42年ぶりの巣立ち


「あんな鳥が、僕らの国にはいたんだね」

そんな言葉をかけてきたのは、自分と同じように環境NGOで働く韓国のスタッフでした。

1999年、WWFも参加していた世界の湿地を保全する「ラムサール条約」の第7回会議(COP7)。

その主催国だった中米のコスタリカで、カーニョ・ネグロ自然保護区を訪れた時のことです。

私たち二人の目の前に広がる大湿地帯には、白い鳥の群れる姿がありました。

その鳥はシロトキ。日本のトキによく似た水鳥でした。

トキは、日本だけでなく、かつては朝鮮半島にも生息していました。しかし、1970年代の記録を最後に絶滅しています。

あんな鳥が、昔はいた。

同じ思いでシロトキを眺めていた私は、それとなくかけられた言葉に驚きつつ、嬉しさと残念さがないまぜになったような、不思議な気持ちになったのを、今も覚えています。

このことを思い出させてくれたのは、昨日、野生下で生まれ育ったトキの生んだヒナが、日本で42年ぶりに巣立った、というニュースでした。

中国からトキのペアをもらい、人工的に数を増やして野生に戻す。

環境省をはじめ、国も相当な力を入れた挑戦が始まってから、実に10年以上。

初めて自然界にトキが放たれてから、8年目にして実現した野生の巣立ちです。

シロトキ。南北アメリカを渡る渡り鳥でもあります。今のところ絶滅の危機は指摘されていません。

日本のトキ。野生復帰した個体。

一度、姿を消した生きものをよみがえらせ、再び野生に根付かせるまでに、どれほどの時間や苦労が必要とされるのか。

それを改めて教えられた「巣立ち」のニュースでした。

1つの種(しゅ)を絶滅から守るのは、必ずしもゴールではありません。

その生物が生きられる自然を未来に引き継ぐための、一つのステップだと私たちは考えています。

「こんな生きものたちが、昔はいたんだね」

そんな言葉を、子どもたちが交わしたりすることのないように、「失う前」の努力を尽くさねばと思います。(広報室 三間)

現在、WWFでは手厚い保護下にある日本のトキの保護活動には取り組んでいませんが、1967年と68年の2年間、WWFインターナショナルでは、佐渡島で始まった日本のトキの保護活動を支援したことがありました。私たちWWFジャパンが1971年に設立されるより前(!)の取り組みになります。その時のことを知るスタッフは今はさすがにいませんが、事務局に当時の資料が残っていました。

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自然保護室(コンサベーションコミュニケーション グループ長)
三間 淳吉

学士(芸術学)。事務局でのボランティアを経て、1997年から広報スタッフとして活動に参加。国内外の環境問題と、保全活動の動向・変遷を追いつつ、各種出版物、ウェブサイト、SNSなどの編集や制作、運用管理を担当。これまで100種以上の世界の絶滅危惧種について記事を執筆。「人と自然のかかわり方」の探求は、ライフワークの一つ。

虫や鳥、魚たちの姿を追って45年。生きものの魅力に触れたことがきっかけで、気が付けばこの30年は、環境問題を追いかけていました。自然を壊すのは人。守ろうとするのも人。生きものたちの生きざまに学びながら、謙虚な気持ちで自然を未来に引き継いでいきたいと願っています。

人と自然が調和して
生きられる未来を目指して

WWFは100カ国以上で活動している
環境保全団体です。

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