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この「工法」で田んぼの魚たちを守る!「ポイントブック」が完成

この記事のポイント
メダカやタナゴ、ドジョウをはじめ、多様な生きものたちが息づく日本の田んぼの自然。しかし、特にコンクリートを使った改修などにより、その豊かさは近年各地で失われ、多くの野生生物が絶滅の危機に追い込まれています。そこでWWFジャパンは、専門家や設計者と一緒に水路などを改修する工事の際のポイントをまとめた「水田・水路でつなぐ生物多様性ポイントブック」を製作しました。これは、農地整備を進める行政の担当者の皆さまに、農業を守りつつ生きものへの配慮の工夫をお伝えするものです。

有明海沿岸の水田地帯

豊かな水田地帯が広がる、九州の佐賀県、福岡県、熊本県にまたがる有明海北部沿岸域。

ここには昔から水田と、それをめぐる「クリーク」と呼ばれる網の目状にめぐらされた農業用水路が、無数に作られてきました。

干潟を干拓して造成した水田が多く、稲作で利用する灌漑用水の確保が難しいこの地域では、古くより貯水池の代わりに、このクリークが掘られ、利用されてきたのです。

流水あり、止水あり、長さも幅もさまざまな、その水路の形状の複雑さは日本随一。

そして、この多様さが、魚類、貝類、水生昆虫、水草類など、多くの野生生物に生きる場を提供してきました。

とりわけ佐賀平野では、現在も全耕地面積の9%に相当するクリークが今も維持されています。

全国有数のコメの生産地でもあるこの水田地帯は、日本の食卓を支える一方、豊かな自然の担い手にもなってきたのです。

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九州・有明海沿岸の水田地帯。多くの野生生物の生息域であると同時に、日本の食卓も支えています。

実際、この佐賀をはじめとする九州の水田地帯には、特に魚類に貴重な種が多く知られています。

アリアケスジシマドジョウ、セボシタビラ、カゼトゲタナゴなどは、いずれも世界でここにしか分布していない貴重な固有種。

さらに、日本全国で見ても希少になっている、カワバタモロコや、ニッポンバラタナゴ、ツチフキ、ミナミメダカなども生息しています。

また、マツカサガイ、ニセマツカサガイなどの貝類、エサキアメンボ、コオイムシ、コガタノゲンゴロウなどの水生昆虫、ヒシモドキ、アサザ、トチカガミなどの水草類なども分布。

日本の環境省やIUCN(国際自然保護連合)のレッドリストに、絶滅危機種として掲載されている種も少なくありません。

この地域に固有の淡水魚アリアケスジシマドジョウ。世界的な絶滅危惧種でもあります。

水田の自然に配慮した「ポイント」

しかし、過去の約半世紀の間に、コンクリートなどを使った水田や水路の近代化と改修が、全国的に行なわれるようになりました。

これによって、多くの水生生物の生息に適した土の土手や砂地、砂利などの河床を持つ水路などの環境が激減。

九州・有明海沿岸の水田地帯でも、固有のドジョウやタナゴ類などの淡水魚を中心に、多くの生物が絶滅の危機に瀕するまでになりました。

そこでWWFジャパンでは2019年春、農業の近代化と同時に、こうした野生生物の生息環境を保全できる、工法のアイデアや、配慮のための重要な観点をまとめた「ポイントブック」の作成を開始。

半年以上にわたり、工夫が可能な技術的なポイントを研究し、実際にこれらの魚たちが、生き続けることができる自然を、どのようにすれば維持・保全できるのかを検証し、その要点をまとめた『水田・水路でつなぐ生物多様性ポイントブック』を作成しました。

凝らされたさまざまな工法の「工夫」

実際、工事の際のちょっとした工夫で、生きものたちが生きる環境は確保することが可能です。

収録したその事例を、一部紹介しましょう。

水生生物の保全に配慮しつつ、農地の近代化を図るには?

