイ科 |
サイズ | 頭胴長 240-320㎝ |
体高 | 100-150㎝ |
体重 | 600-950㎏ |
レッドリスト | 近絶滅種(CR) |
ワシントン条約 | 附属書Ⅰ |
生態
熱帯林や低山帯の水源に近いところを好んで生息し、夕方から午前中にかけて活動、日中はぬた場や日陰で休息するとされます。基本的に行動は単独で、ぬた場と採食場を往復してイチジクやマンゴーなどの果実、葉、小枝、木の皮を食します。
寿命は約35-40年。雄は10年、雌は6-7年で性的に成熟し、3-4年おきに、1頭ずつ子を産むと言われます。しかし近年、個体数の減少傾向は衰えず、過去15年間で確認された出産は、スマトラ島の保護区内での1例のみとされています。野生下の個体を捕獲し、動物園で増やす試みも行なわれましたが、一度も成功はしていません。
生息地の現状
スマトラ島は、まとまったスマトラサイの個体群が生息する最後の場所ですが、状況は非常に厳しいと見られています。しかも、密猟者の侵入や、コーヒーやコメ栽培による森の違法伐採と、生息地の分断が続いており、状況は予断を許しません。
ボルネオ島でも、北部のマレーシア領にあるダナム・バレー自然保護区、タビン野生生物保護区の2か所での生息が確認されているほかは、ほとんど報告例がありません。インドネシア領(カリマンタン)では、WWFインドネシアの調査により、2013年にこの地域で20年ぶりに生存が確認されましたが、数はきわめて少ないものと考えられます。
脅威
スマトラサイがこれほどまでに絶滅の危機に瀕している背景には、角を狙った過剰な密猟があります。サイの角や体の一部にはガンの治療薬や滋養強壮としての薬効があるとされ、今も高値で取引されています。こうした薬については、その根拠が科学的に認められていません。
国際社会は1977年、ワシントン条約(CITES)によって、角をはじめとするサイの身体の部位について、すべての国際的な商業取引を禁止しました。しかし、法律をかいくぐって密猟に成功すれば、大きな利益を得られるという構図は今も変わっていません。密猟されたサイの角は現在も、違法に取引され、アジア、特にベトナムや中国に送られています。
そしてさらにスマトラサイを追い詰めたのが、大規模な森の破壊でした。道路やダムの開発や木材伐採のほか、植物油(パーム油)をとるアブラヤシのプランテーションに、森が転換された結果、スマトラサイの生息環境は急速に減少、または生息地が分断されてしまいました。
こうした森林破壊やその先駆となる道路の開発などは、伐採業者だけでなく、密猟者をも森の奥に入り込むことを可能にするため、密猟の圧力をさらに高める、負の相乗効果をもたらすと考えられます。
また、今では各生息地の個体群サイズが小さくなってしまったため、近親交配が進んだり、病気への耐性が弱くなったりする懸念も生じています。
WWFの活動
WWFは、1960年代からアジアに棲むサイを守る活動をしてきました。例えば、サイの生息状況の調査や、保護区の設立や密猟のパトロールを含めた生息域の保全、分断された複数の生息地をつなげる「緑の回廊」づくりを、各国政府やほかのNGOと協力して行なっています。
また、林業やアブラヤシプランテーションに携わる企業に対して、持続可能な森の利用を進めています。さらに、地元の人々が生活や現金収入を得るために、サイの暮らす森を違法に切り拓くことも少なくないため、地域社会との関係づくりにも力を入れています。
一方で、国際社会におけるサイ角の違法取引の現状調査を支援し、その防止と消費国での需要を抑制するため、ワシントン条約や各国政府への働きかけも行なっています。 スマトラサイについては、生態や行動についても未解明の部分が多く、保護を進めてゆくうえでは、生息状況の詳細な調査が必要です。WWFジャパンでは、スマトラ島のブキ・バリサン・セラタン国立公園に自動撮影カメラを設置し、サイの生態を調査するとともに、森林保全のための活動を展開してきました。
WWFは各地域の関係団体と協力しながら、密猟や違法な取引の規制強化を各国に求め続けると共に、サイの生息地の現場での取り組みを、今後も続けてゆきます。
関連情報
出典
Handbook of the Mammals of the world
A Field Guide to the Mammals of borneo
IUCN redlist - Dicerorhinus sumatrensis
WWF Global - Sumatran Rhinoceros
WWF Global - Borneo Sumatran Rhinoceros
WWF Australia - Saving Rhinos
WWF Australia - Borneo's Sumatran Rhinos