仔トラの列車事故


※2023年6月26日をもって、WWFロシア(Vsemirnyi Fond Prirody)はWWFネットワークから離脱しました。

自然保護室の川江です。
皆さんは「ロードキル」という言葉をご存じでしょうか。

野生動物が道路や鉄道などを通った際に、交通事故で命を落とすことをいうものです。

あまりニュースにこそなりませんが、日本では毎日のように生じているこのロードキル。

海を越えた海外でも、同じように起きています。

今年2月、極東ロシアでは仔トラが列車にはねられるという悲しい事故が起きました。

現場は、ウスリー川沿いの森林地帯で、トラがロシアと中国を行き来できる数少ない通り道の一つ。

列車にはねられた仔トラ

ハバロフスク地方狩猟局により定期的にモニタリング調査が行なわれている場所でした。

犠牲となった仔トラは、まだ生後4~5か月のメスで、死因は全身打撲による脊椎骨折。

現場検証の結果、付近に密猟者などがいた形跡はなく、仔トラの足跡のみが見つかっていることから、線路を横断しようとした際に列車にはねられたと考えられます。

また、事故が起きる前には、現場から30キロ離れた場所で母トラが獲物を捕らえていたことがわかっており、検死のため仔トラの死体を運び出そうとした際にも母トラが周囲を探し回りながら、鳴き声を上げて仔トラを呼び続けていたそうです。

仔トラはもちろん、この母トラのことを考えると、なんともやり切れない気持ちでいっぱいになります。

シベリアトラ

自然界では1才以下の幼いトラの死亡率は、とても高いといわれています。

その上に、こうした事故や密猟、生息地の森林伐採などの人為的な脅威が加わると、トラの個体数回復はより困難なものとなります。

極東ロシアのトラ保護の歴史の中で、列車事故が起きたのは今回が初めてのことだそうですが、密猟は今もまだ続いています。

密猟や違法伐採といったトラの生存を脅かす意図的な犯罪行為は、何としても防いでいかなければいけない。そんな思いを改めて強くした事件でした。

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自然保護室長(森林・野生生物・マーケット・フード・コンサベーションコミュニケーション)、TRAFFICジャパンオフィス代表
川江 心一

京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科修士課程修了。
小学生の頃に子供向け科学雑誌の熱帯雨林特集に惹きつけられて以来30年間、夢は熱帯雨林保全に携わること。大学では、森林保全と地域住民の生計の両立を研究するため、インドネシアやラオスに長期滞在。前職でアフリカの農業開発などに携わった後、2013年にWWFに入局。WWFでは、長年の夢であった東南アジアの森林保全プロジェクトを担当し、その後持続可能な天然ゴムの生産・利用に関わる企業との対話も実施。2020年より現職。

小学生の頃に科学雑誌で読んだ熱帯雨林に惹きつけられると同時に、森林破壊のニュースを知り「なんとかしなきゃ!」と思う。以来、海外で熱帯林保全の仕事に携わるのが夢でしたが、大学では残念ながら森林学科に入れず・・。その後、紆余曲折を経て、30半ばにして目指す仕事にたどり着きました。今でもプロジェクトのフィールドに出ている時が一番楽しい。

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