© WWFジャパン/Yasushi Nishiyama/Hikaru Sasaki

避けるべき水系の分断とその対処の例

堰などの落差は、必要に応じ魚道の設置を検討する(①)。そのほかの場所は、非灌漑期の水門操作(②)や、灌漑期の水位上昇によって(③)、水路間が接続する時期を少なくとも年に1 シーズン程度は設けたい。
© WWFジャパン/Yasushi Nishiyama/Hikaru Sasaki

堰などの落差は、必要に応じ魚道の設置を検討する(①)。そのほかの場所は、非灌漑期の水門操作(②)や、灌漑期の水位上昇によって(③)、水路間が接続する時期を少なくとも年に1 シーズン程度は設けたい。

水域と陸域の連続性を保つ

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流水水路の計画設計における着目点

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水路床に土砂を貯める工夫

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「田んぼの自然を守りたい!」多くの方のご支援を得て

今回のポイントブックの作成には、いずれも日本の生物多様性を代表する里山や水田の自然の現状と未来に、高い関心と、強い危機感をいただかれている、各分野の専門家にご参加をいただくことができました。

関わっていただいたのは、水生生物の研究者はもちろん、整備や改修に関する工学の専門家、地元の農業者の方々、また実際に生物多様性に配慮した水路などを設計した経験のある設計実務者や、内容の適切な表現を手掛けるデザイナーの皆さまです。

さらに、この取り組みは、WWFジャパンの呼びかけに応えてくださった、多くの方々からのご寄付によって、必要な費用を充当することができました。

「日本の水田の自然、身近な魚たちを守りたい!」

そんな願いを一つにしたご支援と協力の輪が、取り組みを支え、この「ポイントブック」を作り上げたのです。

【寄付のお願い】失われる命の色 田んぼの魚たちと自然を守るために、ぜひご支援ください!

2019年10月から11月にかけてWWFが実施した、水田プロジェクト支援キャンペーン「失われる命の色」。多くの方々にご寄付をいただくことができました。


ご支援くださった皆さまに、この場をお借りし、あらためてお礼を申し上げます。

日本の水田・水路の生物多様性を守っていく一つのきっかけとして

このポイントブックでは、生物多様性保全を進めていくことが難しい水田地帯で、生物への配慮をどのように行なえばよいのか、必要と思われる情報を、生物分野だけでなく、農地整備などの観点からも検証し、アイデアをとりまとめることが出来ました。

フィールドとして、九州・有明海沿岸の水田地帯の自然を想定してはいるものの、その技術は、全国各地の水田景観においても、十分に応用可能な内容が含まれています。

もちろん、ここに収録した情報だけでは解決できない課題もあります。

しかし、こうした工法が広く採用されるようになれば、今、急激に失われようとしている、貴重な自然と、絶滅のおそれのある野生生物を守る手立ては、それぞれの現場おいても、必ず見いだせるはずです。

WWFジャパンとしては、行政のご担当者の皆さまには、ぜひご参照いただき、日本の生物多様性保全に向けた、精いっぱいの配慮を実現する上で、役立てていただければと考えています。

環境保全と、農業振興は、対立するものではなく、未来に向け、両輪で進めていくべきものです。

WWFジャパンは引き続き、地域の行政や農業者、企業、そして中高生や学校関係者の方々と協力しながら、水田に生きる日本固有の希少な生きものの保全を進めていきます。▼

© WWFジャパン

▼資料案内:入手方法等についてはこちらをご覧ください

『水田・水路でつなぐ生物多様性ポイントブック』

成果物:水田・水路でつなぐ生物多様性ポイントブック
著者:
鬼倉徳雄
九州大学大学院生物資源環境科学府附属水産実験所(動物・海洋生物資源学講座アクアフィールド科学研究室)
中島淳
福岡県保健環境研究所
林博徳
九州大学大学院工学研究院環境社会部門(流域システム工学研究室)
西山穏
NNラントシャフト研究室
発行:2020年3月

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