無人島に、何かひとつだけ持っていくとしたら?
2018/05/11
「もし、無人島にひとつだけ持っていくものを選べといわれたら、何にする?」
たわいもない会話ですが、けっこう真剣に考えてしまうものです。
でも、そのとき思い浮かべる「無人島」は、多くの場合、ヤシの木の生えているような南の島ではないでしょうか。
WWFフランスの会長で、単独ヨット世界一周も果たした冒険家、イザベル・オティシエが発表した小説『孤島の祈り』は、2人の若い男女が無人島に取り残されてしまうところから始まります。
しかもそこは、暖かい南の島ではなく、氷河におおわれた極寒の島。食料や水の不安に、「寒さ」が加わると、無人島サバイバルは一気に暗く、殺伐としたものになっていきます。
とはいえ、前半は、「既視感のあるサバイバルもの」で、おもしろくはあるものの、なぜわざわざこの小説を書いたのか、少し首を傾げつつ読んでいました。
しかし、後半に入ると、物語は想像もしなかった方向へと展開してゆきます。
そして、読み終わったあとで振り返ると、無人島に取り残されるのが、1人ではなく2人であることや、場所が南の島ではなく、より死に近い寒冷の地だという設定はもちろんのこと、うち捨てられた捕鯨基地の描写、二人が食料を得るために「ペンギン狩り」をするシーンなど、すべてが周到に組み立てられた要素であったことがわかってきます。
ただ、ペンギンを殺すときは、ほんの少しでいいから迷ってほしかった(笑)。もちろん、それも含めて、この小説の「狙い」であることが、今となってはわかるのですが。
普段は決して見ることのできない、深い深い淵に引きずり込まれるような、かなり怖い小説ですが、読後感は悪くありません。
もし機会があれば、ぜひご一読ください。