42年ぶりの巣立ち
2016/06/02
「あんな鳥が、僕らの国にはいたんだね」
そんな言葉をかけてきたのは、自分と同じように環境NGOで働く韓国のスタッフでした。
1999年、WWFも参加していた世界の湿地を保全する「ラムサール条約」の第7回会議(COP7)。
その主催国だった中米のコスタリカで、カーニョ・ネグロ自然保護区を訪れた時のことです。
私たち二人の目の前に広がる大湿地帯には、白い鳥の群れる姿がありました。
その鳥はシロトキ。日本のトキによく似た水鳥でした。
トキは、日本だけでなく、かつては朝鮮半島にも生息していました。しかし、1970年代の記録を最後に絶滅しています。
あんな鳥が、昔はいた。
同じ思いでシロトキを眺めていた私は、それとなくかけられた言葉に驚きつつ、嬉しさと残念さがないまぜになったような、不思議な気持ちになったのを、今も覚えています。
このことを思い出させてくれたのは、昨日、野生下で生まれ育ったトキの生んだヒナが、日本で42年ぶりに巣立った、というニュースでした。
中国からトキのペアをもらい、人工的に数を増やして野生に戻す。
環境省をはじめ、国も相当な力を入れた挑戦が始まってから、実に10年以上。
初めて自然界にトキが放たれてから、8年目にして実現した野生の巣立ちです。
一度、姿を消した生きものをよみがえらせ、再び野生に根付かせるまでに、どれほどの時間や苦労が必要とされるのか。
それを改めて教えられた「巣立ち」のニュースでした。
1つの種(しゅ)を絶滅から守るのは、必ずしもゴールではありません。
その生物が生きられる自然を未来に引き継ぐための、一つのステップだと私たちは考えています。
「こんな生きものたちが、昔はいたんだね」
そんな言葉を、子どもたちが交わしたりすることのないように、「失う前」の努力を尽くさねばと思います。(広報室 三間)